その46
「あ、田沼さんッ!! お疲れ様です」
「ああ、うん…」
自分の身体に戻ってから異変に気付く、俺をいじめていた前田達が俺にヘコヘコしている。 そりゃこんだけ鍛えていたんだろうから多少は強くなっているんだろうけど前田の格差にやっぱり驚く。
入れ替わりが載ってあったダークウェブの閲覧は不可能になっていた、URLを入力してももう出て来ない。 覚えてしまったから別にいいやと思うが仮にもう1度誰かとしてみよう…… なんてそんなことしたら俺をあんな風に友達だと言ってくれた広瀬に悪い。 それに懲りた、それぞれ何かしら悩みを抱えてるとわかったから。
「た、田沼ッ! じゃなくて田沼様ッ!! どうしました?」
「様ッ?!」
そしてこいつ、弥生レイカ達のグループも俺を見ただけで慄いている、しかも敬語。 当時はカメラを仕込んだ時ついでにネタにして脅してやろうとか考えてたけど…… まぁところどころ不満は感じるけど。 広瀬から詳細は聞いてたけどここまでとは。
田沼なんかじゃなく田沼だからこそか。 西澤は俺の身体になったとしてもまったく悲観なんてしてなくて寧ろ喜んでたくらいだったしな。
「田沼おはよう」
「お、おはよう…」
俺が西澤じゃないってわかったのに広瀬は普通に話し掛けてくる。
「ん〜…… これが田沼なんだよね?」
「ごめん田沼、百合も田沼とよく話しててさ。 だから入れ替わりのこと言っちゃったんだ」
「あ、そうなんだ」
「よく話してたのはあんたであたしはこいつとはそんな仲良くないからッ」
「百合素直じゃないけど本当は田沼のこと友達だって思ってるからね」
「こら!」
たまに西澤からたまに見てたけどこのシチュエーションが俺になるなんて。
「田沼、百合に可愛がられてるからってあんまり調子に乗らないことね」
「あ、うん」
「ありゃッ、やけに素直だな田沼って」
「ね、変わったって言ったじゃん。 だから百合もよろしくね田沼」
昼休みになり席を立つと広瀬にグイッと腕を掴まれた。
「ちょっと待って、みんなで食べよ?」
「へ、みんな?」
そして連れて行かれたのは西澤のクラスだった。
げッ、西澤も居るしイヤだなぁ。 そんな思いが顔に出ていたのか……
「んだよ、やっぱ俺が居ると微妙になるだろ」
「ちょっと待ってよ西澤」
五木が西澤を止めた。
「田沼ぁ〜、あんたが西澤のフリしてあたしを酷い扱いしてたの忘れてないよ」
ギロッと睨まれるが加藤が「まあまあ」と宥めていた。
「それに! なんであかり達が居るんだか」
「呼ばれたから来ただけだもんねぇー」
五木と広瀬がバチバチと火花を散らしているのが目に見えるようだ。 でも……
「やっぱ俺場違いだな」
ボソッと呟いていた。
「確かにな」
「「え?!」」
西澤は俺に同意した。
「俺もそう思ってたんだ、こいつらのことついこの間までなんとも思ってなかったしな」
「お、俺も私利私欲でとんでもないことしたし」
「何言ってんの2人とも! 結局仲良くなれたんだから結果オーライでしょ」
広瀬が俺と西澤の背中を叩いて言った。
「まあ…… 余計なオマケがついて来たけどね」
「あーあー、聴こえないなぁ、ねえ百合」
「やっぱゆいはいけ好かない」
「てことだ田沼、別にすぐ仲良くなれるなんて思わなくてもいいし合わなかったんならそのままさよならすればいい、気楽に行けばいいんだよ」
「おい要、何適当に締めてんだよ」
「適当なのは広瀬から移った」
だけど結局なんだかんだ良くしてもらってクリスマスパーティにまで誘われてしまった。
「誠司〜、お友達来てるわよ」
「今行く」
誰か迎えに来るとは言ってたけどまさか西澤が来るなんて…… しかも2人きり。
「よぉ田沼」
「あ、ええと」
「どうしたよ? 俺の身体になってた時の威勢はなくなったか?」
「いや…… うん、どうかしてたあの時の俺は」
虎の威を借る狐のようなもんだった、西澤の身体を手に入れた時俺中心で世の中回ってたような気さえしてたから。
「悪かったよ本当に」
「謝罪はくどいくらい聞いた」
そう、広瀬が約束通り一緒に謝ってくれたのだ。 何も広瀬は悪くないのに自分のことのように謝って西澤も唖然としていた。
「広瀬らしいけどな、いろいろ田沼には痛めつけられたけど俺もいろいろ好きにしたしもういい」と。
「まあ反省してるなら慣れないクリスマスパーティで気不味い思いでもしろよ、別に俺は助けないけどな」
それは罰になってるのだろうか? まさかみんなで結託して俺ひとりハブられるのを嘲笑うためのパーティか? と考えたが広瀬も来るしそんなことはないだろうなと思うほど広瀬は優しかった。
広瀬…… あんなにも優しい女が俺を友達だと言ってくれた。 だが俺は広瀬が好きだった、その好きがおかしな方向に行ってしまった。 そして今回の件になり彼女にも迷惑が及んだ、少し前だったらそんなの知ったことかと暴走していたが今は落ち着いている。
広瀬が言ってたように周りに自分と仲良くしてくれる人が出来たからだろうか? その大部分を占めているのはやはり広瀬で俺にとって特別な存在というのは今でも変わらない、けれど俺の好きじゃ広瀬は振り向かない。
広瀬は西澤が好きだから……
「あ、やっと来た〜、遅いよ西澤、田沼」
「てっきり田沼をボコってのかと思ったぞ俺は」
「西澤、早く上がって」
「五木の奴自分の家に要が来たからって気合い入れすぎ、見た時から思ってたけど……」
「うるさい!」
「ボーッとしてないで田沼も行くよほら」
俺に笑い掛けてくる広瀬を見ていると、まぁ広瀬が楽しそうなら、彼女が西澤が好きでそれでこんなに笑顔でいられるならいい。
広瀬の友達として。




