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その42


着いた、元俺の家。 きっとこの中に田沼と広瀬が居る。 




ドアノブに手を掛けようとするが今までのことが走馬灯のように駆け巡る。




田沼で居た頃はなんだかんだはあったが充実していたな。 ああ、楽しかったんだ。 田沼の俺にはいつも広瀬が居た。 そうだ、いつも居たならちゃんと元に戻さないと…… こうなったら仕方ない、出たとこ勝負だ。




ドアを開けると昼間なのにカーテンは閉め切っているので真っ暗だ。 玄関正面2階に続く階段のすぐ前に西澤(田沼)と広瀬が居た、広瀬は意識がないのかグッタリしているのを西澤が支えている。




「よお田沼、いや…… 西澤にしとくか。 うちの親はどうした?」

「ちょっと遠くへ行っててもらってよ。 なに、心配するな無事だから」

「特に心配なんかしてない、広瀬はどうした?」

「広瀬も寝てるだけだ」

「そうか」

「お前学校は? それだけ休んで退学になってないのか?」

「訳ありで保健室登校だったから何も問題ない」




来てたのかよ…… それにしてもあいつの手にはデカいサバイバルナイフ、思った通りの状況だ。 それなら間抜けにも田沼の身体を鍛えちまったのは…… まぁ今更だ。




「広瀬を殺されたくなければこっちに来い」

「広瀬を殺したらあれだけ広瀬広瀬言ってたお前の負けじゃね?」

「万が一の時は俺も死んで広瀬も連れてく。 ずっと一緒だ」



これも予想通り、陰湿な奴め。



「ん……」




広瀬がどうやら目を覚ましたようだ。




「え? これは…… 田沼? えッ?!!」




目の前の状況に酷く困惑しているようだ。 




「おはよう広瀬」

「西澤? な、なんで??」

「おっと危ないから動くなよ、大丈夫だ。 お前のスマホを借りていろいろと状況作りをさせてもらったから何もまだ問題は起こってない、まだな……」

「は? あたしのスマホ? って、いやこれとっくに問題だからね西澤!!」




広瀬は首筋に付いたナイフを見て慄いた顔をする。




「なーに、そこに居る田沼がお前を助けに来たから安心だろ?」

「田沼が…… あたしを助けに?」




この野郎、あくまで西澤を悪者に仕立て上げるつもりだな。 入れ替わった後で田沼が得するように。




「そうだ、お前を助けるために単身ここに来た。 良かったなぁ田沼が居てくれて」

「田沼…… 来てくれたんだ、あたしなんかのために」




広瀬が俺に笑い掛けた。




「田沼、ありがとね。 来てくれたってだけであたし死ぬほど嬉しい。 でも危ないことはしないで」




自分を拘束している西澤に顔を向けて広瀬は言った。




「西澤、よくわかんないけどあたしに話があるならあたし自身にして。 こんなことしなくても話があるならちゃんと聞く、それとこのことはなかったことにするから。 これで何も問題ないよね? だからお願い、田沼を巻き込まないで」

「そんなにあいつが好きか?」

「ここで訊くそれ?!」

「答えろ」

「…… 好きかどうかって訊かれると恥ずかしいな。 けどごめん、死んじゃうかもしれない状況で好きなんて無責任なことあたしには言えない」

「くく、そうか。 田沼!! お前が来ないなら俺はもうお前が考える最悪の手段に出るぞ」

「ぐッ……」




奴が入れ替わりを施した得体の知れない呪文のようなものを唱え始め広瀬の首筋に刃をめり込ませ血が滴る。 何にしたって奴に近付かないわけには行かない、運が良ければこのままあいつを殴り倒すことも……




なんて都合の良いことはなく唱え終わる瞬間広瀬を離し俺の肩に触れた瞬間意識が途切れる。




くそ、身体入れ替えるとかやっぱ反則だろ……



気を失っていたのはほんの少しの間なんだろう、広瀬の声で目を覚ました。




「田沼! 田沼ッ!! しっかりして」




違う、そっちじゃない、なんてこと言っても……




身体が重い、それに眩暈もする。 頭痛もする、力も入らない。 田沼の野郎よくもここまで元俺の身体をボロボロにしてくれたもんだ。




「うぐッ……」

「田沼! 大丈夫?!」

「広瀬……」




結局最悪の展開だ。





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