その4
「ちょいちょい」
「……」
何か隣から声が聴こえるんだが俺に話し掛けてきてるんだろうか?
「シカトすんなし」
「俺?」
「他にいないっしょ?」
「何か?」
誰だっけこいつ? 田沼のクラスは俺のクラスと違うしなぁ。 ええと……
「ひ…… 広瀬 あかり?」
「何それ? まぁいいや、ところで徹夜で勉強でもしたん?」
「いや。 あれくらい普通だろ?」
「あんたって結構成績悪かった気がするけど。 あ、なんで知ってるかって? この前の返されたテスト、隣だからチラッと見えたんだよねぇ」
人のテスト結果覗き見てんじゃねぇよと思うが田沼の野郎成績やっぱ悪かったんだな、いやちょっと待てよ? 入れ替わったのは受け入れたが田沼の家ってどこだ??
田沼の席もよくわからんくて「テメェの席はあっちだろ!」とド突かれてここに座ったくらいだし家を探すとなると…… 先生か?
「なあ広瀬」
「何?」
「話し掛けてきたのはお前だろ、そういえば俺って家どこにあったっけ?」
そう訊ねると広瀬はキョトンとした顔になり笑いを堪え切れないという顔になる。
「ぷぷッ、何あんた? そういう設定? キャラ作りし始めたん?!」
「どうしたのあかり? この陰キャとなんで話してんの?」
「ちょっと聞いてよ百合〜ッ、田沼って不思議君目指してるみたいでさ」
「はあ?」
広瀬の友達らしき奴が加わった、情報は多いに越したことはないがこれはこれで変な誤解を生んでいる。
そして広瀬から大方聞くと「キモい」と俺の方を向き言った。
「やあ〜、悪いけどあんたの家なんてわかんないわぁ、ごめんね田沼」
「いやそれより田沼なんかどうでもいいじゃん」
そういや俺と入れ替わったであろう田沼は俺の家わかるんだろうか?
その日の授業が終わると俺は田沼(俺)を尾行することに決めた。 だが……
「ねえ西澤〜、もし良かったら今日あたしの家に遊びに来ない?」
「ん〜、そうすっかな」
なッ…… んな誘いに乗んなくていいからまっすぐ家に帰れって!
「おい何してんだクソ田沼」
俺の(西澤)のクラスの方を廊下から見ていると例の三馬鹿トリオが来たので俺は仕方なくその場からダッシュで逃げる。
「あ、テメェ何逃げてんだよ!!」
こいつの足遅ぇ…… でも捕まったらもっと面倒そうだしな、ここはこいつらを蒔いて後はそれから考えよう。
だがやはり田沼の脚力と体力では限界がある、俺は最後の手段を取ることにした。 来た道に引き返すようにまたクラスの方に戻り階段を駆け上がったところにトイレがあった。 ちょうど良い、頼む誰も入っていないでくれよと願いながら女子トイレに駆け込む。
「は?!」
「うえッ!! ちょ、なんで??」
「なんで……」
広瀬とその友達だった。
なんで居るんだよ…… まぁ入ってきた俺が悪いんだが。 だが咄嗟に思い付いた、田沼の財布から500円を2枚取り2人の両手に握らせる。
「ちょっと! いきなり触んないでよキモい!!」
「って…… 何これ?」
「それやるから静かにしてくれ」
「いや500円って……」
広瀬は硬貨をみて呆れたように「えー……」と呟く。
「あんの野郎どこ行った?!」
その時三馬鹿の声が聴こえたので俺はトイレの奥の方へ入る。 どうやらあの2人以外は居ないみたいだ。 だが2人を見掛けた三馬鹿は広瀬らに話し掛ける。
「あんたらまたあの陰キャいじめ? ちょうどよッ?!」
広瀬の友人がチクろうとした時遮られたみたいだ。
「ちょうど良かったよ、田沼なら血相変えてあっちに走ってったよ」
「あっちか!」
どうやら広瀬が誤魔化してくれたみたいだ。
「あかり〜、あんた信じらんないんだけど! なんで田沼のこと黙ってんの?」
「んー、なんか面白かったし。 お金も貰ったし? 百合も貰ったじゃん」
「あ… うーん。 押し付けられただけだけど」
思い出したのか広瀬の友人は俺が触れた手を念入りに洗い出した、そこまでしなくても…
「逃げられて良かったねー、つーかあんたはとっとと出て行かないと他の人が来たら悲鳴あげると思うけど?」
「あ… サンキュー広瀬!」
「あ、うん」
広瀬にお礼を言ってその場を後にした。
◇◇◇
「なんかさぁ」
「ん?」
「田沼と友達になったん?」
「あーううん、なんか今日の田沼生き生きしてるなぁって思って話し掛けてみただけ」
「それで?」
「…… 意外と言われてるほどそこまでキモい奴じゃないんじゃないかなって」
「目大丈夫?」
「そうじゃなくて性格! 性格の方」
けれど昨日まで隣の席に居た田沼はいつものキモいと形容されるようないつもの田沼だった、あのままだったら別に話し掛けもしなかったろうけど人ってあんな風にいきなり変わるかな? と不思議に思った。