その35
「んだよ? 用件さっさと済ませろ」
あの後俺は五木にバッタリと会ってしまった。 こいつが俺に向かって「西澤!」とか周りから「は?」と思われる様な発言をしたから人気のないところへと連れて来た。
「あ、あのね西澤」
「田沼だ、それで通せ」
「に…… た、田沼。 あのね、あたしさっきのこと」
「は? さっきってなんだ?」
「レイカのこと」
やっぱりな、俺も余計なことを口走ってしまった。 マジで俺はなんなんだ、くそッ。
「そんなつもりはないって言うかもしれないけどまた助けてくれた」
確かに「そんなつもりない」と言おうとした。
「田沼がいいんなら田沼でもいい、西澤がしたいって思ったことしたらいいよ。 西澤の時には出来なかったこといっぱい。 あたしの中では姿は違っても西澤はやっぱり西澤だった。 姿形なんてちっぽけなことってわかったよ。 だから友達としてでもいい、これからも一緒に居たい」
「…… 居たいって思うだけか?」
「え?」
「これまで散々引っ付き回って来たんだ、俺がウザったいって思っても。 勝手にすればいいだろその代わりお前が泣きを見るかもしれないけどな」
「に…… 田沼ッ」
1度キツく突き放しても懲りずに五木はまた勝手なことを言い出した。 広瀬も勝手なら五木も勝手、面倒な奴らだと思ったがもう俺の中でこいつを突き放すなんていう選択肢はなかった。
バカな奴だ、こんな性悪で見た目も田沼な俺のどこがいいんだかな。
五木がまた泣き出した。 泣けばなんとかなると思ってるのか?
「お前なりに頑張ったんだな」
「うん…… うんッ、ありがとう」
ああ、広瀬と関わったからか、あいつだったらこんな風な言葉を掛けるんだろうかと思ってつい言ってしまった。
◇◇◇
「やぁー、やっとあんたの周り落ち着いたねぇ。 それにしてもあたし周りが信用出来なくなってきたわ」
「あたしには信用出来る人いるし〜。 百合に、そんでもって田沼もね!」
「そりゃどうも」
「こいつ…… 相変わらず」
「田沼には助けてもらってばかりで申し訳ないとは思ってるんだぁ。 何かして欲しいことある? なんでもするから」
「こらあかり! なんでもするからはやめときなって。 カメラ仕込むような奴だよ」
「そうだな、なんでもって言うなら大人しくしててくれ」
「え〜、なんでもするのに」
また普通な日常が戻って来た、えらく退屈だが別に悪い気もしない。 西澤の時だったらクソな毎日だなと感じていた日常も今はそんな風に思わなかった。
◇◇◇
「要ッ、もうやめて!」
「うるせぇクソババアッ!! ぶち殺すぞ!」
バットで目に付くものに当たり散らす。
「こんなの俺は望んでないッ!! 全部ぶっ壊れればいいんだ、何が成績だ、何が将来だ、何がッ、何が!」
疲れると俺は自分の部屋に行きベッドにドサっと倒れる。
何がダメだ? 西澤の身体になってからもちっとも上手く行かない、広瀬も手に入らない。
広瀬…… なんで西澤じゃなくて元々の俺の身体なんかに。
そこで俺はハッとした。
「クククッ、アハハハハハッ!! そうだよ、もう俺はこんなもんどうでもいい! 最高の幕引きしてやるよ…… 待ってろよ広瀬」




