その33
「ゆいも言ってやりなよ、ちょっと可愛いくらいで調子に乗ってさ、ゆいの方が美人だしモテるんだから。 なのにすっかり勘違いしちゃってんのよあかりって」
その場に居なかったけど聞いた話じゃあたしをついでにいじてやるみたいなこと言ってた張本人がこうまで言うなんて呆れを通り越して笑えてくる。
「いや、あたしあんたらの側につくんじゃないから」
「はあ?!」
はぁー、出しゃばったせいで矛先があかりから完全にあたしに向いちゃったよ。 どうしても昔のこと思い出して怖いけどもう後には退けない。
「ゆい、あんたいけ好かない奴だと…… 思ってたけどどういう風の吹き回し?」
「相変わらず百合は失礼ね、こっちだっていっぱいいっぱいなんだから後にしてよ」
「ちょっとゆい! あんた西澤とつるんでるからっていい気になってない?」
「なってないよ、てか誰の差し金であかりと田沼いじめてんの?」
言うと黙る、怖いんだレイカが。 でもレイカだって1人じゃ何も出来ない、だったら孤立させてやるんだ!
「レイカね、あたしにもいじめの勧誘してきたの。 でも間抜けなことにそこのあんたが1人で暴走してあたしもいじめの対象にしようとしたじゃない?」
「うッ……」
「レイカって勝手なことされるの1番嫌いなの」
あたしは過去のトラウマからそういうことをしそうな人間は注意深く見ている、だからレイカのこともなんとなくはわかる。
「勝手に暴走するあんたは使い物にならないし今度目の仇にされるのはあんただったりして?」
「私はただ…… そんなつもりはなくて」
「そうやってレイカの機嫌損ねないようにビクビクして過ごしたい? そんなの疲れるだけだよ、ならレイカの言うことなんてシカトしちゃおうよみんなで」
「だよね、うちらも本当はイヤだったんだ」とか「エグいもんねレイカって」とか「いくらセンコーが放任してるからってやりすぎだよね」とか良い風向きになって来た。
「ありがとう」
「あかり、別にあんたに感謝される筋合いないから」
そう、あたしは西澤にウザッたがれるだけのお荷物なんかじゃない! あたしだって……
「あれれ? 朝から何んなのって思ったらゆいが大立ち回りの大活躍してるじゃん」
え、レイカ? ここで?!
「ゆい〜、いつからそんな偉くなったの? あんたなんていつでもどうにでもなりそうだし西澤の影に隠れてたから手出さなかったけど。 ふぅん、そうなんだ?」
「レイカ…… 残念だけどみんなあんたの言うこと聞きたくないってさ!」
あたしがそう言うと何故か反応が悪い…… へ? なんで??
「あははッ、どっちかって言うとあんたの言うこと聞きたくないってさ、ゆい〜。 あんたみたいな可愛いだけしか取り柄のないバカ女が生意気してんじゃないよ」
そんな。 だ、男子は…… って女子のいざこざには参加したくないのはわかるけど全く使えない。
レイカは私に近付いてポンと肩に手を置いた。
「あんたもあかりとセットでいじめてあげる、そうだなぁ〜、ゆいにはそのご自慢の顔をぐちゃぐちゃになるようにゆっくりたっぷり痛ぶってあげる」
こ、怖いッ…… あたしはさっきまでの思いが後悔という形になり掛けていた。
「ちょっと待ってよレイカ、ゆいは関係ないし。 何か言いたいことあるのか知らないけど文句があるなら回りくどいことしてないで直接あたしに言いなよ」
「じゃあ言ってあげるあかり。 私さ〜、あんたのこと目障りだったの2組仕切って何様だよ?」
「え? 仕切った覚えないし」
なんでもいいんだキッカケなんて…… 適当な理由ふっかければ。
またいじめられるのはイヤだ、今度は誰も助けてくれない、怖い怖い怖いッ!!
「邪魔」
そんな時田沼(西澤)があたしとレイカを避けて自分の席に座った。
「にし…… 田沼ッ」
うッ、ダメだ、西澤を頼っちゃ……
「何朝からやってんだ? 朝は誰か吊し上げる時間になってんのかこの学校」
「た、田沼…… ねえ田沼、あんた随分派手に暴れたんだって女子相手に?」
「あんなの暴れたうちに入んないけど? それに女子に暴力振るってないし。 てか最近俺の周りゴタゴタしててマジで目障りなんだよね」
レイカも勿論田沼のことは聞いてる、それはこの前のことも当然。 険悪だったのに西澤が来てくれて一瞬その空気が揺らいだ。
「調子に乗んないでよ田沼のくせに! ちょうどいいや、あかりのついでにゆいも標的だから」
言った瞬間レイカの顔面のスレスレに西澤がデジカメをつきつけた。
「ビ、ビックリした、なんなのよ?」
「お前も酷いが田沼も相当だぞ」
そのデジカメからレイカ達のイジメの光景が再生された。




