その32
「はい、これで一件落着!」
「じゃないでしょ?! あんたのことはいいみたいな解釈出来るでしょ! それに田沼もあかりのこともちょっとは言及しろ!!」
「いいからいいから〜ッ! あたしのことで田沼を使わなくていいんだっての」
目の前には酷く怯えた女子がへたり込んでいた。
「えっと田沼」
広瀬がソワソワとしながら俺に近付いてきた。
「あ、ありがとう? かな。 でも暴れたりしたら田沼が不利になるんだから無理するなっての!」
お礼を言われたんだから怒られたのかどっちかわからん物言いだ。
「お前を助けたわけじゃないし」
「田沼はそう言うとは思ったけどさ」
廊下を見ると清春がこっちを見ていた、来てたのか。 余計なことを言われると面倒なので話したくはないが釘を刺しておく必要があるな。
「なんだよ、に…… 田沼?」
「お前どこから見てた?」
「んー、結構初めの方からだな」
「お前このこと」
「五木のくだりか? なんで内緒にしておく必要ある?」
ちッ、思った通りだな。
「よくもまぁあんなことしておいて五木のこと言えたもんだ、大したもんだよ。 お前何がしたいんだって見ててずっと思ってたよ」
「黙れ、このこともしあいつが来ても言うんじゃねぇぞ」
「それ脅してんのか?」
「そう思ってくれていい。 いいか、黙っておけよ」
そう言って俺はその場から一旦消え具合が悪いと言ってしばらく保健室に居たが……
「あ、ここに居た!」
「なんだ広瀬か」
「探したんだから。 あ、また先生いないか、ちょうどいいや。 はぁー、まったく朝来たらあんなことになっててビックリした」
「そりゃ目が覚めたろ」
俺は今回の件、自分に害がなければ広瀬のことだろうと極力何もしないことにしていた。 だってそうだろう、俺はこいつと接していく度に自分というものがよくわからなくなってきた、だから首を突っ込みたくない。
加藤に「お前何がしたいんだ?」と問われて俺も自分で何がしたかったんだと思っていた。 五木のことで何かスイッチが入ったみたいに体が動いていてあとはあの有り様。 結果的に広瀬を助ける形になってしまったことに酷く不満を感じていた。
あれだけ五木を突き放しといて五木のことで行動してしまったなんてマジでムカつく。
「にしてもあの子のこと殴るんじゃないかとヒヤヒヤした」
「自分をいじめて来た奴に同情すんな」
「あたしは田沼のこと心配したの! 女子殴ったってなればもっと心証悪いでしょ」
「脅すつもりだっただけで本当に殴る気はないだろ。 まぁああいうのは殴った方が早いんだけどな」
「でもさ」と言って広瀬は俺が寝ていたベッドに座る。
「ゆいのために怒ったんだね。 行動は無茶苦茶で唖然としたけど田沼の気持ちには満点あげたい。 でもそんなにあの子と仲良かったっけ?」
「広瀬……」
広瀬の頭の上に手を置いた。
「え、ナデナデ…… っていたたたたたッ!!」
ムカついたからアイアンクローだ。
「あ、あたしにはガンガン来るな! まぁ全然いいけど」
「あの後どうなった?」
「あー、うん、なんか田沼のこと愚痴愚痴言ってたけど普通に教室の中に戻ったね。 意外だったのは普通に授業して騒がれてない」
「ここのセンコーらしいわ」
とりとめのない会話をした、広瀬は自分のいじめに関してどうして欲しいとか言ってこない。 きっと俺に頼るつもりもないんだろう、俺がそういうの迷惑に感じると思って。
◇◇◇
「西澤お前が見てたこと気付いてないみたいだったぞ、お前もあの後恥ずかしがってすぐ引っ込んだからな」
「あ、うん……」
これは多分やってもあんまりあたしのためにならないしどっちかと言えばあかりが得するけど…… でも西澤の周りがうるさいのは西澤だっていい気分はしないはずだ。
だけどあたしは今の西澤としっかり向き合うってさっき決心がついた、きっとまた酷いこと言われて泣きそうになるかもしれないけど西澤はやっぱりあたしの中では大きな存在だった。
「まぁ何かするつもりなら危なくなったら加勢してやるよ」
「ありがと加藤」
「まぁ田沼に出番取られなきゃな」
次の日、あたしは少し遅めに学校に行って西澤のクラスを覗き見るとあかりが女子達にネチネチ言われていた。
西澤は…… あれ? 居ない、まだ来てないんだ。 まぁいいや、レイカ…… あたしをいじめの勧誘したのも西澤を貶めようとするのもどっちも見過ごさない!
西澤が居ないから怖いけど頑張れあたし!
どうしても捨てられなかった西澤から貰ったウサギのピンをギュッと握った。
「あかり〜、今日は旦那まだ来てないねぇ」
「いやん守って田沼ぁ〜って泣きついたら、あははッ」
「田沼の奴ッ、あかりは普通にいつも通りじゃんか」
「いいよ百合、あたし気にしないし。 ってあれ? ゆい?」
「げッ…… ゆいじゃん」
「あかり、田沼と仲良いみたいだけど調子に乗らないでね」
昨日の西澤のお陰かあたしが出て来たら西澤にやられた女子はあたしを見て怯んだがあたしの態度を見て自分達の味方だと勘違いしたみたいだ。




