その3
なんだこれは? なんだこれ?!
こいつの身体最高じゃないか!! ルックスは勿論パーフェクト、それだけじゃない。 身体も凄く軽い気がする。 そういえば俺に絡んでたクズ共軽く倒してたよな? なるほど、この身体能力ならそれくらいも出来るよな!
「ねぇ〜、さっきから自分の身体確認してるみたいだけどやっぱり今日調子悪いの?」
「ん? いや寧ろ絶好調」
「お〜、要はよ〜」
こいつは…… 確か西澤とよくつるんでた加藤だっけ? ふん、どうでもいいがな。 だが注意しなきゃいけないのは確かだ、何か違和感覚えられると面倒だしな。
「よお」
「…… 珍しいな、いつもはサラッと躱して大体ひとりで教室来てんのに」
「おい、あたしを邪魔者みたいに言うな! それにさっき西澤倒れたんだからね! いつまたクラッとくるかわかんないのに放っておけないでしょうが」
「マジ? お前倒れたの?」
「あ、ああ、ちょっとあってな」
「聞いてよ、田沼の奴がなんかキモいことしたら2人一緒に倒れたの」
「なんだよキモいことって?」
「知らないって」
クソアマが、学年一可愛いとか言われてるから大目に見てはいるが目の前にいる本人のことキモいとかクソ田沼とかよくほざきやがるな。
◇◇◇
間違いなく田沼は西澤と入れ替わっていた、だが最早自分のものではない田沼のことを悪く言われるのは入れ替わったばかりの彼には許容出来ることでもなかったが下手につっこむと田沼をフォローするみたいでそれはそれでこの肉体になったからにはそんな気も起きないがイライラは溜まる。
西澤 要…… この男は息を吐くようにモテてたし本人はそれをわかっていてそれが面倒だから特定の女とも付き合わずに誰にでも素っ気ない。 唯一の例外は友人の加藤 清春だけとは仲がいいように見える。
幼馴染でもあるから特別なことは特別なのだが男同士でもしかして? なんてことも噂されたこともあったがそうではないらしい。 そんなことはさて置き、西澤の身体に入れ替わった田沼は何か思い付いたように「グヘヘ」と笑いそうになる衝動を抑えながら一緒にいた女子へタッチする。
◇◇◇
こいつ…… 俺を侮辱した罪は体で払ってもらおうか? この身体で俺が甘いことを囁けばどんな女だってイチコロな気がする、中身がバカにしてた田沼だってのに気付かないでな、ククク。
「おい、ホントにお前大丈夫か?」
「あ?」
「あんま調子良さそうじゃねぇみたいだし? 普段とちょっと違うっていうか」
…… こいつもう怪しんでるのか? 流石友達と言ったところか?? けど入れ替わりなんて御伽話のようなこと信じるわけないだろうしな。 でもやっぱこいつは要注意だわ。
◇◇◇
「いてて… たくッ! ボコされたのはいいとして顔面腫れちまった、なんて言い訳したもんか」
田沼の身体になった俺はこの傷を先生につっこまれたらどうしようかと考えていた、教室に入るなりボコられた俺を見てクラスの連中はキモいだのなんだのと全く心配する素振りがない。
そして俺の予想とは裏腹に先生が来て俺の顔を見ても冷たい視線を送るだけで特に何も言われなかったので唖然とする。
…… これはこれでなんか微妙だがスルーされるとは。 よっぽどなんだなこの田沼誠司は。
気を取り直して授業を受ける。 身体は田沼でも俺の頭脳は俺のままだからなんてことはない。
「田沼」
「……」
「田沼ッ!!!」
田沼になったがまだ田沼としての自覚が足りなかったのか先生の指名をシカトしたみたいになってしまう。
「はい」
「寝てたのかお前?」
「いえ… 少し熱があるのかボーッとしてました」
「なんだと?」
先生は俺に近付いてきてあろうことか教科書で額を小突かれる。 体罰だろこれ、と思ったが周りの反応は「またやってる」「キモ〜ッ」という冷ややかさ、これがこいつの日常なんだろうなと察した。
「まぁいい、この問題解いてみろ」
「え?」
「え? じゃない!」
黒板を指差して怒鳴る、うるさいので俺は黒板の前まで行きチョークを取り問題を迷いなく解いてみせると面食らったような顔をされる。
「合ってます?」
「お、おお……」
合ってるのが不思議で戸惑う先生と「田沼のくせに」とか「聞いてなかったのに解けたの?」とか「まぐれでしょ」という反応。
そして先生の反感を買ったのか問題の指名はあからさまに俺に集中したが全部解いてみせた。
どうよ?
先生はパチクリと目を丸くしてあとは何も言わなくなった、何度も正解しているのでまぐれではないと周囲もわかったみたいだ。