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その23


「ダメだよ」

「え?」




広瀬が俺の前に来て肩に手を置いた。




「あたしって我儘でさ、そうやって駄々こねられると凄くやる気が湧くんだ」

「だ、駄々こね……」

「田沼が嫌でもあたしはいい。 どう、凄く嫌な奴に一方的なお節介でありがた迷惑されてて? あたしはそれが気持ちいい。 ね、凄く性格悪いでしょ? あたしも田沼のこと言えた義理じゃないんだ」




肩からポンポンと俺の頭に手を当てて子供をあやすように広瀬は俺に言った。




こいつどこまでもバカなのか? 普通だったらビンタのひとつでも飛んできておかしくないはず。




頭に置かれた手を避ける。




「それにしても田沼の本音やっと聞けたな、田沼からしてみればあたしは不細工で不快な声でお節介ババアで……」

「おい、めちゃくちゃ顔が引き攣ってんぞ」




なんだ、堪えてないのかと思えばそれなりに堪えてんじゃねぇか。 そりゃそうだ、何言われても平気な奴なんて居るわけがない、友達だと思ってた奴に言われたんだ。 こいつは今ではこうだが冷静に考えた後で俺から一歩引くはずだ。




「無理すんなよ、自分を不快と思う相手なんて自分を助け合える仲じゃない、お前に何のメリットもない」

「田沼も無理してるよね」

「は?」

「先輩からあたしを助けたのは誰? 西澤の時もどうして駆け付けて来てくれたの?」




こいつッ……




「いいし、どうだとしても。 最初は田沼の評価なんて地の底だったんだからあたしの中ではもう上がるくらいしかないんだから」

「今のでまた落ちたんじゃないか?」

「あたしは一度決めたら中々折れないよ」




一歩引くどころか焚き付けてしまったんじゃないのかと一瞬過ぎる。




「俺帰るわ」

「いやそこで流れぶった切るんかい。 まぁあたしも疲れたし、バイバイ田沼、また学校でね」




完全にしてやられた、あんな奴に俺がグラつかせられるなんて。










◇◇◇









「おはよー田沼ッ!」




あからさまだ、今まで以上にデカい声で教室中に響くようにあからさまに広瀬は俺に構う。




「ありゃシカト…」

「こいつマジで腹立つわ、ぶん殴りたい」

「まあまあ百合、田沼は恥ずかしがり屋だからこれがデフォだし」

「田沼がシカトしたせいであんたがデカい挨拶空気に送ったくらい滑ってんだけど?」

「そう言われるとなんか恥ずい。 あははッ」




その後も俺に嫌というほど絡む。 こういうウザ絡みは俺に取って1番の苦痛…… のはずなんだが広瀬が自分勝手な奴だと認知しているせいか広瀬だしなという理由ですんなりと自分の中に入っていった。







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