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その22


「何してもらおっかなぁ〜」

「もう勝った気か?」

「相変わらず負けず嫌いだなぁ田沼は」

「俺が?」

「そうじゃん、気付いてない田沼? 田沼はどうでもいいとか先輩の勝負で言ってたけど勝つのは諦めてなかった、あたしとこの前の勝負の時もずっと勝つ気でいたし西澤にボコボコにされた時もまだやる気だった。 根性あるよねぇ」




またボールを手に取った広瀬はシュートをすると綺麗に入る。




「あたし今日はきてるなぁ〜、田沼にも勝てそう」

「てかバスケ部員だろ、それくらい入れられなくてどうすんだ?」

「はいはい、そうだね」




広瀬との勝負で俺は頭の中にあった余計なことがスーッと消えていくのを感じた。 僅かにあったんだ、俺の中で友人に辛辣に当たった罪悪感やこれで良かったのかという感情。




「え?! なんで急に上手くなってんの?」

「どっちかといえば得意な方なんだよ」

「うそ〜ん、ズルいぞ田沼」

「どちらかといえばお前も得意だろ」




結局疲れてきたのか広瀬はシュートの精度が落ちてきた。




「うあッ、もうダメだぁ」




広瀬は腕がもう上がらないと降参してしまった、どんだけやったんだ? と思って公園の時計を確認すると広瀬と会ってから2時間近く経っていた。




「あはは、休みの日なのに部活に来たみたい」

「つーか負けた方は勝った方の言うこと聞くんじゃなかったか?」

「げッ!!? 忘れてた、田沼あたしに何やらせる気?」

「お前抜けすぎだろ、そうだなぁ……」




広瀬は珍しく緊張した面持ちで俺をジーッと見て祈る。 




いや別にそこまで無理なこと言おうとしてるわけじゃねぇよ。 と思っていたのだが俺はふと気付く。




え、俺って誰かに何かしてほしいとか全くなくね? 少しくらいは何かあるだろ? 




俺の様子を見兼ねたのか広瀬が口を開く。




「まさかの放置プレイ、もしかしてそれがあたしに対する罰ゲーム?」

「いや今考えてた」

「30分近く経ってるんですけど?!」

「マジで? 俺そんな考えてたんだ」

「どんだけ壮大な命令を考えてたの?」

「俺ってよく考えてみたら人に何かして欲しいとかないって気付いた」

「あれだけ時間掛けて悩んだ挙句にそれ?! あー、もうそんだけ鍛えたり勉強凄かったりするのに欲があるんだかないんだか」

「それはただの癖」

「癖って…… ヒョロガリで赤点ばっか取ってたのに?」




やべ、ついボロが出た。 広瀬は何も知らないから余計なことまで言いそうになるな、ある意味注意しないといけないのかも。




「まぁ思い付かないならそれでいいや、あたしは自分がしたいと思ったこと出来たし」

「え? バスケすること?」

「違う、田沼をスッキリさせること」

「…… スッキリ?」

「いや変な意味じゃないって。 なんか田沼見た時嫌なことあったのかわかんないけど落ち込んでるように見えたから」

「は? 何のために?」

「何のためって… そんな難しく考えることないんだっての、あたし友達とか自分の内側に居る人には超甘いみたいでさ、だからこれはお節介になるのかなぁ? いいじゃん、それで田沼もスッキリしてあたしもスッキリ!」




ああ、そうか。 広瀬に俺がボロを出しそうになるのが。 こいつがバカみたいに優しい奴だから、俺とは正反対みたいな奴だから。




俗な好意を向けてこず悪態をついても軽く流して、自分勝手なくせに人のために何かしてあけたいと考えて。




俺はこいつに吐口になってもらいたかったんだ、今思えば俺が広瀬をこうまで受け入れたのはなんでだ? 親? 友達? 孤独? 虚無感? 俺にとっては全部がクソに思えた。




けど俺が煩わしく思うものが広瀬にはなかった、ただひたすらに与えてくれる俺が欲しいと思った時にくれる無償の……




ははは、田沼のせいで、この精神状態どうかしてるんじゃないか? 俺は本当に俺なのか? 西澤だったら例え友人を見放しても何も感じなかったんじゃないか?




そう、五木に振り向くのもまだ付いてきている、いい加減にしてくれと思っていた。 清春に対しても幼馴染だからといって俺の内面に入り込んで来ようとする行為が不快だった。 表面は華やかな西澤を被って心の中では全員死ねばいいと思っていた。




だから壊そう俺自身が俺でいるために!!




「広瀬」

「ん?」

「俺はお前が嫌いだ」

「え?」

「お前のそのお節介、酷く不快で反吐が出る。 友達だって? 生憎お前がそう決めたからと言って俺はやっぱりお前を友達だと思えない、寧ろ更に嫌いになった。 お前の顔が嫌いだ、声も不快だ。 キモいんだよお前」




そう、これでいい。 これで俺はいつもの俺でいられる。









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