その21
人の家に勝手に来て2人で勝手に盛り上がってる、変わんないなぁ。 俺的にはそろそろ帰って欲しいが。
「それにしてもあんた携帯持ってないとか不便過ぎるでしょ」
「確かにな、あればいきなりなんてことなかったと思うしよ」
あれば間違いなく居留守使うけどな。
「必要ない、そもそも俺に連絡取る奴なんていないし来ても面倒なだけだ」
「うわ、出たよ陰キャ発言。 だからあんたは…… って連絡取りそうなの居るじゃん、あかりとか」
「なんだ、お前広瀬とやっぱ仲良いのか、やるなぁ田沼」
どうでもいい話でこいつらが俺の家に来てから2時間近く経った。
よくもまぁバカにしてた田沼の家でここまで寛げるもんだ、ホントにこいつらは……
「なあ、俺そろそろ出掛けるからお前らも帰れよ」
「お! ああ、もうこんなに時間経ってたか」
「あ、ホントだ」
「図々しい奴らだな」
「あ、えっとなんかいろいろ脱線しちゃったけど西澤のことでごめんね」
「俺からも言っとくよ、田沼にちゃんと謝れってさ」
あいつにそんなこと言ったって聞く耳持つはずないさ。
「謝罪なんて必要ない、あいつが俺に関わりさえしなければそれでいい」
「おいおい、つれないこと言わないでさ、あいつも今ちょっとスランプなのかなんなのか知らないけど本意じゃないと思うんだ」
「だからっていきなり一方的にタコ殴りにしてくるのは如何なもんかと思うぞ」
「田沼も頭突きした、でもそこはあたしも仕方ないって思うから」
思った通りこいつらの前で西澤を否定すると不穏な感じになってきた、ここしかないな。
「俺が西澤の代弁してやるよ、まずこの行動西澤が知ったら余計なことしやがってとそう思うだろう」
「なッ、そんなことない!」
「五木、西澤はお前がいつも付き纏ってきてウザいと思ってる」
「そんなこと… あんたがわかるはずもない!」
「おい、適当なこと言うのはやめろって田沼」
「加藤、西澤の幼馴染かなんだか知らんがたかがそれだけでわかった気になってるお前を西澤は五木と同じくウザく思ってるだろうよ、あくまで俺の考えだけどな」
「田沼ッ……」
清春は拳に力を入れたようだが俺から一歩下がった。
「わかった、仲直りする気はないってことだな」
「そう受け取ってもらって構わない」
「田沼、あんたのこと言われてるほどじゃないって思ったあたしがバカだった! ちょっとはまともになったって言っても中身は最低だね!!」
「そう思ったんならそれは本当にお前の思い違いだな」
2人は帰って行った。
そう、俺はお前らが思うより最低だ。 それでも俺があいつらから慕われてたのは西澤というブランドがあったからこそで田沼じゃそうはならない。
奴らもそこに気付けばバカらしいと思って俺に見限りを付けるだろう。
◇◇◇
「おい待てって五木」
「はあ、はあッ…… ああ、またやっちゃった、ダメだあたし。 すぐカッとなっちゃう」
「まったく、お前は要のことになると熱くなり過ぎるからな」
「加藤こそ幼馴染あんな風に言われてよくヘラヘラしてられるわね!」
「そりゃあ俺もイラッときたけどそこは我慢しなきゃ始まらないと思ってな、いきなり終わったけど」
でもやっぱりだよ… やっぱりダブって見える。
「何か思うとこない?」
「いや、お前が短気過ぎるのが原因としか」
「じゃなくて!! 田沼が西澤に見えることってなかった?」
「…… お前もか?」
「へ?」
「西澤に見えたんだろ?」
「そ、そう!! そんなわけないのに田沼なのになんで?! 加藤もそう見えたんだよね?」
「まぁ…… いや、なんかさ、田沼がそうならなんとも言えなくなるんだけど細かい仕草とか西澤っぽいとこあるんだよなぁ」
「ウソ?!」
「俺だからわかるんだけどな、隠そうとするなら勿論そんなヘマするような奴じゃないんだ西澤は。 けどな逆なんだよ、敢えてやって引っ掛けようとしてんだか…… なんとも言えないグレーゾーンって感じだ。 そもそも田沼が西澤に見えるってこと自体おかしいんだけど確かに何か引っ掛かる」
やっぱり何か変なんだ… 西澤が居るのに西澤じゃない気がする。
「でも普通に考えて田沼が要なわけあるわけないんだけどな」
「そう…… だよね。 でもあたし田沼のこと何も知らないの。 だから何も核心なんて持てないんだ、それにいつも酷いこと言って終わっちゃうしビンタもしちゃったし」
「あいつと話そうって奴が居なかったからな、俺も最初は田沼=キモいって印象だったし」
「…… もう一度」
「え?」
「もう一度田沼に会ってくる!」
「は? あいつ出掛けるって言ってたろ!」
「そうだった…」
◇◇◇
カゴからボールを取り出してゴールネットに向かってシュートした、だが外れてしまう。
「あれぇ〜、集中力足りないんじゃない?」
「広瀬…… なんでここに?」
「たまに来るんだここ」
「動く格好じゃねぇなそれ」
「そ、百合とちょっと買い物行ってきた帰り。 どお?」
広瀬はクルッと回ってみせた。 セーターにキャミソールワンピース姿も似合っていた。
「ま、いいんじゃね」
「はい、ありがとう」
「は?」
「褒めてると受け取った」
「そうか、どうでもいいけどさ」
気を取り直してまたシュートするが今度も外れる。
「あはは、それ先輩との勝負の時じゃなくて良かったよぉ」
「負けてやれば良かったかな」
「ふふッ、もう遅いもんね!」
広瀬は落ちたボールを拾ってシュートすると1発で入れた。
「あたしの勝ち〜」
「勝負してない」
「する?」
「しない」
「じゃあ始めはあたしからね」
「おい話聞いてないのか?」
「やらないならあたしの不戦勝、そして負けた方は勝った方の言うことを聞くこと!」
勝手に勝負が始まってしまった。




