その19
「先生! 田沼は悪いことは何もしてませんッ!!」
「いやぁ〜、そうは言ってもなぁ。 現に西澤は田沼に頭突きされて鼻血を出してるじゃないか」
「その前に西澤が田沼のこといっぱい殴ったんですよ?!」
「けどなぁ… 田沼は大した怪我はないみたいだし」
そりゃそうだ、西澤(田沼)の攻撃は上手く防いでいたつもりだし顔に1発もらって口の端を少し切ってほんのり腫れただけで見た目には西澤の方が酷いように見える。
「口切ってます、あと腫れてます!」
「いや、それよりもなんで広瀬がこいつを庇ってるんだ?」
「あたし見てたんですよ!! 庇うとかじゃなく事実を言ってるだけです」
生徒指導の先生はまったく俺に味方をする気はなく俺が100%悪いという方に持っていくつもりだ、そうなるだろうなと思ってたけど。
「田沼のことは今日の放課後親御さんに連絡、出来れば来てもらって対処するとしよう、それまで待機してるように」
「待って!」
「いいって広瀬」
納得が行かない様子の広瀬を連れて教室に戻ろうとしたが…
「そっちじゃなくてこっち!」
「は?」
腕を掴まれて教室とは違う方向に向かう、着いたのは保健室だった。
「田沼も怪我してんだから」
「それよりお前さっきも無理矢理ついて来て授業に戻んなくていいの?」
「そんなの今気にしなくていいし」
保健室に入るとタイミングが悪かったらしく誰も居なかった。
「ほら、先生も居ないみたいだし。 ってお前何やってんの?」
「居なかったら勝手に田沼の手当てすればいいだけでしょ? 生憎バスケ部で転んで怪我した時とか保健室行ってたから大体わかるし。 ええと… 消毒液は、あと絆創膏貼ればいいのかな? 冷やした方がいいのかな?」
とか言いつつよく分かっていない。
「なあ広瀬、お前こそ大丈夫か?」
「え、何が?」
「さっき西澤止めようとして乱暴に振り払われてた時腕押さえて痛そうにしてただろ?」
「うッ…… 見えてたんだ? あ、いや、そんなの全然大丈夫だし! 田沼の方が酷いし」
消毒液とコットンを持って来た広瀬は俺と向かい合って座ると広瀬が溜め息を吐いた。
「それにしてもムカつく!! 西澤の奴、あれだけ殴ったのに田沼だけ疑われて」
「俺にヘイトが溜まってるからな」
「あははッ、そうだよ。 だからフォローきかないんだよ……」
よく喋る広瀬が黙り保健室がシーンとする。 手慣れてるみたいな感じに言ってたが実際はそうでもないんだろう、俺の口の端に絆創膏を貼った。
「これ必要か? 放っておけば治るのに」
「だって無傷だともっと田沼が不利になっちゃうかもだし…… あの先生に任せとけないし放課後あたしももう一回参加するからッ!」
「いや、そこまでしなくていいよ部活行けよ」
「ダメだよ、あたしが居なきゃ田沼が悪いってなって終わりだよ」
「そんな心配か? 悪くて停学くらいなんだろ」
「心配だよ… 停学もダメ、田沼は悪くないんだから」
「なあ、俺のこと友達って思ってるようだけど俺みたいなのと友達なってもお前に良いこと全然ないぞ、特にお前みたいに友達沢山いるような奴に俺が混じっても」
広瀬にデコピンをされた。
「バカだなぁ田沼は、あたしはそんな風に友達選びなんてしてないよ。 あたしって田沼が思ってるほど友達多くないよ、そうだなぁ… あたしが友達だと思えるのは百合にそれと3組の千華と」
「んー」と唸りながら指で数えながら広瀬は示してみた。
「あははッ、5人くらいしか居ないや。 片手で事足りたねぇ。 つまりさ、何が言いたいかって言うとあたしは田沼と同じで友達だと思われても自分ではなったつもりはなくてさ、なのに自分でこの人良いって思ったら勝手に友達になっちゃうような奴なの! それに田沼と友達になって仮に周りから白い目で見られたとしてもあたしはそんなの友達じゃないと思ってるから全然平気ってわけ」
「話が長ぇよ、つまり勝手な奴ってことなんだな」
「端折りすぎでしょ、まぁいいや」
◇◇◇
「ねえ聞いた西澤?」
「あ?」
「あいつ西澤に暴力振るったのに停学にならなかったって」
「ああ、そ」
あたしは口では西澤を擁護するように言ってたけど何故かホッとしていた。
あんな西澤を見たことなかったからか怖かった…… のかわからないけどあたしはあの時何もできなかった。 西澤を庇うことも田沼に文句を言ってやることも。 違う……
あかりはすぐに田沼を庇ったのに。 違う、違うのに! あれは田沼……
「待って西澤、あたしも一緒に帰る」
何も言ってくれない、あたしを向いてもくれない、前は西澤と少し離れてしまったら西澤はあたしの方に振り向いてくれた。
おかしくなったのは西澤が田沼と倒れてから。 一瞬…… あの時、一瞬階段から姿を現したのが田沼じゃなくて西澤に見えた、あの時お昼のベンチで田沼と話してからあたしもおかしくなってしまったの?




