その16
昼休みに売店の近くにあるベンチでポツンとひとり弁当を食べる。 ここは落ち着く、そう思って食べていると誰かの視線を感じると思ったら売店から五木が出て来た。
ビンタされた以来だなぁと思って弁当に目を落とすと影が差す。 心の中で溜め息を吐いて見上げるとやはり五木だ。
「お前もここに座って食べたいのか?」
「はあ? よく呑気に弁当なんか食べてられるわよね」
「いい加減気付けよ、俺が西澤をどうにか出来るわけないだろ」
でもこいつの勘はいいとこついてる、どうせ真実を言っても田沼の身体をした俺を信じるわけないと思うけど。 更に言うなら客観的に見たら俺は被害者だし。
「西澤がそんな大事か? あいつお前なんか放っておいて別の女と遊んでんじゃねぇの?」
そう言った途端弁当を手で払われ地面に落ちた。 この前の田沼といい食い物広げてるのは危険だな。
「違う! 西澤は苦しんでる、だから他の方法でその苦しみを紛らわせてるだけ」
「よくあんな西澤擁護出来るな?」
「あたしは…… ちょっと変わったからって西澤を裏切らない!」
「声のトーン落とせよ、目立つぞ」
そう言うと目立ちたくはないのか五木は俺の座ってるベンチの端に座った、かなり距離を空けて。
そういやこいついじめられっ子だったよなぁ、元々可愛かったから当時人気者だった先輩に告白されてそれを振って人のことなのに周りが五木に対していじめを始めたんだっけ。 人気者に好かれるって結果はどうであれ本人も相手も面倒なことばっかりだよな。
そんな時俺はたまたま五木のいじめに遭遇してストレスの溜まってた俺は五木のこと助けるついでにストレス発散させてもらったんだ。
それからは先輩と似た様なタイプの俺に好かれてるのかってある意味で女子どもから白い目で見られてたけど俺が助けたんだし誰も文句も言えなくなった、五木ももうそんなことで動じなくなった。
高校も俺と同じとこにしてずっと俺に引っ付いていた。 助けれくれたから、いいや… それが俺に対しての好意だってわかってはいたけど俺はそんな五木の好意に応えることはなく曖昧にスルーしていた。
そんな西澤が豹変してしまったから混乱しているんだろう。 だがまさかその西澤が田沼になってここに居るとは皮肉だよなぁ五木。
「ずっと西澤が変になったままだったらお前どうするんだ?」
「知らない、てか言う筋合いないし」
「お前もそんなんじゃ評判悪くなんじゃね?」
「周りなんて関係ない」
「そっか、じゃあ頑張れよ」
あ、そうだと思って五木の前に手を出すと五木は顔を歪ませた。
「…… これ」
俺が五木に手渡したのはさっき俺の弁当払い除けた時に俺の横に落ちた小さなウサギのピンだ。
それは昔五木と一緒に出掛けた時ねだられて仕方なく安かったから買った。 それをあいつは大層大切にしてていつでも見れるからって袖に付けていた。
なのにたまにこうして落とす時あるんだよな、それを知った時の慌て振りは凄いからな。
「大事なもんだろ」
「な、なんでそれを?」
「いつも付けてたようだから」
「はあ?! どこ見てんの?」
「そんな大事なら袖に付けてんじゃなくて鞄にでもしまっとけよ」
「…… え?! えッ!」
何故かポカンとした顔で五木は俺の方を見て呆然としていた。
俺も内心かなりビックリしたけどもしかして西澤の時と同じこと言っちまったか? と記憶を振り返っていた。
「は?」
「…… な、なんで? こいつは田沼だし」
「おい五木?」
「さ、触んな田沼のくせに!!」
五木は立ち上がりその場を去ろうとしたが振り向く。
「……」
「どうした?」
「あんたと話すんじゃなかった」
少しして戻って来た五木はぶち撒けた俺の弁当を拾い片付け自分が買ったパンを俺に投げ付けた。
「田沼だからってやり過ぎた、ごめん」
「あ、そう」
「でもやっぱりあんたのせいだとは思ってるから!!」
今度こそ五木は行った。
気のせいだよな多分、どう見ても俺が西澤に見えるわけがない。




