その15
「おはよう田沼」
「おはよう」
「相変わらず態度悪いわねぇこいつは」
そんなつもりで挨拶してるわけじゃないが田沼だとそう見えるみたいだ。
「おはよう柳原」
「う、うわぁ…… その無理して作ってる感の笑顔相当キモい」
「百合、本当はあんまりそう思ってないでしょ?」
「は? あかり!」
「あはは、百合ったらムキになって可愛いなぁ。 あ! それより田沼ごめん、夏休み田沼と遊ぼうかと思ったんだけど実家に帰っちゃっててしかもそれが長くてさぁ〜」
「あかりんとこのおじいちゃんおばあちゃんあかりのこと凄く可愛がってたもんね、それにあかりって人当たり良いから余計可愛い孫なんだろうね。 てかなんで田沼と遊ぼうとしてんのよ?!」
ふーん、どうでもいい話題だな。
そう思って広瀬達から顔をそらして廊下側を向くと向いた方の肩に手を回されて顔に髪がフワッと触れた。
「あ、あとねぇ、あたし田沼と友達になったんだ」
言うまでもなく肩に手を回してくっ付いてきたのは広瀬で広瀬のその発言と行動にクラスが一瞬静まり返った。
「ウ、ウソでしょあかり? てか離れなさいよ!!」
柳原が広瀬の脇に手を回して急いで俺から引き剥がした。
「ちょッ、くすぐったいって」
「いやいやいや! つーかお前らジロジロ見てんじゃねぇよ、いつものあかりの奇行だろ!」
「はぁー」と盛大に溜め息を吐いて柳原は広瀬の席に座りその膝の上に広瀬を乗せた。
「え、なんでロックされてんのあたし?」
「余計なことしないように。 友達にするならもっとまともなの友達にしなよ、例えば見た目は西澤みたいなのとか〜」
「あー、まぁそれもありっちゃありだけどさぁ。 ほら、あたし軽く話し掛けるのはいいけどやっぱ気心知れた人の方がいいじゃん?」
「この陰キャの気心知るなんて1番イヤなんだけど」
これが田沼の最終目標ねぇ、たかだか誰かと付き合うことが人生の最終目標とかってとんでもなくめでたい奴だな、なら仮に広瀬と付き合えたらあいつは終わりか? バカすぎて笑える。
「ククッ」
「キ、キモッ、いきなり笑ってるよこいつ」
「え? え? なんか面白かった? ねぇ」
「いや、ただの嘲笑だ」
◇◇◇
「なんだよありゃあッ!!」
チラッと様子を伺ってみれば西澤の奴すっかり広瀬と仲良く喋ってるじゃないか。 あれで好きじゃない? んなわけあるか!
やっぱり広瀬は俺のこと好きだった、まさか西澤はそれを逆手に取ってこの入れ替わりの状況を楽しんでいる? ありえる…… あいつは俺の身体なのに嫌に満足そうだった、それは広瀬の好意があったから。
やけに余裕そうな態度もそれなら納得が行く、俺への当て付けで広瀬の好意を利用してやがるんだ。 なんて最低な奴だ!!
「おい要」
「あ?」
「お前ずっと雰囲気悪いぞ、一応お前みたいなのでもこのクラスじゃ結構中心的な位置に居たんだからさ」
「その居たんだからさって過去形はなんだ? 今は違うってか?」
「そもそもそんなのどうでもいいって拘る奴じゃないだろお前は」
「今は拘る奴って言いたいのか?!」
ついイラッときてガタッと立ち上がり大きな声を出してしまったせいで加藤は勿論クラスのみんなも何事かとこちらを見ている。 このままじゃ浮いてしまう一方だ。
「最近の西澤変じゃない?」
「常にイライラしてるってゆーか」
「もしかしてサイコパスだった?」
「見た目も前より…」
ヒソヒソと俺の陰口を言う声が聴こえてくる。
「な、なあ、お前本当に要… なんだよな?」
加藤がそんなことを言ったが俺は教室から出て行った。
クソクソクソッ!! 教室から出て来たってのに陰口の声が耳にこびり付いて離れない、西澤は勝ち組じゃなかったのか?!
「ほら、百合早く〜!」
「ちょっと待ってったらあかり!」
正面に広瀬の姿が目に入った、その時俺の耳にこびり付いていた陰口が消えた。
広瀬…… 広瀬を見ただけで。 やっぱり俺を救えるのは広瀬だけ。
「え? 西澤じゃん」
広瀬はチラッと俺を見て通り過ぎようとしたが俺は咄嗟に広瀬の腕を掴んだ。
「わッ、ビックリ。 なんか用?」
なんか用? 俺は西澤だぞ、西澤に手を掴まれたら照れるとかそれなりのリアクショ…… そ、そうだった、広瀬が好きなのは西澤になった俺じゃなくて田沼の俺だった。
「…… おーい、西澤?」
ふざけるな、なんのために俺は身体を交換したんだ?




