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魔法の授業ですっ

 エビリス先生が教室に入ってきてから私も含め生徒たちは静まり返った。新世代の魔術師だと言われる先生を目の前に誰も私語を出すことができない。いや、先生の気迫とでも言えるのだろうか。

 とは言え、そう思っているのは私だけのようだ。


「俺のことはケイネから聞いているだろう。このクラスの担任となったエビリス・アークフェリアだ。よろしくな」


 そう端的にだけ伝えると彼は私の方だけ一瞬だけ見た。その目は何かを探るかのような感じがしたが、特に私は悪いことをしているとは思っていない。その彼の鋭い瞳は何か強いものを感じる。ただ、それが一体何を意味しているのかまではわからなかった。


「……ここまで静まるとは正直なところ思ってもいなかった。まぁともかく、何か授業内容について疑問に思っている人はいるか?」


 そう前置きしながらも先生は授業方針についての質問をしてきた。当然のように私は疑問を抱けるほど知識があるわけでもない。

 横へと視線を向けるとサラが何かを言いたそうにしていた。周囲の生徒たちも彼女と同じように何か疑問に思っているところがあるのだろう。そういえば、ケイネ先生が実演した時も周りは驚いていたところがあった。

 確かにすごいことをケイネ先生はしたのかもしれないが、私にはまだそのすごさがわからない。


「と聞いてみてもすぐに手を挙げるような生徒はいないか」


 どうやら声を上げるような生徒がいないと言うことは先生もわかっていたようだ。すると、先生は生徒たちを一瞥するとある生徒へとその視線を止めた。


「サラ・ブライレン、魔法実技の成績は覚えているか」

「え、えっと……」

「大体でいい」

「魔力量に関しては低いものの、それなりに強度はあったと思います」


 そう彼女はクラス分け試験での成績を話した。


「そうか。得意な魔法は?」

「発動遅延型の魔法が得意です」


 彼女の得意な魔法を言うと先生は小さく「なるほど」とだけ言って黒板に何かを描き始めた。どうやらそれは魔法陣のようだ。私には何の魔法陣かわからないが、周りの生徒の中にはすぐに理解できた人もいるようだ。


「知らない生徒もいるから説明する。これは設置型の魔法、炎を出して周囲を明るくする簡単な魔法だ」

「……」

「やってみろ」


 彼女がその魔法陣を眺めていると先生はその黒板から離れてそういった。


「えっ……」


 状況に追い付いていない彼女ではあるが、すぐに把握して真っ直ぐ黒板の魔法陣へと視線を向ける。


「発動はさせなくていい。魔力で魔法陣を描いてみろ」

「はいっ」


 すると、サラは胸元にある魔石を握り込むとそれに力を込め始めた。どうやら魔力を魔石を仲介してから描き始めているようだ。

 薄っすらと空気中に浮かび上がる魔法陣はどうも神秘的だ。午前の授業でケイネ先生が行っていた魔法はそのような魔法陣を展開していなかったが、どうやら魔法にはいくつか種類があるのだろうか。


「……終わりました」


 そう言って彼女は握っていた魔石を下ろした。

 どうやら魔力の充填は終わったようだ。おそらくその浮かび上がった魔法陣はすぐにでも発動できることだろう。明かりを灯すような魔法だと言うそれは比較的簡単な部類なのだそうだ。

 攻撃系と言うわけでもなく、安全なもなのだろう。


「なるほど。二〇秒ほどか」

「……やっぱり遅い、ですよね」

「いや、魔石を使わなければもっと速くなる」


 すると、先生はゆっくりとサラの席へと歩いてくる。


「っ!」


 その途中、一人の女性がビクッと肩を震わせた。


「どうした」

「な、何でもないわよ」


 少し気の強い女性なのだろうか。私はまだ彼女のことは知らないためよくわからないが、先生も特に気を止めることはなく、そのままサラのところへと歩いていく。


「えっと」

「意識しなくていい。その魔石を机に置いて深呼吸しろ」

「……はい」


 そう言って首に下ろしていた魔石を外すと机に置いた。

 それと同時に先生はサラの後ろへと立って、彼女の耳元で何かを口にした。言葉の内容までは聞き取れなかったが、アドバイスのようなものなのだろうか。

 すると、先生は後ろ側から彼女の右腕を持ち上げて真っ直ぐに伸ばす。


「手を広げて俺の魔力に合わせるだけでいい」


 先生がそういうと一気に先ほどよりも煩雑そうな魔法陣が空間へと浮かび上がった。


「えっ、うそっ」

「時間にして七秒ほどだ。少しコツを掴めばサラにもこれぐらいの時間で魔法を展開できる」


 その魔法陣はしっかりと浮かび上がっており、少し遅れて小さな炎が生まれた。その光は淡く、周囲を小さくではあるが照らしている。

 どこかその炎は神秘的にも思える。あのような純粋な炎は今まで見たことがない。これが魔法というものなのだろうか。

 そんな魔法に見惚れていたが、周囲の生徒たちもその様子にはかなり驚いている様子であった。魔石を使わないと魔法はまともに発動することができない。とまで言われていたのは流石の私も知っていることだ。

 しかし、サラは魔石なしで魔法を発動した。確かに黒板に書かれている魔法陣よりかはかなり複雑そうではあるものの、それでも似たような魔法であるのには変わりない。


「今は信じなくていい。後で理解できることだ」


 そういうと先生は再び教壇の方へと向かった。


「冊子で魔法の授業で魔石を使わないと書いた。魔石がなくともちょっとしたコツでいくらでも高速展開できるものだ」

「そうはいっても……」

「納得いかねぇっ」


 すると、サラの言葉を遮るようにして男の一人が声を荒げた。


「アルケスといったな。どこが納得いかないんだ」

「さっきの魔法、あんたの魔力をサラの体を通しただけじゃねぇのか」

「あの魔法を展開したのはほとんど俺の魔力だと言いたいのか」

「そういうことだ」


 何を言っているのかはわからないが、あの魔法はサラの魔力ではなく先生の魔力だと言いたいそうだ。

 とはいえ、サラはそうは思っていないようだ。それは彼女の表情を見ればすぐにわかる。


「サラ、感じたことを正直に言ってほしい」

「えっと、はい。先生の魔力に合わせて私の魔力を流しました」

「俺の魔力は発動できるほど強かったか?」

「いえ、ほんの少しだけでした」


 つまりは直接触れない限りは感じ取ることのできないほどに微弱な魔力、それなら魔法を発動できるほどの量も力もないと言える。


「それでも展開速度が二倍になるってありえねぇだろっ」

「それならアルケスもやってみるか?」

「あっ?」

「庶民ながらも魔法を必死に勉強してきたのだろう。わざわざ貴族の元にまで行って」

「あんた、どこまで俺のことを……」

「そんなことよりも、俺の技術が嘘か本当か、気にならないか?」


 先生のその鋭い質問にアルケスという生徒は少しだけ考え込んだ。彼の反応からあり得ないような出来事が起きたのは間違いないのだろう。実際に彼以外の生徒もサラの展開速度には驚いていた様子だったからだ。

 ただ、それでもコツを掴めば誰でもあれほどの速度を出せるとはまだ信じ切れていない様子だ。私自身は魔法をまだまともに扱ったことがないためにその判断ができないのだが、おそらくは先生の技術がとんでもなく高いということだけはわかった。


「……わかったよ。じゃやってみろよ。俺にもよっ」


 すると、彼はそう言って魔石を机に置くと腕を真っ直ぐ伸ばした。

 それに続いて先生も彼のところへと歩いていくとその場した腕に手を添える。


「最小限の魔力を送る。それに合わせるだけで十分だ」

「さっさとやれよ」

「そうだな」


 そして次の瞬間、彼の目の前に先ほどと同じ魔法陣が一瞬にして出現した。先ほどのサラよりも速く展開することに成功した。


「時間にして五秒ほどか。最初にしては十分な出来だな」

「……」


 まだ理解の追いついていない彼をそのままに先生は教壇の方へと戻る。

 先ほどまで威勢よく発言していた彼ではあるが、先生の技術に圧倒したとでも言うべきだろうか。


「ともかく、この技術は全員にできるものでもない。生徒それぞれに合った方法で魔法を覚えてもらうつもりだ。ただ体験するだけなら問題はない。……それで、他にも体験してみたい人はいるか?」


 そう先生が聞いてみると他にも複数の生徒が手を挙げた。


「思っていたよりも多いな。まぁやってみるか。最初の授業な訳だしな」


 ざっとみて半分近くの生徒が手を上げている。その中になぜかサラも手を挙げていたのだが、もう一度やってみたいと言うことだろうか。

 私もその例に漏れず、手を挙げてみることにした。これで私も魔法を扱えるように、いや、そう考えるのは性急と言えるか。自分の力だけで魔法を扱えないわけには魔術師とは言えない。

 そう自分を落ち着かせるべく深呼吸してから再び手を挙げることにした。

こんにちは、結坂有です。


元魔王であるエビリスの授業はある意味ハードな授業へとなりそうですね。それにしてもこの六組(仮)の生徒たちは一体どのような生い立ちなのでしょうか。その辺りも気になるところですね。


『カクヨム』では最新版を投稿しております。『小説家になろう』では数日遅れの更新となりますので、よろしくお願いします。


それでは次回もお楽しみに……



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