平凡な顔
【顔写真を送って素敵なプレゼントをゲット!】
ぼーっとSNSを眺め、その投稿を見つけた青年はすぐに写真を撮り、応募した。
――ま、どうせ顔が良い奴が選ばれるんだろうがな。
青年は自分の顔に自信があるわけではない。
躊躇しなかったのは平凡な顔だから別に人に見られようが晒されようが悪用されようが、大したことないと思ったのだ。
それに代わり映えの無い日々に退屈していた。こういった当たるか当たらないかドキドキしながら過ごすというちょっとした刺激、楽しみを欲していたのだ。
数週間後、青年の家に荷物が届いた。
大きなダンボールだ。心当たりは一つしかない。
まさか自分が当選するとは思っていなかった。どこかの企業の新商品。その宣伝目的の企画で、どうせなら顔が良い奴に届いた商品をSNSで宣伝してほしかろうと思っていたが案外、平凡な顔も、いや平凡だからこそ身近に思い、好まれたのかもしれない。
そんなことを考えつつ青年はワクワクしながら箱を開けた。
「これは……?」
入っていたのは右腕だった。指先から肩までの。ロボットの腕のようだ。
これが素敵なプレゼント?
青年はその時はそう訝しがったのだが後日、納得することとなった。
また荷物が届いたのだ。中身は左腕。
――と、いうことはこれは組み立て式なのだな。ワクワクさせてくれるじゃないか。
青年は外出せず、荷物が届くのを待った。思った通りその後、右足、左足、胴体と数日置きに荷物は届いた。
しかし、それから更に数日経っても頭の部分が来ない。
痺れを切らした青年は一先ず組み立ててみることにした。
「これで、よしと」
青年はスイッチらしき部分を見つけるとそれを押した。
尤も、頭部がないから動くことは期待してなかった。……が予想に反し、ロボットは動き出した。
動作を確認するように手の指を動かしている。
そしてピーという音を出した。
エラー。頭部がないせいだ。
いつまで経っても来ないのは忘れられているからだろうか。
俺が平凡な顔だから適当な仕事をされたのでは……。
青年はそう思い、溜息をついた。
だが音が止み、しばらくするとインターホンが鳴った。
まさか! そう思った青年は踊るように玄関に向かった。
予想通り、荷物を受け取り戻ってきた青年は鼻歌交じりに箱を開けるとギョッと目を丸くした。
中に入っていたのは人間の皮膚。青年は危うく腰を抜かしそうになったが、よく見ると作り物らしい。触って持ち上げてみるとペラペラで全身タイツのようだった。
恐らくロボットに着せるのだろう。そしてその皮膚の下には待ちに待った頭部があった。すでに皮膚で覆われており、髪の毛もあるようだ。青年はその後ろ髪を掴んで箱から出し、顔を見た。
青年だった。
精巧に作られた青年自身の顔。
青年は驚きはしたが手から落とすことはなかった。
同時に納得もしたのだ。
顔写真を送らせたのはこのためだったのだ、と。
こいつは身代わりロボット。学校やバイトに行かせたり嫌な事、面倒な事はなんでも押し付け……なんてさすがにそこまで高性能なはずがない。
単純に部屋に飾ったり、人に見せて驚かせるためのものだろう。いや、ツーショットをSNSに投稿して欲しいのかもしれない。それをきっと何かの宣伝に利用するのだろう。
何はともあれ待望のロボット。その出来栄えを確かめるべく、青年はロボットに皮膚を着せ、首の接合部分に頭部をグリグリと押し込む。
――ガチリ。
よし、はまった。そう思った瞬間だった。
青年が手を離すと同時に、ロボットは青年の頭部を掴んだ。
そしてそのままペットボトルの蓋を開けるように捻った。
青年は糸の切れた人形のように崩れ落ち、動かなくなった。
ロボットはこれまで送られてきたダンボール箱を丁寧に並べると、青年の体を捻り千切ってダンボール箱の中に分割して入れた。
淡々と、なんてことの無い作業のようだった。