第二話 魔法世界の魔女裁判 4
その瞬間、ホルトは雷にでもうたれたように、すべてを理解した。
頭のなかに彼女たちの思念が、すっとはいってきたのだ——
そうか……そうだったのだ。
彼女たちが禁忌をおかしてまで……全員の死をもってまで蘇らせたのは……
ミケネー族に千年ぶりに産まれた、男の子だったのだ——
女しか産まれない運命を宿命づけれたミケネー族。
そんな彼女たちのあいだに、千年ぶりに産まれた男の子がシーランだったのだ。
シーランは魔女たち全員の寵愛を受けた——
シーランの屈託のない笑顔は、彼女たちの生き甲斐であり、シーランの男らしい仕草は彼女たちの楽しみ、そして魔女族の男しか持ちえない特殊な魔力は、彼女たちの希望だった。
だが12歳になったある日、シーランは謎の病であっけなく命を落としてしまった。
ミケネーの女たちの、命懸けの魔力もおよばなかった。
そのとき、彼女たちの、未来、希望、生き甲斐…… なにもかもが一瞬でついえた。
その悲しみはいかばかりだったろうか。
その絶望はどれほど深かったのだろうか——
そして全員の命をさしだしてでも、シーランを救おうと決断するまで、どれほどの葛藤を重ねたのだろうか?
禁忌をおかせば許されようもない罪を背負うというのに……
なぜ、そんな無茶な決断をくだしたのだろう。
いくら貴重な男の子だと言っても、100人の命とつり合うものだろうか——
ホルトは心の中で問うた。
だが、その答えはすぐにやってきた。
あぁ……
そうだ、なにも難しいことでも、無茶なことでもない——
ホルトはいつの間にか回りを取り囲む魔女の霊たちにむかって呟いていた。
「お・か・あ・さん……」
母なら、息子のため自分の命をさしだすことに、なにをためらうことがあるだろうか?。
ここにいる全員がシーランの母——
血はつながっていなくても、だれもが母親であろうとしたのだ——
ホルトの涙はとまらなかった。
彼は自分を取り囲むように浮遊する、魔女の幽体を見あげながら言った。
「シーランを……あなたたちの大切なひとを思い出させてごめんなさい。でもぼくはシーランではないんです。シーランの代わりになれない」
蒼白い幽体がホルトのまわりを、ぐるぐるとまわりはじめた。
そしてそのまま竜巻のように、上にあがっていくと、空の上で、パーーンとはじけるように飛び散って消えた。
それはまるで夜空に打ち上げられた花火のように見えた。
そしてそれはとてもあたたかな光だった。
ホルトはその光を見あげたまま、気をうしなった。
ホルトは広場のまんなかで倒れていた。
すでに日が傾きかけて夕陽が、野原に赤々とした日差しをなげかけている。
起きあがろうとしたとき、ホルトは自分がなにかを握っていることに気づいた。
それはちいさなブローチだった。
青色の石がついていた。まるで蒼い炎のような、妖しげな色の石——
夕陽が照り返して、ブローチの中に光がさす。
それはまるでいくべき道を指ししめしているようだった。
ホルトはからだについた土をパンパンとはらいながら立ちあがると、広場全体にとどくような声で言った。
「シーランを探してきます」
「そして、お母さんたちがいるこの場所へ、かならずシーランを連れて戻ります」
囁くようなさわさわという音がして、広場をさわやかな風が駆け抜けた。
そしてまるでホルトをうながすように、やさしくその背中をおした。
いかがでしたでしょうか?
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第三話 異世界召喚の勇者たち
わたしどもとは文化も文明も異なる世界から、神のいたずらで召喚されてきた勇者がいることを、みなさまは知ってることでしょう。
巧みに剣をあやつり、多彩なスキルと、おそろしいほどまで強力な魔法をもつあの勇者ですよ。あの勇者がどうやって、勇者たるかご存知でしょうか?
魔王にたちむかうあの凛とした勇気が、どこから湧き出るのかを知れば、みなさまがたは勇者にたいして、ちがう感想をいだくことでしょう
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