第二話 魔法世界の魔女裁判 1
魔女裁判。
皆さまがたのなかには、おもわず苦笑いされた方もいらしゃることでしょう。
剣と魔法のこの世界で、魔女裁判? と。
ですが、かつてある街でこの魔女世界が実際におこなわれたことがあるのです。
判決は—— 死刑でした。
どんな罪をおかしたか気になりますか?
それならば、60年後にその事件に巻込まれた若き青年ホルトの話をお聞きください。
「そこの勇者どの、その街道を通っていくのはやめなされ」
ホルト・クロイツは街の酒場でひとりの老人に声をかけられた。
ひとごとのように聞き流したが、老人に肩をつかまれ、ホルトはそれが自分にむけられたことばだとわかった。
ホルトは老人の手をやんわりとはらいながら言った。
「おじいさん。勇者はよしてくださいよ。まだぼくはパーティーを組むどころか、だれひとりとして、仲間になってくれる者とも巡り合えていないんだから……」
「そうかね。わしにはおまえさんがそれだけの資格を、じゅうぶん持っているように見えるがね」
「あ、ありがとうございます」
ホルトは素直に感謝のことばを口にしたが、これが酒の一杯でも驕ってもらおうというこの老人の手口ではないかといぶかった。
「すみません。お酒をおごれるほど、手持ちがないんで……」
「だれもおまえさんに集ろうだなんて、これっぽっちも考えちゃおらんよ」
「あ、あぁ、失礼しました」
ホルトはすこし気まずい気分で、老人の顔をのぞき見た。
賢者を思わせるローブ姿の老人は、フードをかぶっていたため、顔はよく見えなかったが、目の下や目尻には深い皴が刻まれ、頬はいくぶん垂れ下がっていた。顎をおおう立派な髭は白いものが目立っており、相当年を召しているのは感じ取れたが、ホルトを見る目は、とても老人のものとは思えないほど鋭かった。
その眼光だけで、この老人がただならぬ人物だと感じ取れた。
「でも、なんでその街道を通っちゃいけないんです?。もしかしたら、ゴブリンとか、ワーウルフとかがでるんですか?」
「いいや、この街道はとても安全だよ。街道は路面も整備されているし、魔物や肉食獣なんぞ潜り込めんようになっておる」
「ーーですよね。ぼくもそう聞いてたから、こちらの街経由で王都に向うことにしたんですから」
「だがーー、おまえさんは、ちとまずいのだよ」
そう言いながら老人が壁に貼られた、一枚の絵をさししめした。
それは古めかしい額にはいった肖像画だった。おそろしく精巧をきわめた、複雑な紋様が彫られた額は、その絵に威厳を与えていたが、ところどころ破損し、木材の一部がくすんでいて、かなりの年代ものであることがわかった。
ホルトはその絵から目がはなせずにいた。
そこに描かれた人物が、自分そっくりだったからだ——。
「こ、これは……」
「おまえさんにそっくりだろう」
「ええ。年は12、3歳くらいだけど……これは……ぼく、そっくりだ」
「そう……。だから、おまえさんがその街道に近づけば、ミケネーに取り憑かれるかもしれんのじゃ」
「ミケネー?。誰なんです?」
「それを説明するには、いにしえの事件を話さねばならん……」
老人は声をひそめて言った。
「実は60年ほど前、この街の裁判所で、魔女裁判が開かれたことがある」
「えっ?」
ホルトはおどろいた。
「ここは剣と魔法の世界ですよ。魔女裁判ってどういうことです? 魔女がいてあたりまえでしょう?」
「そうだな。だがあった……」
「そして『死刑』の判決がくだされた」
「バカな。この世界で魔法を使ったとしてても、それは魔女だからあたりまえのことじゃないですか?」
老人はおおきく息を吐きだしながら言った。
「黒魔術が使われたのだよ」
「いや、そんな……ばかな……」
ホルトは耳を疑った。
「ぼくはマーベルグ魔法学園の出身ですが……」
「ほう、名門だな。あそこはじつにいい学校だ」
「いえ、どうも……」
「だが、黒魔術については、まったく教えてくれなかった?」
「そ、そうです。存在しないということは、なんとなく感じ取れましたけど、一度もその話が授業で言及されたことはありません」
「だが黒魔術は存在するのだよ」
老人は念をおすように言った。
「おまえさんはマーベルグ魔法学園の『戦士科』だったのではないかね?」
「ええ、そうです。ですが魔法についても魔法科と同等のカリキュラムを……」
「魔法科の生徒にしか教えんこともあるのだよ」
「ぼくの魔法科の友人からも、そんなことは……」
「死んだ人間を蘇らせた——」
老人のひとことで、ホルトはことばを続けられなくなった。一瞬にして思考の一部がふっとどこかに飛んでいったような気分だった。
「ま、まさか。それは禁忌中の禁忌……」
「そう。黒魔術は、最愛の男、シーランを生き返らせるため使われた」
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