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第六話 複数の頭を持つ女 2

「あのふたりの魔法と魔術を目の当たりにしたら……」


ダルーは苦笑気味に言った。

「いやぁ、それは凄まじかった。一瞬でノックアウトされちまった……」


「なにをやったんです?」

「右側のライがまずは『投擲(とうてき)魔法』をつかった。あたりにある石やら岩を相手に投げつける、あの魔法さ」

「失礼ですが、ずいぶん地味……ですね」


「と、思うだろう……」


「だが、その石つぶてはヒュンベルデの実を穴だらけにして、岩は樹を真っ二つに叩き折ったんだ」

「まさか?、ヒュンベルデの実はローンズデライト鋼で打ちだした剣でないと斬れない、この世界でも五指にはいる硬さのはずでしょう?」

「あぁ、そのとおりさ。しかも樹のほうは表皮を削るだけで一本剣がダメになるっていうほどの堅牢さだ。それを一撃でへし折りやがったんだ」

「そ、それはすごいですね」


「だが、それだけじゃねぇ。左側のレイの魔術も凄まじかった——」


「彼女が使ったのは『光魔法』—— 詠唱にちぃとばかり時間はとられたが、その手から打ち出された光の玉は、二キロメルト離れたちいさな島を一瞬で消し飛ばしやがったのよ。

信じられるか? 遠くに見えていた島が消えたんだぜ」


 ホルトはその威力を想像し、おもわずごくりと咽喉をならした。

「聞いたことないほどの威力……だと思います」

「な、そうだろ。反射的に自分のパーティーに加わってほしいって、オレが申しこんじまったの、わかるだろ?」

「ええ、それはわかります。そんな仲間を手に入れたら、冒険者どころか、国のひとつも手に入れられそうだ」


「ああ、そうさ。そのときのオレもそんな気分だった……」


「もちろん、仲間は反対したさ。複数の頭をもつ種族を仲間に加えるのは禁忌だってことを知ってたからな。だが、オレは逆に反対するヤツを追放した。この女さえいれば、数人分、いや数十人分になるとわかっていたからな」


「では、そのあとの冒険は、うまくいったんですね?」

 ホルトがいくぶん興奮気味に言った。

 が、ダルーはふいに顔を伏せた。さきほどまでの華やいだ雰囲気が嘘のように、沈欝な表情にしずんだ。


「いや、そうは……そうはならなかった」


 ライとレイと一緒に旅にでたダルーは、それまでの不遇が嘘であったように、うまくいきはじめた。上級のクエストを何度も成功させ、ダンジョンのいくかでアイテムを次々と手に入れた。

 ギルド内でもダルー・パーティーは注目の的になりはじめていた。ダルーはいく先々で、自分たちの噂を耳にするようになった。

 冒険者としての頂点へ登りつめるのは、時間の問題だと胸が躍る思いだった。


 だが、ダルーは幸せではなかった。


 それはライとレイの仲のわるさだった——

 ことあるごとに競い合うのはよかったが、一番槍を競いあっていつももめていた。そのせいで手遅れになりかけたり、魔法と魔術が同時に発動して、仲間を殺めそうになったりした。



「ライ、静かになさい。私が詠唱中です」

「レイったら、わたしがもうあらかた倒してるのよ。いまさら残党を倒して、やった感をだされてもねぇ——」

「あなたのやっつけたのは先鋒にすぎません。本隊は私が片づけます」

「ふうん。わたしの手柄を、たいしたことないって、おとしめるんだぁ——」

「実際、たいしたことがないでしょうに……」

「わたし、あなたの頭、吹き飛ばしちゃおうかなぁ」

「できるものならどうぞ。私はその瞬間にこの身体をあとかたもなく無くしてやりますから」


 毎度、このような喧嘩がおきた。

 至近距離で、まさに顔をつきあわせての喧嘩は、お互いを引き離すこともできないため、延々とつづいた。

 敵の大群を殲滅(せんめつ)したあとですら、ずっとお互いをののしりあった。



「それはずいぶん神経をすり減らしたことでしょう」

「ああ、戦闘中もそうでないときも、つねになにかしらいざこざを起こしているのだからね。高名になった我がパーティーにあやかろうと、ずいぶんいろんな連中が加わってきたが、それが理由でみんな去っていったよ」


「それが、複数の頭をもつ種族にかかわるな、という戒めだったわけですね」

 ホルトは同情も交えながら言った。

 だが、ダルーはよわよわしく首をふった。

「そうではないのだ、若いの」

「え?、こんなたいへんな目にあったというのに……ちがう……のですか?」

「オレはいまはこんなにやせ細って、ずいぶん年も食ったが、当時はあんたとおなじように若々しく精気に満ちていたし、自分で言うのもなんだが、いい男だった——」


 ホルトはダルーの顔をまじまじと見つめた。

 たしかに深い皴がきざまれ、眼窩や頬が落ちくぼんで、年齢を感じさせたが、マーマン。・ブルーの瞳、すっと通った鼻筋やほっそりとした顎のラインには、彼がハンサムであった頃の面影がしっかりと見てとれた。

 年を食ったと卑下しているが、男からみても格好のいい年の取り方で、円熟味を増した男臭さは、あらたないい男っぷりを感じさせる。


「いえ、いまでも充分いい男だと思いますよ」

「そうか……ありがとよ、だが、この男っぷりがアダになっちまった」

「ど、どういうことです……」


「惚れられちまったんだよ…… ふたり同時にな」

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