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ユメ見るセカイでキミは微笑む  作者: 桜城カズマ
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第5話「私可愛いし、成績いいから」

そんなこんなで迎えた昼休み。僕は今、担任の先生に呼び出しをくらっていた。

場所はもちろん職員室。内容は入っては来ないものの、先生たちの雑談の声が聞こえる。

先生に呼び出しなんていつ以来だろうか。小学生の頃に何かをやらかして呼ばれたきりかもしれない。


「なんで呼ばれたのかわかるか?」

「はい。授業中に夢さんをじっと見ていたことですね。すいません、反省しています」

「そうだな、年頃の女の子……に、限った話じゃないが、女性というのはそういった邪目線に対して敏感なものなんだ」


と、至極まっとうな意見を申し上げる、ガッチリとした肉体を持つ彼は、僕の担任であり体育を担当している大熊秋先生。身長179センチもある大男だ。今年で25歳だそう。

生徒からの信頼も厚く、多くの人に好かれる性格をしている。左薬指には指輪が光っている。


「おい、聞いているのか?」

「はい、聞いています。女性を邪な目線で見てはいけないという話ですよね」

「ああ、聞いているのならいいが……まあなんだ、お前はこういったことで注意されることはないと思っていたから、ちょっと意外だったな」

「そうですか?」

「そうだぞ。オレの中でのお前は無口で、いつも一人の暗いヤツで特に問題行動なんてしない、ある意味とても良い生徒だったからな」

「あー……それは……」


思っていたのとは全く違った言葉に思わずほんの少し傷つく。悪気があるわけではないというのはわかっているものの、やはり傷つくものは傷つく。


「すまんすまん、傷つけたのなら謝る。悪く言いたかったわけじゃないんだ。ただ以外だったということが言いたかっただけで」


と、先生は右手を立てて頭を下げる。こうやって自分の非をすぐに認め、謝る部分も人から好かれやすい由縁なのかもしれない。


「まあとにかく、今後気をつけてくれればそれでいいから。後で改めて本人にしっかり誤っておけよ?」

「はい。ごめんなさい」

「おう。じゃ、昼休みを楽しんで来いよ」

「ありがとうございました」


僕は先生にそう言い残して職員室を退室する。案外軽い感じだったな……とほんの少し安堵した。

廊下は、騒がしかった職員室とは打って変わって、しんと静まり返っている。静かな場所は嫌いじゃないが、先生に怒られたあとだとなんだかバツが悪いのも相まってかなんだかいづらさを覚える。

こういうときに待っていてくれるような友達でもいたら気が楽になったのかも知れないが、あいにく僕はこの学校には友達らしい友達は一人しかいない。スマホのメッセージアプリの中にはクラスのグループを通じて登録した人たちが何人かいるが、いずれも「よろしくおねがいします」と送って以来やり取りがこれと言ってないし、その一人は連絡手段すらない。


「やっと出てきた。キミのことは気持ち悪いと思うけれど、ちょっと気になることもあったから待っていてあげたわ」


早く教室に戻って昼食を食べようと思ったのだが、そんな僕を引き止める声が静かな職員室前の廊下に響く。落ち込んで下を向いていた僕は、その声に驚きと期待が入り混じった、不思議な感覚で顔を上げた。

そこには夢さんがいた。

南に昇る太陽に照らされているせいで後光が指しているようにすら見える。


「夢さん……ひいっ!?」


僕が彼女の優しさ?に涙仕様としていたところを、彼女に胸ぐらをつかまれた。予想外すぎる展開。夢の世界とこっちの世界でギャップありすぎじゃありませんか?


「うっ……ぐっ……!?」

「心配しなくていいわ。私が今胸ぐらを掴み上げているところを見られても、教師陣からは仕返しをしているとしか思われないわ。私可愛いし、成績いいから」


右手だけで僕の胸ぐらを掴み上げる彼女は憎たらしいまでにかわいいドヤ顔で僕のことを見る。

ギャップなんてかわいいもんじゃなかった!顔は可愛いけど中身は真っ黒だ……!?


「まあ、正直そこまで怒っていないのだけれどね。私、可愛いからそういう視線には慣れているから。ただ、『手首を見ていた』なんて言われたのは初めてでちょっとばかり気になったから話しかけてあげたわ。感謝しなさい」


おい、だいぶ性格違うぞ。もっと夢さん可愛くなかったか?こんなにムカつく性格していたか?

内心彼女のギャップに押しつぶされそうになるが、文句を言っても面倒なことになりそうな気配がするので話を合わせておくことにしよう。


「そうか、ありがとう。で、いつになったら離してくれるんだ?」


僕がそう言うと彼女は少し意外そうな顔をしてからそっと僕の胸ぐらから手を離した。


「あら……この態度をとってそんな風に対応されたのはあなたで2人目よ」

「そうかい……てか、うざがられるってわかってるならやめとけよ。夢さんかわいいんだからもっと愛想よくすれば絶対友達もっとできるだろ」


僕のその発言に彼女は更に驚かされたような反応をする。


「あら……そんなことを言われたのも2回目だわ。遠い昔、似たようなことを言われた」

「おい、昔からなのかよそれ。てか、言われたときに直さなかったのかよ」

「直したわ。直したけど……級に愛想良くなるものだから、友だちができるどころか同性からはいじめられたわ。まあ、男子人気はうなぎのぼりだったけれど」


しれっと強気な発言をする夢さん。先程から僕の中での夢さん像がボロボロと崩れていく音が止まない。


「はいはい……それで、聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

「ああ、そうだったわ。ここで話すのもなんだし、教室へ戻りましょうか。いえ、あまり聞かれたくない話だったのよね……?じゃあ、他の学校では安全性のため閉鎖されているものの、なぜか開放されているうちの高校の屋上へ行きましょうか」


なんかすごい余計な言葉があったような気がするが、もう無視することに決めた。いちいち突っ込んでいたら埒が明かない。


「よかったわね、私みたいな超絶美少女と一緒にお昼ごはんを食べられるなんて」

「え?」

「え?って、キミ、お昼まだでしょう?私もまだなの」


そんな感じで、昼休みに可愛い女の子と一緒にお昼を食べるという男子高校生なら誰もが憧れるシチュエーションが僕に訪れたのだ。

夢さんはウザイところが多くあるが、可愛いのは事実なので、内心少し嬉しかったのは内緒だ。いうと絶対また何か言われると思ったから。


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