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ユメ見るセカイでキミは微笑む  作者: 桜城カズマ
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第4話「……ふふっ。やっぱり、また来たのね」

「……ふふっ。やっぱり、また来たのね」


目を開けると、そこには夢で見たときと同じ景色が広がっている。

僕は椅子の上に座っていて、夢さんらしき女の子は僕の目の前に机一つを間に挟んで向かい合って座っている。

女の子は楽しそうに笑っている。


「びっくりしたわよね、ごめんなさい」


表情は一転して、申し訳無さそうな顔をして頭を下げ、謝る。

その表情に嘘は感じられなかった。


「君は……夢さん、なのか?」


女の子が頭を上げたらすぐに僕は単刀直入に質問をした。


「そうよ。私は結夢。正真正銘のね」


そういう彼女はニッコリと笑う。その可愛らしい笑みに、おもわず見とれてしまいそうになる。


「……本当か?今朝君に挨拶をしたとき、初めて話すような顔をしていたぞ?」

「ああ、それね……それは、その、あなたはこの世界のことを覚えていても、現実の私は覚えていないの」


夢さんは、嘘を言っていないように見える。


「そう、なのか……」


それなら、たしかに先程現実で会った夢さんが怪訝な顔をするのもわかる。だが……。


「けど、なんでだ?なんでこの世界に慣れてそうな夢さんは覚えていなくて、初めて知った僕は覚えているんだ?」


そう、僕がこの世界について知っていることは全て彼女から聞いた。彼女はこの世界にとても詳しそうだった。この世界に慣れているようだった。

にもかかわらず、「現実の夢は夢の世界を覚えていない」という理由がわからない。

僕の質問に、一瞬ためらったような仕草を見せる。


「それはね……彼女は、『守られている』からよ」


夢さんがそれを言った途端、僕は最初に夢の世界から覚めるときに感じた浮遊感を覚える。

そして、「夢から覚める」と確信する。

だが、まだ覚めちゃだめだ。大事なことを聞けていない。必死に夢の世界に留まり、彼女の紡ぐ言葉を聞き取ろうとする。


「彼女の……手首を……が……」


だが、聞き取れたのはその程度のもので、肝心な部分は聞き取ることはできなかった。

そして、


「……またね」


覚める直前、頭の中に夢さんの声が響いた。



☆ ☆ ☆



「大丈夫?」


目を覚ますと、真っ白な天井が広がっていた。

少し心配そうに保健室の先生が僕の顔を覗き込んできている。

僕は先生に「大丈夫です」と答える。

そして、先程夢さんから聞いた情報を思い出す。夢さんの手首になにか手がかりがあるらしい。

それはそれとして、今は何時だろうか。眠ってからそれほど時間は立っていないように感じるが、どうだろう。


「先生、今って何時ですか?」

「え?えーっと……9時くらいかしら。1限目の途中くらい」

「そうですか……」


やはり、それほど時間は経っていないらしい。予鈴が鳴って、保健室に着いたのが8時30分くらいだか

ら、30分ほどしか寝ていない。


「どう?体調良くなった?」


大丈夫とさっき行ったのに、先生はまだ心配そうだ。


「大丈夫ですよ、ちょっと寝れたからかだいぶ楽になりました。ベッド、貸してくれてありがとうございました。じゃあ、僕は授業を受けに行ってきますね」

「あ、あら、そう?確かに駆け込んできたときよりも結構顔色良くなってるわね……。もしまた体調悪くなったらいつでも来てね」

「はい、ありがとうございました」


僕はそう言って起き上がると、もう一度礼を言ってから「失礼しました」と保健室を出る。

夢さんの手首に何があるのかを確認したいという一心で、僕は授業中ということで静かに廊下を急いで歩いた。

教室に入ると、やはり注目を集めたが気にしない。授業中だった先生に事情を伝えてから僕は席についた。

数学の授業。先生が問題を読み上げ、罫線のプロセスを説明しながら適宜生徒に質問していく。数学が苦手な生徒たちはいつ自分たちが当てられるのかヒヤヒヤしながら。余裕そうな生徒たちは先生の合間あいまに挟む冗談に笑いながら、授業は進んでいく。

夢さんは当てられても淡々と答えていた。こうしてよく観察をしてみると、夢の世界の夢さんと、現実の夢さんとで、だいぶ違いがあることに気づいた。


まず、夢の世界の夢さんは表情がコロコロと変わっていくのに対し、現実の今見ている夢さんは表情の変化が乏しい。後ろから見ている性もあるだろうが、よく考えたら普段からあまりフョ有情が変わっていることを見たことがない気がする。


次に、これはなんとなくだが、現実の夢さんのほうがだいぶ遠い存在のように感じた。

夢の世界の夢さんは、親しみやすくフレンドリーなのに対してこちらの夢さんは誰も寄せ付けないオーラを放っている。事実夢さんに質問をするときだけ、数学の先生でさえも一瞬質問するのを躊躇したように見える。


とまあ、授業が終わるまで板書を取りつつ、僕の視線は気付かれないように気をつけながら夢さんの手首に集中する。

だが、これと言って、おかしなところは見当たらなかった。ただまあ、後ろからしか見ていないし仕方がない。今日の授業はまだまだある。


だが、ここで1つ問題が発生した。


僕は夢では夢さんとまともに話せているものの、現実の夢さんとは全くもって接点がなかった。

夢さんの友達も知らないから、友達の友達として話しかけよう、なんてこともできない。というか、彼女がこの学校で誰かと親しげに話していることを見たことがないなと気づいた。

いわゆる、「詰み」というやつだ。いや、今日の夜にまた夢の世界で会って夢の世界の夢から話を聞き出せるかも知れない、という可能性は無きにしもあらずだが、不思議と今日はもうあの不思議な世界に行くことはできないような気がしている。

困った……と、頭を悩ませていると、不意に肩を優しく叩かれた。

顔を上げると、そこには夢さんがいた。これはラッキー……などと、思うことはできなかった。

なぜなら、僕のことを見る夢さんの目は、不審者の目を見る目そのものだったからだ。

もしや、授業中ずっと見てたのバレてた……?


「キミ、授業中ずっと私のことを見てたわよね?何か用があるのなら言って?」


左手を腰に手をやり、机に右手を置いて僕を攻め立てる。やっぱりバレていたらしい。勘が鋭いのはどっちの夢さんも変わらないのかも知れない。


「なにか言ったら?」


僕が何も言えず黙り込んでいると、それが気に障ったのか顔を寄せてくる。

めちゃくちゃ近いというわけではないが、この距離で彼女のことを見るのは初めてなだけ、かなり緊張して、さらに僕は言葉を紡ぐことが難しくなる。

いつしか周囲の注目を集めており、廊下側の窓が一瞬目に入ったときには多くの生徒が野次馬をしに来ている事がわかった。


「そう、何も言わないのね。じゃあ先生に『同じ教室に変態がいます』と報告することに――」

「待って待って待って!違うから!これにはわけがあるの!」


夢さんは冗談ではなく本気で教師陣に報告しようとしているのが雰囲気で伝わってきたので僕は慌てて止めにかかる。


「はあ。それで、わけって?」

「それは、その……」

「言いづらい理由なのね?わかったわ――」


僕がまた言いよどむが、夢さんはちょっと――顔が近い僕以外にはわからないくらい――口角を上げた。意外とわかってくれる人――


「先生に報告するわ」


じゃなかった!全然わかってくれてなかった!


「違う!本当に、違うんだ!その、君の手首が気になって!」


僕は勢いに任せてそう言った。傍から聞くとだいぶやばい変態である。


「そう。変態なのね。報告するわ」


どうやら夢さんと僕の意見は合致してしまったらしい。夢さんは机においていた右手を上げて、教室のド

アへ。今度こそ本気で報告に行こうとしている。


「ちょっ――!?」


僕は夢さんを止めようとして、気づいた。

彼女の右手にちらりと一瞬、ミサンガが見えた。ほんの一瞬で、見えたと思ったらすぐに服の内側に隠れてしまったので色までは覚えられなかったが、たしかに彼女の右手にはミサンガをつけていた。

確か、夢さんの利き手は右手。授業中ずっと見ていたので覚えている。

そして、ミサンガを利き手付ける意味は――恋愛系統。

以前少しばかりミサンガに関して調べたときに知って、あれ以来頭に残っている。

彼女の右手首にミサンガが見えた時点で立ち止まってしまった僕は、夢さんを追いかけられなかった。

それはつまり、夢さんが無事先生に変態の存在を報告できたことを意味しているということで……僕はしっかり昼休みに職員室に呼び出されることになった。

初犯なので大目に見てほしいなと思いながら昼休みまでの授業を受けた。

授業を受けている間も生徒教師全員からの視線が痛かった。


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