とある砲雷長の戦闘
「不明機、飛翔体発射!」
本艦へ向かい飛行している大型の所属不明機。
約500km先まで見通せるレーダーは、当該機から複数の物体が放たれたことを正確に認識していた。
「飛翔体は対艦ミサイルと思われる。探知数8、本艦が目標と断定。」
現代艦の心臓ともいえるCIC(戦闘指揮所)内は、その一言で一気に緊張感が走る。
本艦と所属不明機との距離は約400km。
仮にマッハ4(約5,000キロ)の速度を持つ超音速対艦ミサイルであれば、本艦到達までの時間は5分もない。
すぐさま、艦長は次の言葉を口にする。
――対空戦闘用意、と。
「対空戦闘。SM6(スタンダート・ミサイル)にて迎撃する!」
艦長の号令とともに、砲雷長は迎撃に用いる兵装を口にする。
イージスシステムを備えた本艦の任務は艦隊防空であり、スタンダートミサイルが搭載されている護衛隊群唯一の艦でもある。
迎撃用ミサイルに対し破壊目標等のデータが入力され、“SM諸元入力完了”との声が、砲雷科ミサイル員から上がった。
それは、迎撃戦闘開始の準備が整ったことを意味している。
「SM撃ち方はじめ!」
「SM発射!!」
命令と同時に、艦前部と後部に配置されたVLS(垂直発射システム)より8発のミサイルが打ち出される。
唾をのむ音さえ聞こえるほどの、突然の静寂。
誰もが迎撃の成否について答えを待っている。
まるで数十分、数時間とも思えるような時間が過ぎ、レーダーから6つの光点が姿を消した。
「目標1~6まで撃破、なおも2発健在」
先ほどまでの静寂が嘘のように、CICは一気に騒がしくなっていく。
本艦のステルス性を高めるため航海科に艦首をミサイル方向へ向ける指示を出し、砲雷長はすぐさま次段の迎撃、つまりESSMによる破壊を指示する。
少しでも遅れると迎撃が間に合わないためだ。
「ESSM(発展型シースパロー)撃て!」
「ESSM発射!!」
再びVLSからミサイルが放たれる。
ESSMは個艦防衛に使う短距離対空ミサイルであり、射程は50km程度しかない。
残りたった36秒で本艦を撃沈可能な対艦ミサイルが突っ込んでくることを考えると、緊張で手が震えるものが出てもおかしくない状況だ。
「チャフ、フレア撃て」
「チャフ、フレア発射」
残る対抗手段はCIWSと呼ばれるバルカン砲による迎撃のみだ。
わずか1.5kmという短射程と威力不足から、最後の手段というよりもはや祈りレベルの対抗手段でしかない。
同じく、ESSMと同時に、ミサイルを惑わすチャフやフレアといった囮も使い、本艦近くにばらまかれる。
できることはすべてやったといえるだろう。
だからこそ、現実は非情なもだと言えた。
レーダー員から最悪の報告が行われる。
「目標1残る!」
「CIWS!!」
すぐさま砲雷長はCIWS迎撃を命じ、そしてそれが最後の言葉となった。
超音速ミサイルこわい