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黒鬼

作者: 薙 洋介

興味を持って頂きありがとうございます。

あなたも是非冷や汗をかいていってくださいね。

おっと、それでは奴が来そうなので私はこの辺で。

 これは僕が6歳の頃に体験した俄かに信じがたい恐怖の思い出です。

 

 蝉の鳴き声が頭の奥まで響いてくるような真夏のことでした。風邪をひいてしまった僕は、親が共働きのため昼に1人で布団に入り眠っていました。そんな時でした。


 ガラガラガラ。


 1階の玄関の戸が開いた音が聞こえたかと思うと、


 ドンッ。 ドンッ。 ドンッ。 ドンッ。


 2階にその足音は近付いてきます。泥棒か?あまりの怖さに布団にくるまる僕。汗がパジャマにじわじわと滲んでいくのがわかる。


 ドンッ。ドンッ。ガチャ。


 そしてその足音は僕の背後まで来て止まりました。

「神様、お願いです。助けてください。」


 バサッ!!


「寛太、具合はどう?」

 何とその足音は母でした。風邪を引いた僕が心配で仕事を昼までで切り上げて帰ってきたらしい。なんだ、お母さんか。まったく。驚かさないでほしい。心臓に悪いったりゃありゃしない。


「あら、汗だくじゃない。一度着替えてきなさい。」


「うん。わかった。」


 着替えも済んで弱りきっていた僕の身体はすぐに睡眠を始めた。


 再び目覚めるとすっかり外は夕焼け色に染まっていた。少し喉が渇いた僕は水を飲もうと1階に降りようとしました。その時です。


 戸の外に見た事もない影が立っている。


ドンドンドンッ!!ドンドンドンッ!!


「子ども回収屋でーす。」


 とても低くて鉛のように重いその声は、僕の熱った身体を背中から一瞬にして冷ました。


 まずい。噂で聞いたことがある。黒鬼だ。子供を捕まえておく為のトリカゴのようなケースを片手に持ち歩き、家を訪ねては子どもをさらっていく。おばあちゃんの言う事だからどうせ作り話だと思っていた。実在したなんて。逃げ切る条件はただ1つ。



・黒鬼が家から出ていくまで見つからないこと。



 こうして僕と黒鬼、人生最悪のかくれんぼの幕が開けた。


 ドンッ!!!!ドンッ!!!!!


 やばい。入ってくる。そうだ、お母さんがいるじゃないか!勝った!勝ったぞ!


「お母さん!黒鬼だ!この部屋に僕を隠して!!」


「………」


 どうして!テレビを眺めたまま反応がない。まるで肉体だけがそこに存在し、魂が何かに吸われたように活気を失っている。


「お母さん!お母さん!」


 ガラガラガラ。


 ダメだ。ついに入ってきた。こうなったら押し入れだ。物を無理矢理どかせば入れない隙間じゃない。


 パキ、パキ、パキ。


 床の軋む音が聞こえる。玄関から近い部屋順に見回っているようだ。僕の隠れているこの部屋は1番奥のリビングだ。しかも物入れ専用の押し入れだ。なかなか見つかるはずはない。


 キキキキキ、カタカタカタ、コッコッコッコッ。


 不気味な音が近づいてくる。もう手足は汗でベトベトになっている。髪もぐっしょり濡れてまるでシャワーを浴びた後みたいだ。







 静寂だ。蝉の音も聞こえる。どう言う事だ。物音一つしなくなった。


ドン、ドン、ドン、ドン。


 よしっ!2階に行った!やったぞ!隠れきった!でもまだ気は緩められない。黒鬼が家を出ていくまでは安心できない。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。


 降りてきた。あともう一踏ん張りだ。この狭い空間で少しでも気を抜けば自分の息が漏れそうになってしまう。その時だった。


「息子さんはどこです?」


 襖の外から男の低い声がした。


「そこです。」


 理解が追いつかなかった。襖が開く瞬間から、その光景をまるで焼き付けるかのようにゆっくりと僕の目に映り込んできた。隙間からだんだんと差す光は硬直した僕の身体を照らし、また暗くなったと思えば伸びてきた腕が僕の足をありえない力で引っ張った。


「ケテ。タ・・・テ。」


 あまりの恐怖で声が出ない。黒鬼と呼ばれるそいつの姿は顔の周りが黒いモヤで覆われていて、全身は普通の人間のようだった。噂通りトリカゴのようなケースを開き、僕をその中に入れるとケースは上下に揺れ始めた。終わった。連れて行かれる。ケースの隙間から僅かに見えた母の姿は、死んだ目でこちらの様子を他人事のように見つめていた。



 その光景を最後に僕は気を失った。



 そして目覚めると、あたりは真っ暗で布団はぐっしょりと濡れていた。


 ガラガラガラ。


 ドンッ。 ドンッ。 ドンッ。 ドンッ。


 母はたった今仕事から帰ってきた様子だった。


「どうしたの!?そんなに汗をかいて!!よかった、熱は下がったみたいね。ほら、早く着替えてきなさい。」


「うん、わかったよ。」


 一体さっきの出来事は何だったのだろう。そう思いながら服を脱いだ。


「なんだこれ。」


 僕は足を見てゾッとした。

くっきりと男の手形が付いていたのだ。


 それは高校生になった今でも痣として残っている。あれは本当に夢だったのでしょうか。また、あの母親の姿をした女は一体誰だったのでしょうか。次はあなたの街に黒鬼が出るかもしれません。


「子ども回収屋でーす。」

どうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか。

今年も暑い夏をホラーで乗り越えましょう!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶対に見つかってはいけない かくれんぼとなると・・・ 別にそんな生死を分ける様な かくれんぼ経験はありませんが 読んでいて妙にドキドキしました。 怖くて面白い作品でした。 [一言] 公…
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