↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/138

―名前はまだ無い―

 二週間後


(おかしい。なぜこうなった?)


「どうしたのだ、惣一郎。こんなに良い天気だというのに怪訝な顔をして心配事か?」

 目の前のスミレは優雅にくつろぎ、透明な紅茶を嗜んでいる。


(眼下に広がるこの光景、なぜ俺はここにこうしているのだろう)

 目の前には城下町の風景がある。


「ふむ、その恰好なかなか似合っておるぞ。我のこの衣装もなかなかであろう?」

 スミレは綺麗な薄紫色のドレスを着て、俺の視界に映りこむ。


「なあ惣一郎、色々思う所はあるだろうが些細な事だ。良いでは無いか手を出してしまったのだ。毒を喰らわば皿まで。ではないか? 毒を持つ我も惣一郎に食われてしまったからな。うふふ」


「誰がうまいこと言えと? 色々上手い事使われた挙句に王にされたんだぞ? ここから動けないじゃないか・・・」

 惣一郎は旧ディアパス城の上階バルコニーにてうなだれる。


 そう、あれからヘカテーとクロイツェル六世、そして赤の国の国王「アリエル・レッド・アルバン」と後継者であるウリエラそして放浪王子のミハエルと他3名(惣一郎、スミレ、レミ)により行われた会談の末、占領したこの国のこの城を赤の国の領土とする事で二つの国は友好関係を築いた。


 それぞれの移動は全てファフニールが極秘裏に行った。


「冷戦状態の隣国で交わる事の無かった国同士がお主の活躍で友好関係を築いたのだぞ? その功績として一国一城の主となったのだから。幾重にも喜ばしい事では無いか」


「まだ色々とやらなきゃいけない事があるんだから、ここに腰を据えるつもりは無いんだ。本も集めなければいけないし、大量発生している魔物の討伐の方も色々心配なんだよ」


 ラグン侯爵からの報告と嘆願を受けたゴブリンやオーガ、トロール等の蛮族たちの討伐もまだ完了していない。討伐隊に関しては赤の国とクロイツェル国から派兵し、両国合同の作戦となっていた。


「ダリア達からの報告も逐一受け取っておるのだろう? 問題があれば我が行って出るゆえ安心せい」

 

 ダリアとメリッサ、ルーナとセレーナはそれぞれ討伐隊に加わって獅子奮迅の活躍をしている。

 という報告を伝令にて受けている。


「それに討伐が終われば南側の開発とトロン村までの街道整備も始まるのだろう? ルーナも沢山の信者(可愛がってくれる人達)を獲得している様子でかなりの力をつけておる。良いこと尽くめでは無いか。それにアンダンテも納得しておったし、むしろノリノリだったぞ」


「それは・・・・そうですけど。城と領土をどうやって維持していけば・・・・」

(くっ、アリエルめ。何が「オトナシ伯爵の領土に丁度良い」だ。こんな事なら大人しくトロンの森を貰っておけばよかった・・・)


 クロイツェルとの会談の際、スミレからの報告で概ね方向性を決めていたヘカテーと六世はたなぼたで手に入ったディアパス王国を手土産にする事で俺達との約束事である赤の国との友好条約を結ぼうと考えて居たらしい。


 アリエルも国力増強に、クロイツェルの鉱物資源があればと以前から試算していたようで、銃の量産や各街々の増強計画が早まると喜び、人目も憚らず俺に抱きついて来た。


 殆どもぬけの殻だったとはいえ、そもそも城を落としたのは俺達なので、ほとんど自前で2国間の友好条約を結ばせたのだからどう考えても俺の手柄である事は間違いなく、しかもどちらの国も得しか無いのでこの好条件で条約を結ばない訳がない。


 その割を食ったのが俺自身という事だ。

 ・・・・元ディアパス王国の貴族達もいきなりの事で最悪だっただろうけど。


 もちろん、この国の貴族達からも反対はあったが、いまは自分の領土内に蔓延る蛮族達の討伐で正直それどころでは無いし、クロイツェルや赤の国の支援も受けている状態なので既に意見できる立場ではなくなっていた。

 それに各貴族がラグン侯爵経由で、この城が被害が出た村人の受け入れをする事を伝えられたのも大きかった。

 どの貴族達も自前の兵を総動員で動かしている現在ではとてもじゃないが難民の受け入れは出来ない。

 とは言え税を納める立場の人間も生かさねば自分が滅びてしまうというジレンマの中での救いの手は有難いだろう。手当から食料から仕事まで与えてくれて、尚且つ討伐が完了した暁には村々の復興も手伝うと書面にて取り決めを交わしている。

 

 寝耳に水の落城に、蛮族の襲撃と大混乱の中で半ばやけくそになっている貴族達はこちらが用意した条件を飲んだ。まあ飲まなければ滅亡するだけで、飲まざるを得なかっただけなのだけれど。


 民のいなくなった城下町の空き家には、魔物に襲撃され無くなった村の難民達に居住してもらい、そのほか赤の国、クロイツェルからの移住者を募り合わせて100人弱がこの城下町の住人となった。

 だが元々兵士と合わせ千以上の民が居たこの街にはまだ活気はない。

 兵士も両国から派兵されてこの城の兵となり現状で300。

 現在は兵の半数を討伐隊の一部に当てている。


 それとこの城下町に冒険者ギルドを設立する事になった。

 ギルド長を選出するのも色々時間がかかるらしく、しばらくしたらクロイツェルにも設立する予定らしい。


 建物は沢山余っているので選び放題だった為、城下町の中央にある噴水広場前の大きいホールを改築して使う事になった。

 ここは以前、劇場として使われた建物らしく外観も内観もしっかり装飾が施されかなり立派だ。

 おあつらえ向きに正面にはそれなりに大きな宿屋がある。

 こちらもギルド宿として接収させて貰った。


 受け入れ前の数日で家財やら何やらの資産は全て城へと運び込み、目録をつけて厳重に保管した。

 必要に応じて出し入れするが、お金に関してはこれから大量に必要になるので国庫に預けた。

 国庫といってもこの城だけど。


「惣一郎、お主は兵たちの間で何と呼ばれてるか知っているか?」


「いえ、知りませんが、緑ずきんちゃんとかですか?」


「なんじゃその可愛らしい名前は。全然違うぞ」


「じゃあ緑伯爵ですか?」


「緑から離れられんのか? 正解は「串刺し公・不死伯爵」だ」


「・・・ドラキュラじゃないですか。ていうかこの世界にもドラキュラっているんですか?」


「居ないぞ」


「誰も元ネタ分からないんですね。なんか色々と残念な感じに思えるのは私だけですか? ていうかそれを誰が言い出したか聞いても良いですか?」

 俺はスミレを睨む


「ええっと、考えたのはアンダンテだぞ」

 スミレはうっすらと目をそらしながら答える。


「考えたのがアンダンテさんで?」


(我は兵士達に惣一郎の事を訪ねた際にちょっとだけ噂を追加しただけなのだが・・・)


「声が小さくてあまり聞こえませんでした。もう一度お願いします」


 語気を強めて聞き返すとスミレは諦めたように返事をする。

「そう言われるように仕向けたのは私です・・・」


「はぁ・・・。でも串刺しっていうのはどうなんですか? 私そんな事しましたっけ?」

 身に覚えがない処刑方法だし、そもそも処刑とかしていないしなぜ串刺しなのか。


「それはだな、惣一郎は良く地面から槍を出して敵を攻撃するだろう? 由来はそこからだぞ」

 スミレが生き生きと話す。先程の反省の色がさっぱり消え去っている。


「それは元々はアンダンテさんが「生物は立っている間、自分の足の裏は見えない。つまり足裏は死角。飛ばない相手なら地面からの攻撃が一番有効よ!」ってグレイブ系の・・・・あの女、これを狙ってたな・・・」

 意識の端でアンダンテのテヘペロが見える。


「まあそう言うな。これにはもう一つ意味がある」

 スミレは再び椅子に座ると紅茶を一口飲んでから話を続けた。

「事が済んだ後、貴族達の反乱の芽を摘むという目的がな」


「串刺し公、ドラキュラ公を知らない世界の人達に効果ありますか?」


「流した噂がそれだけなら意味は無いだろうな」

 スミレは不敵な笑みを浮かべながらそう答えた。


「他にも何か付け加えたんですか?」


「うむ。「不死伯爵は龍を従える」そう付け加えた」


「!?」


「本当の事だ。我がその龍だからな。ふふふ。それにあの会談に同席した者達には我の姿は見せたのだ。いくらおおやけにしないとは言え、夜空に影を見た者もあるだろう。この城の夜空に龍の影を見たなら? 」


 そう言いながら目を細めてスミレが笑う。


(ここ最近、彼女が夜中に数時間ほどどこかへ出かけていたのはこの為だったのか)


「それにしても我を見た時の奴らの顔は愉快だったな惣一郎」

 スミレはドヤ顔で笑っている。


「レミとかいう女は小水を漏らしておったぞ。あっはっは」


「いや彼女は腰を抜かしてただけですよ。漏らしてはいませんよ」

 レミの名誉のために言っておこう。漏らしてはいない。

 確かにファフニールを間近で見た彼等は様々な表情で驚きを表していた。

 やはり誰も龍の復活は知らなかったみたいで文字通り事実を目の当りにしたアルエル、ウリエラ、レミはファフニールの背に乗っての移動中は3人でずっと頭を抱えていた。


 最終的にはやはり公に出来る内容では無いので黙秘するという結論に達したのだが、万が一バレてもファフニールが表に出れば何とかなると本人が後ろ盾になる約束をしたので、寝不足にはならずに済みそうだと3人は口を揃えて言っていた。


「そうか? まあよい。どのみちこうして噂を流しておけば、例えこの城の守りが手薄でもおいそれとは手を出してはこれまい。それにこの城を数人で落としたという事実はこの城の生き残り達が生き証人となっている。国を良く知るラルフにも問うてみたが、国の領主の中にこの事実を無視するような愚か者はおらんようだ」


 執事長のラルフはかなり優秀な人間で、城内は勿論、城外の事も国の事もあらゆる情報を記憶しており、執事長というよりは政務官に近い人物だった。

 

 何にせよ前王亡き後、この国を奪う形で引き継ぐ事となった俺達に対して嫌味の一つも言わずに尽力してくれている。

 捕虜として残った兵や使用人達をまとめあげ、ほとんど混乱もなく(まつりごと)(はかど)っているのは(ひとえ)に彼のお陰である。


「ラルフさんにはかなり助けられていますからね。あの人が居てくれて良かったですよ」

 なんとか落ち着きを取り戻した俺は、椅子に座って透明な紅茶を飲む。

 冷めているが猫舌なのでちょうど良い。


「失礼致します。伯爵様、スミレ様、紅茶のおかわりは如何ですか?」

 タイミングよく侍女がお茶のお代わりを持ってきた。


「ええ、頂きます。ありがとう、ローズ」


(うん、美味しい紅茶だ)


「ふう、いい天気だなぁ。そろそろこの城の名前も決めなきゃな・・・」






いつもお読み頂き、ありがとうございます。


10月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。


読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!


少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。

これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。


栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)


誤字報告なども頂ければ幸いです。


今月も頑張ります!

宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。