―光―
日が落ちる寸前でかなり薄暗い中、更に柱に近寄って中心部の白い物を確認する。
「コレ、骨だ」
大漁の骨が柱の中にあった。落ちてた枝で骨をかき分けてみると、頭がい骨を見つけた。
剣をたいまつ代わりに光を当てると、恐らく人間のモノではない事が分かった。
歯がサメの様にギザギザで額や側頭部に棘の様な角や角その物が生えていて中には魔石も大量にあったが、全て黒く濁っていた。
「これ全部魔物の骨なのか?」
全部は確認してる時間が無いが、確認の為、魔石を一つ剣に当ててみたら「ジュ!」と音がして魔石から濁りが消えた。
「やっぱりこの剣で浄化されるんだな。よし、ここは後で片付けよう。ルーナ、急いでアイツら追うぞ」
「ワン!」
剣を鞘に納めてから【ディストーション】をかけ直し二人で走って足跡を追う。
ルーナにも魔法をかけたが、同じように半透明で見えるので、こういうモノなのだろう。お互いを見失う事が無いので便利だ。
【オーバードライブ】のお陰か、足も体も軽く感じる。ていうか1歩で進む距離がおかしい。
1歩で10メーター位進んでる気がする。ルーナにも【オーバードライブ】をかけたのだが、子狼ゆえに短足であるこの子も俺と同じ速度で跳躍している。
「凄い。としか言えない俺の語彙力」
「ワン」
なんだろう、「宝石箱や~」の人を馬鹿にしてた自分を殴りたい。そんな気持ちになった。
数分程度でアイツらに追い付いた。
さて、どうやって戦ったものか。後をつけながら考える。
少し考えたものの、やれる事が少ないので「斬って破壊する」の1択しかなかった。
足を斬って動きを止めてから腕、胴体部分と順番に斬っていく。
仕掛ける前に一度話かけてみるか?
いや、ルーナの反応からしてアイツらがサンシーカーを殺ったのは間違いない。魔物なら吠えて教えるルーナが、魔物ではないアイツらに対して牙をむき出しにして唸ったのだ。そこは間違いないだろう。でも俺から見てもそこまでの脅威とは思えない。
他の方法も使ったとか、アレ自体が対聖霊用に特化した兵器なのか・・・。いずれにしても中に人が乗っていれば当然その人諸共切り伏せるしかないよな・・・覚悟を決めろ音無惣一郎。
だが、間違いだったらどうする?濡れ衣で人を殺めてしまう可能性もある。
ルーナを信用していない訳では無いが、明確に理解出来る言葉を交わしている訳じゃない。
安易に敵と判断するには早計じゃないか?
心がぶれる。
「ルーナ、すまない、お前の事は信じている。だがどうしても一度アイツらと話をしたい。
あと、違うかもしれないが、アイツらは対聖霊用の兵器かもしれない。そうなるとお前狙いの可能性もある。
こっちが対話を望んでも、無視され攻撃されるかもしれないからお前は念の為、全体を見通せる場所まで下がって見ててくれ。頼む。相手の動きや武装が分からないが、多分俺一人で何とか出来ると思うから、手出しはしないでくれ。」
「クゥン」
「大丈夫だと思うが、もし万が一俺に何かあれば、村に戻って、みんなを守ってくれ。良いな?」
「クゥゥン」
「良い子だから、な?」
「クゥゥゥゥン」
そう言って優しく頭を撫で、この場を離れるように促す。
何度も振り返るルーナを見送る。
「さて、こいつらの目的は分からないが、このまま歩いてても埒が明かないし、始めますか」
自分にかかっている【ディストーション】を解除するイメージで念じる。
「解除」
魔法が解け半透明が解除される。
前を進む魔道アーマー達に木陰から半身を出して大声で話しかける。
「すいませーん!ちょっとお話したいのですが良いですかー!?」
2機の動きが止まり、ガシャガシャ音を立てて旋回してる。
「あのー私、この森の管理者代行なのですが?この森で何をされてるんでしょうか?良ければ少しお話を・・・」
その時だった
バババババッ!
いきなり多銃身機銃を撃ち込まれた。
すかさず木の陰に隠れる。銃身が動くのをしっかり見て居たので簡単に避けられた。
想定内の反応が来たので、すぐに気持ちを切り替える。
よし、これで迷いを消そう。
「相手は対話を望まずに攻撃してきた。明らかな敵対行動である。」
「よろしい、ならば戦争だ。」
撃ち続けられる多銃身機銃の銃弾を木に隠れて避けながら【ディストーション】を唱え、姿を消す。相手が人間ならばこちらの姿は見えない筈。
あとはあのデカブツにサーチ機能がついてない事を祈りつつ、【オーバードライブ】を上書きし、誰も隠れていない木陰を未だに撃ち続けている手前の1体の片足を斬りにかかる。
シュパッ!
抜刀斬りでデカブツの足が豆腐の様に切れた。
こちらの動きはトレースされていない。
「いける」
小さく呟くともう1体の足を斬り、2機共に地面に横倒しになる。
「もう動けないな」
デカブツはガシャガシャ音を立て、地面を蹴っているだけで何も出来ずにいる。
姿を隠したまま後ろの方のデカブツの正面に立ち声をかける。
僅かな隙間から中に動く人影が見えた
「降伏して大人しく出て来るなら命は助けてやる」
戦争にもルールはある。
そう思い、2体共に視界に入れつつ投降を促す。
正面の主砲がオレンジに光る。
「撃ってくるか」
素早く横に移動しながら中の人影諸共勢い良くデカブツの胴体を斬る。
隙間から血が噴き出している。
・・・殺してしまったな・・・・
そう思った時だった。
胴を切り裂いたデカブツが音と光を発している。
もう一体も呼応するように光出した。
ヤバい!そう思った時には逃げ場が無かった。
結界である。2体を中心にドーム状に結界が施されていた。
結界を壊そうと思った時には光が爆発へと変わっていた。
これか、これがサンシーカーをあんな姿に変えたのか・・・・
【ルーナ視点】
「良い子だから、な?」
そう言われて頭を撫でられ、その場から離れる。何度も振り返りながら。
子供である自分に出来る事は何も無いのだと。
母様のように大きかったら、強かったら一緒に戦えるのに。仇を討てるのに。
自分の小さい牙じゃアイツらを噛み殺せない。
そう思いつつルーナは来た道を戻っていた。
せめて戦いの足手まといにはならないようにと。
母様が倒したアイツらは爆発して母様は光になってしまった。
召喚魔法により転移してきた【魔法陣術式機械兵器・マスカレイド】
その兵器にはいくつもの魔法陣が書き込まれており、複雑な魔力操作を必要とせず凡人の様な人間でも乗りこなせる戦闘兵器である。胴体上部に大型火炎弾を発射できる主砲が1門。左右には毎分二千発の魔力弾を発射する多銃身機銃を1門ずつ計2門。全て魔法陣により作動している。
そして最大の攻撃は【アルス・ノヴァ】と名付けられた「絶命感応結界式多重大爆発」である。
1機が作動すると、周囲百メートルにある交戦中のマスカレイドが一斉に多重結界を発動させ同時起爆し、敵味方問わず結界内にいる者を全て焼き尽くし殺す、最悪の兵器だ。
それは突然やって来た。
その日、その兵器がトロンの森に5機召喚された。
異変に気が付いたサンシーカーは、素早くその場へ向かいながら周囲を確かめる。
すると遠くに木々をなぎ倒しながらこちらに向かってくる見た事の無い何かが5つ。
サンシーカーはその中に人間の魂を感じるも、意識は見えず、暗く禍々しい何かを感じた。
コレは人にあらず、人を害するモノ。この森を害するモノ。滅するべき相手。
そう悟ったサンシーカーはこの5つの排除を決めた。
5つのそれは簡単に壊れ、あっさりと動かなくなった。
そして5つ同時に光を放ち、瞬く間に爆発へと変わった。
ルーナは寝る時はいつも母の意識の中に入れられ、睡眠をとっていた。
そして異変に気が付き目を覚ました。
母親の意識から外を見る。5つのソレと戦い始める瞬間だった。
母様が戦っている。森に変な奴がいる。いつもは自分でも倒せるスライムしか居ないのに。
でも母様は強い。あんな変なヤツにはまけない!
母の強さを一番よく知っているルーナはそう確信しつつ、戦い方を見ていた。
母の戦いの動きを、見て学んでいた。
そして数秒で終わってしまった戦いに少しがっかりしていた。
その時、5つのソレが爆発し、突然ルーナの周りが暗くなった。
サンシーカーの意識が無くなったのだ。
「母様!?母様!?どうしたの?!」
ルーナは何日も一生懸命に母を呼んだ。
母は何も答えなかった。
暗いままのその場所で、泣きながら母を呼び、泣き疲れて寝る。それを繰り返し数日を過ごした。
気が付くと光が戻っていた。
「母様!母様!」
目の前には母が居た。
ルーナは母に縋り付き、匂いを嗅ぎ、一生懸命甘えた。
「母様!母様!母様!母様!」
縋り付く我が子を抱くように伏せ、優しく顔を舐める。
涙で濡れた子供の顔を綺麗にしてから、サンシーカーは優しく話しかけた。
ルーナ、貴方はこれから旅に出なければなりません。
そして私はその旅に着いていけません。
貴方を守ってくれる方と共に行きなさい。
そしていつかその方を守れるように強くなりなさい。
「母様みたいに強くなったら、またこの森で母様と逢える?」
サンシーカーは何も答えずただ優しく寄り添い、微笑む。
ルーナは優しく微笑む母に縋り付く。
「やだよう!一緒に居たいよう!また逢いたいよう!母様!母様!」
「あぁ、わたしの愛しいルーナ、良い子だから、ね」
そう言ってサンシーカーはルーナを慰めると、光と共に消えた。
景色が変わり、ルーナの目の前には一人の人間が居た。懐かしい匂いと共に。