―クロイツェル城下町・役得―
宿にてスミレ達と合流し、ワンダラーのくだりは伏せ、ヘカテーの願い事を話す。
「それで、ソウイチロウさんはどうするつもりなんだ? 協力するのか?」
「敵は恐らくワイバーンを操っているアイツだ。これからも度々襲い掛かってくるだろうから潰しておきたいと思っている。それにヘカテーはこの国では国王に次ぐ有力者だ。恩を売っておけば国交を結ぶきっかけに出来るかもしれないですから」
「国交ですか・・・大きな話になって来ますね」
メリッサが心配そうに惣一郎を見る。
「ああ、だが無い話ではないと思います。大国との国交が出来ればこの国も隣国からの侵略に備える余裕が出来る。
赤の国としては海を跨がずに鉱石類の取引先が増えるし、クロイツェルとしては赤の国と多様な品目の直接取引が出来るし、もしこの国に冒険者ギルドを置く事が出来ればクロイツェルは冒険者という扱いですが有事には国が直接動かせる兵士が手に入ります」
「まあ仮に全部上手くいかなかったとしても個人的には恩を売れるし、それにそもそも私達に降りかかるのが確定している火の粉があり、それを払うついでにちょっとした願いが叶う訳ですからまさに一石二鳥です」
政治にはあまり関わりたくないが俺以外にも異世界人がいる事がわかったし、色々情報を共有出来るかもしれない。出来ればヘカテーとは協力関係を結んでおきたい。
ただ、ダリアとメリッサにはどのタイミングでワンダラーや龍の事を話せばいいのか。
ワンダラーについて話すのは特に問題は無いと思うが龍については色々問題があるし、危険過ぎるから情報自体を持たせたくない。
二人は信用できる人間だし良い子達だ、水臭いと言われるかもしれないが余計なリスクは負わせたくない。
やはりもう少し様子を見よう。
「我は何も変わらん。惣一郎について行く。我らの前に立ちふさがる敵を倒せというならそうするだけだ」
スミレは俺の隣に立ち、なにやら上目遣いでこちらを見ながら話しかけてくる。
「オレもスミレ姉さんと同じだ。ソウイチロウさんについて行く」
ダリアもスミレの真似をして上目遣いで話しかけてくる。
「私も二人と同じです」
「私もです!」
「ワン!」
「みんなありがとう。色々と面倒をかける事があるかもしれないが、これからも宜しく」
残りの3人も同調し、細かい事も含め全員の意見がまとまった所でヘカテーと話しに彼女の店へと向かう。
「そうちゃんおかえり!」
笑顔で元気のよいヘカテーに迎えられる。
「いや~そうちゃんがあの強い人と知り合いだったとはねぇ~。言ってくれればいいのに~もうイ・ケ・ズぅ~」
うりうりと小さく言葉にしながら惣一郎の肩を人差し指で軽くグリグリしてくるヘカテーに惣一郎は愛想笑いで対応する。
「まあ、こちらにも色々と事情があるんですよ。色々と込み入った話しがあるのですがここで話しても大丈夫ですかね?」
俺が出入り口の方を横目で見ながらそう言うとヘカテーはすぐに察し、店に魔法をかけるべくパチンと指を鳴らす。
「これで大丈夫! リビングに行って話そ!」
二人でリビングに向かい、そこでこちら側でまとめた内容と龍やワンダラーについて俺の個人的な事情を話し、他にも国交の事やギルドのこと敵の事などをまとめながら折衝する。
「ギルドかぁ~。これが一番むずしいかもしれないなぁ~」
腕を組みながらそう言うヘカテーは今までで一番悩んでいる様子だった。
「難しいですか?」
「うん、あーしは興味あるんだけどね~。この国の王はなぜか代々閉鎖的だから商人以上に出入りが激しい冒険者になると・・・・ね~。商人と違って冒険者は目的も多いわけだし」
普段は国で管理できない冒険者となると間者に疑われる事もある。
特に鉱山に関しては冒険者の往来でその辺りの情報は嫌でも漏れて行く。
大事な資産の情報をいかに守っていくかという手間が何倍にも増えるのは明らかなわけで、建国から数百年、この国はそれらを守るために閉鎖的にしていたというのは頷ける。
「そうですね、そこは慎重に精査して頂ければ宜しいかと思います。西の黄の国との絡みも出て来るでしょうから、簡単には答えを出せない事は十分承知しています。特に国を通しての正式な嘆願でもありませんし、クロイツェル王国が全てに頷くとも考えていません。
それに独占ではありませんが鉱物と魔導書の販売で緑と黄の視線を鑑みても、開国するかは思案に暮れるでしょう」
「ただ、南を抑えるかもしくは潰す事が出来れば国としての杞憂は晴れるかと思いますし、その後の安定を計ったうえで思案して頂ければ宜しいかと思います」
(ほとんど私情が無ければどちらに転んでも何とも思わないってのは交渉が楽でいい)
そんな事を思いながら淡々と話すとヘカテーが不思議な顔をして問いかけてきた。
「う~ん、話はわかったけど、そうちゃんの利益はどこにあるの?」
「はい、現状では殆ど無いですね。強いて言えば隣国とのいざこざが少なくなる位ですかね。
政治的な話には首を突っ込まないようにはしたいのですが、平和ってのは簡単に買えるものではありませんし、そういった機会があるなら少しは手を伸ばしてみるのもいずれは自分の為になるかなと」
「ふ~ん。・・・・・そうちゃんって優しいんだね」
ヘカテーは何かを思案しながらも惣一郎に優しい笑顔を送る。
「それ位しか取り柄が無いんです・・・あはは」
惣一郎はそれを苦笑いで返す。
「わかったよ。あーしから王に話してみる。数日はかかると思うけど話が通ればそうちゃんを謁見の間へ招待するから、そこでめでたく調印って事で!」
「わかりました。今回の件は赤の国は通して居ませんので伯爵ではなくあくまでも個人としてのお願いとなりますが、赤の国へは打診しておくので、うまく事が運んだ際は私が間を取り成します」
「わかった!よろしくね!そうちゃん!」
彼女はソファーから元気よく立ち上がると俺にハグをしてきた。
突然のハグに驚いたが彼女の胸の感触と良い匂いにちょっとウットリしてしまった。
まあ役得という事で不問に処して欲しい。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
10月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
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