―クロイツェル城下町・ワンダラー②―
惣一郎達は本を売買する為にスミレたちとは別行動を取り、彼女達のいる場所とは反対側の市場に来ていた。
「まずはこの辺りの店から順番に周って探していくか」
「はい!」
「ワン!」
魔術書を扱う店には建物内に店を構える書店と、屋台と同じ通り沿いに店を構える露天があり、露天には状態の安定していない本が多く見られたため、惣一郎達は書店を中心に探し、スミレたちは露天を中心に探していく手筈になった。
「なかなか見つかりませんね」
「ああ、探している物がモノだからね。そんなにすぐに見つかるとも思って居ないさ」
「クゥゥン」
十件以上の書店を巡り古書を中心に在庫を聞いてみたが、どこの店もここ数百年程度の古書しか取り扱って居ないという事が分かった。
「まだ本屋は沢山あるから数日かけて全部を周っていくしかないさ。美味しい物でも食べながら気長にやろう。何か珍しい食べ物や美味しそうな屋台があったら教えてね」
「はい!」
「ワン!」
書店を巡りながら凡そ城下町の中央付近に来ていた。
「なにやら必死な形相で露天を巡ってる男たちが居るな。まあいいや、次の本屋はここだね」
走り回ってる男たちは本を読むようなタイプには見えなかった。
なにやら必死に本を探してる様子だったが、たぶん雇用主が凄く怖い人なのだろう。
俺は気にせずに次の書店のドアを開けた。
キィ。
「いらっしゃい。待ってました~」
店の奥のカウンターに居たのは浅黒い肌の女の子だった。
(なんだろう、この感じ。見た目が物凄くギャルちっくな格好だ。そう思ったらもういい感じに日焼けしたギャルにしか見えない)
カウンターの女の子は惣一郎達を手招きしている。
「こっちこっち~」
「ソウイチロウ様、店主の方でしょうか? 私達を呼んでいますね」
「ワン!」
「そうみたいね。行ってみようか」
3人は女の子の下へと歩き、カウンターの前に着くと彼女が惣一郎に話しかけた。
「ねえお兄さんって ワンダラーっしょ?」
「「ワンダラー?」」
「ワン?」
「ワンダラーって何でしょうか?」
惣一郎は彼女に聞き返す。
「あーそっか。あーしが勝手にそう呼んでるだけだから、意味わかんないよね。ごめんね~」
彼女は屈託のない笑顔を向けて謝ってきた。
(ワンダラーってたしか、放浪者とか彷徨う人とかそういった意味だったっけ?)
「ん~と、お兄さん異世界の人っしょ?」
「「「!?」」」
彼女の突然の言葉に3人は武器に手を伸ばして身構えた。
「あ、やっぱし? あーしもそうだから気にしないで~。特になにかしようって事じゃないし~。戦ったりとか勘弁だから~。ね?」
彼女はそう言って両手を上げる仕草を見せると、惣一郎達は武器に手を掛けつつも若干緊張を解す。
「大丈夫だって。って言ってもまあ無理だよね~。いきなり異世界の人間て言い当てられたらそうなるよね~。ん~じゃあ、先にあーしのこと話すね。良かったらリビングで話そ! こっち来て~」
彼女はそう言うと店の奥へと一人で入っていく。
(ソウイチロウ様、彼女は何者でしょうか? 異世界から来た事を知っていましたね)
(ああ、彼女自身も異世界から来た人物らしいことを言っていたけど、異世界人の事をワンダラーと言っていたのか)
(・・・・敵意は無さそうだから話をしてみるか)
「話がまとまったらこっちに来てね~。いまお茶とお菓子用意してるから~」
フンフフ~ン♪
奥からは彼女はお湯を沸かしながら鼻歌を歌っている。
(それにしても随分とフレンドリーなギャルだな。ああ、ギャルだからフレンドリーなのか?)
などと考えながら惣一郎は二人を連れてリビングへと入っていった。
「ソファーに適当に座って~」
彼女はトレーに茶器と茶菓子を乗せキッチンから運んでお茶と茶菓子をテーブルに置く。
3人は奥からセレーナ、ルーナ、惣一郎の順で横並びに座り、惣一郎の斜め隣のお誕生日席の位置に彼女が座ると全員でお茶を飲む。
「カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「ワォーン!」
「か、かんぱい」
乾杯の意味が良く分からなかったが何となく雰囲気に流される惣一郎。
ここでもお茶と茶菓子は見慣れた例の物だった。
「じゃあまずはあーしから自己紹介するね。あーしの名前はヘカテー。みんなからはアーシって呼ばれてまーす」
「あーしはお兄さんと同じで、異世界からこの世界に来たんだけど、前の世界でちょっと調子ノリ過ぎて色々やってたら勇者に討伐されちゃったんだよね~あはは! そんでもって気が付いたらこの世界に飛ばされてたんだ~。見た目は以前とはけっこう変わってんだけど、この姿も気に入ってるから気にしてない感じ~」
「ちなみに、前の世界では魔人って呼ばれてました! エッヘン! あーしはそこそこ強いよ~。あ、でもこっちに来てからはめっちゃ反省して悪い事はほとんどしてません! 」
アーシは腰に手を当てて胸を張りながら自慢げだ。
「じゃあ次はお兄さんね!」
「えっと、私は音無惣一郎と言います。惣一郎が名前です」
「そうちゃん宜しくね! あーしのことは好きに呼んで良いよ!」
(そ、そうちゃん・・・かなり砕けたな・・・)
惣一郎が苦笑いしつつ心の中でつぶやいていると、ヘカテーは間髪入れずに話す。
「次は奥のかわいこちゃん!」
「セレーナです!宜しくお願いします!」
セレーナは背筋を伸ばし、緊張しつつ元気に答える。
「せっちゃん宜しくね! そうちゃんと同じくあーしのことは好きに呼んで良いからね!」
「せっちゃ・・? え、あ、はい、宜しくお願いします!」
セレーナはせっちゃんと呼ばれたのがかなり意表を突かれたらしく戸惑っていた。
「こっちの子はルーナです」
惣一郎は隣に座るルーナを紹介した。
「ワン!」
「うんうん、ルーちゃん宜しくね!」
「ワン!」
ルーナは何故か嬉しそうだ。
「あの、質問宜しいでしょうか?」
セレーナが小さく手を上げてヘカテーに質問する。
「せっちゃん、硬くならずに普通に話してほしいな~。んでもって質問どうぞ!」
「え、あ、えっとヘカテーさんはなぜアーシさんになられたのですか?」
セレーナが素早く質問する。
「ん~硬いな~! まいっか、んとねーウチは自分の事あーしって呼ぶんだけど、そうしてたらいつの間にかみんながウチの名前がアーシって言うんだと勘違いしたらしくそうなっちゃった!」
「なるほど、わかりました!」
「次いいですか?」
惣一郎が話しかける。
「どうぞ!」
「ヘカテーさんはこの国ではどういった立場の方ですか?」
「おおー! さすがはそうちゃん! 良い質問してくるね~!」
何がさすがなのかは分からないが、ヘカテーは嬉しそうにうんうん唸っている。
「これは皆には内緒なんだけど、あーしはこの国の偉い人の間では魔女って呼ばれてます! 」
「この国の魔女か・・・噂じゃなくて本当だったんですね」
「魔女さん!」
「ワン!」
「そそ、あーしがこの国に来たのが確か300年位前だったかな? この世界に来た時はちょうど赤の国の端あたりにあった森の近くに居たんだけど、南の森のサンシーカーちゃんがすごい警戒しててさ~、もめたくないから北へ行こうとしたんだけど、そしたら緑の国のケットシーちゃんがいるじゃない? そっちとも揉めたくないから聖霊の居ないこの国に来たわけよ~。
以前のあーしなら何も気にせず襲い掛かってたけど、また同じ事やって討伐されてもつまらないし~、せっかく生まれ変わったんだから、ここでは平和にいこうって決めたの! エライでしょ?」
「それにあの時はどっちと戦っても勝てそうもなかったし~。無理に戦う理由も無かったからね~。あーしも大人になったな~って思った!」
ヘカテーは一人で静かに納得しながら自分で淹れた透明な紅茶を飲む。
「サンシーカーやケットシーの事も知ってるんですね」
「ん~、ルーちゃんも聖霊っしょ? サンシーカーちゃんと同じ感じがするんだけど?」
ヘカテーは人差し指を自分のアゴ先に当てながら答える。
「ワン!」
「ルーナはサンシーカーの子です」
「あーやっぱそっか~。会った事は無いんだけど何となくあの二人と魔力の感じが似てたからもしかしたらって思ってた」
「それでヘカテーさんはこの国では何をされているんですか?」
「んとね~、主に結界維持なんだよね~。この国を守ってるのよ~。そう、嫌がらせしてくる奴から守ってるんだけどさ~・・・・」
ヘカテーは歯切れの悪い言い回しをしながら俺の事をチラチラ見てくる。
「実は~そうちゃん達にぃ、ちょっとお願いっていうか話を聞いて欲しいんだけど・・・・」
彼女は上目遣いで惣一郎に懇願する。
「どんな話ですか?」
「嫌がらせしてくる奴を懲らしめて欲しいんだけど~。どうかなって?」
ヘカテーは苦笑いしながら頬をかく。
「ヘカテーさんでは手に負えない相手なんですか?」
「あー、んとね~自分でやりたい所なんだけど、あーしは城と城下町の結界維持しなきゃいけなくてー、ここから動けないんだよね・・・あはは!」
「ヘカテーさんが動くとココが狙われるって事ですかね?」
「うん、そうなんだ。アイツらあーしがこの城の結界を解いて助けに出る事をねらって領土内の町や村を襲ってるんだ」
ヘカテーは悔しそうな表情でテーブルを見つめている。
「あーしはさ、300年位前この世界に来てここの4代前の王に受け入れて貰ってさ、色々良くしてもらったんだ。だからまあ、結構この国が気に入っててさ。だから助けてやりたいんだけど、あーしが動けばこの城が襲われるから動くに動けなくてさ・・・」
「私達の事に気が付いたのはいつ頃ですか?」
「オボエ村でワイバーンを退治してくれたっしょ? きっかけはあの時だよ。あーしはここからあの辺までならうっすら感知できるんだけど、ハッキリわかったのはあーしの結界をくぐった時だね。あーしの結界はあーしが入れたくない奴は入れないようにできるんだ」
「なるほど、それで第一声が 待ってたよ だったんですね」
「うん」
「ちなみにその嫌がらせしてくる相手って心当たりというかアタリはついてるんですか?」
「この国はさ北と南の小国に挟まれてる国なんだけどさ、今はその二つから揺さぶりかけられてるんだよね」
「狙いはこの国が持つ鉱山ですかね?」
「そう、数百年掘っても尽きない、かなりの埋蔵量のある鉱山だからどこも欲しがるよね」
「なるほど、でも国相手に私達だけで戦うのは少し無理があるかと思います」
「その事なんだけど、実は今、この国にそうちゃん達以外に凄い奴が来てるんだよ! もしもそいつが協力してくれたら国の一つや二つと戦争しても大丈夫かなって思ってるんだ!」
「凄い奴ですか?」
「うん、凄いよ!たぶんだけど呪われた龍も倒せるくらいの凄い奴! ほら、このまえ一瞬だったけど呪われた龍が目覚めたじゃん? そいつはあれくらい強いと思うんよ!」
「それは凄い!そんな人がこの国に居るんですか!?」
「うん! でもそうちゃん達と同じくらいにここに来てるからもしかしたらどこかで会ってるかも?」
「へー、同じくらいにか。城下町に入る所の城門はかなり沢山の人で込んでたからなぁ。そんな凄い人とすれ違ったりしてもわからないかも?」
(オボエ村ではあの親子と村人くらいだったし、閑散としてたチューバでは宿を借りたくらいで町の人とは接触していないしなぁ・・・)
(・・・・ん??待てよ・・・呪われし龍を倒せそうなくらい強いって・・・それって・・・)
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
9月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)
更新時間は通常、朝8時に致します。
9月も頑張ります!
宜しくお願いします!




