―城砦越え―
昼過ぎに目を覚ますと目の前にスミレが居た。
「おはよう寝坊助殿」
スミレは惣一郎のベッドに入り込んで一緒に寝ている。
「おはようスミレ、ルーナは?」
「朝早くにセレーナ達と近くの森へ出かけたぞ」
「スミレは行かなかったのか」
「こうしてクラリスの匂いを嗅いでいる方が良い」
「一緒に寝るのは良いけど、なぜ裸なんだ?」
「寝る時はいつもこうだぞ?」
「・・・・・同室のセレーナに何か言われなかったか?」
「・・・特に何も言われなかったが?」
言わなかったというよりは恥ずかしくて何も言えなかったのだろう。
「次からは惣一郎と同室にすれば何も問題はなかろう。二人きりで話したい事もあるしな」
スミレは不敵な笑みを浮かべている。
「服を着て寝てくれるなら考えておくよ」
「そうか、では惣一郎の趣味にあう寝間着を考えておこう」
二人で遅い昼食を食べ、村の中を一回りしていると村長に挨拶されたのでこの国の王都について少し聞いてみたが特に新しい情報は得られなかった。
小さい村だがたまに商人も寄るそうなので、村長や宿の主人に馬車を見せながら宣伝をお願いしておいた。
対価としてワイバーンの肉を一塊ずつ渡した。
ギルドの無い村なら滅多に食べられない高級肉なのでかなり喜んでいた。
酒樽より大きい塊なので捌くのが大変だがどうにかするだろう。
宿に4人が戻って来たので、少し遅いが村を経つ準備を始めた。
といっても特にする事は無いので女性陣に風呂を勧め、その間に一人で準備を終わらせた。
村を出る際に入り口まで自警団とその家族、村長が見送りに来てくれていた。
御者台から挨拶をして村をあとにする。
「ここから3日程度で砦があり、そこから更に10~15日程度でクロイツェル王都らしい。俺達は行商家族と護衛という設定で行く」
「了解、それで誰が家族役をするんだ?」
ダリアが全員の顔を見渡す。
「そうだな、俺、ルーナ、セレーナ、スミレが家族でダリアとメリッサが護衛かな」
「確かに見た目もそんな感じだよな」
「ですね」
ダリアとメリッサが素直に納得する。
「じゃあみんな宜しくお願いします」
「ワン!」
「「はい!」」
「了解」
「わかった」
砦に着くと兵士に声をかけられて身分と向かう先を聞かれる。
「はい、クロイツェル王国まで魔術書の売買に向かう行商でございます。赤の国の物になりますが商業ギルド証もございます」
兵士にギルド証を見せ、身分の証を立てる。
「全員家族か?」
「家族と護衛の冒険者でございます」
「そうか」
「そうか。そっちはお前の娘か?」
兵士はセレーナを見ながら問いかける。
「はい、この子は家内の連れ子になります」
「その娘を産んだにしてはずいぶんと若いな」
「ええ、家内はエルフの血が入っておりますので」
惣一郎とスミレは目を合わせて互いに微笑む。
「・・・そうか。そっちの二人が護衛の冒険者か?」
「はい、赤の国の冒険者です」
「二人共プレートを見せろ。名前と所属、レベルが表示してあれば良い」
ダリアとメリッサが兵士にステータスプレートを渡す。
「二人共レベル40を超えている・・・・」
兵士達はプレートと彼女達を交互に見る。
「何か問題ありましたでしょうか?」
メリッサが兵士に問いかける。
「い、いや大丈夫だ。このレベルなら山越えも問題無いだろう。通っていいぞ」
「ありがとうございます」
「ふう、無事に入国出来たな」
「兵士の方達がレベルを見て驚かれてましたね」
セレーナがダリアに話しかける。
「オレ達の年齢でこのレベルだからな。そりゃビックリするだろうな」
「そうなのですか?」
「ああ、ルーナ様の加護が無ければオレやメリッサの歳でこのレベルは到達できないぜ。
倒す数次第だけど頻繁にイーストロックに狩りに行っていてもあと5年から10年はかかるんじゃないか?
あの兵士達がセレーナやソウイチロウさんのレベル見たら腰抜かすぜ?」
先日ひさしぶりにレベルを確認した所、セレーナは53で俺が62になっている。
俺はともかく、セレーナのレベルはかなりおかしく見えるだろう。
セレーナを護衛の冒険者設定にしなくて正解だった。
無事に砦を抜けて先へ進むと遠くに大きな山脈が見える。
「あとは山越えだけか」
この先、王国までは山を一つ越える必要があり、山の途中に村が一つ、越えた先に村が一つある。
山には魔物も居るが道を外れなければイーストロック級の魔物は出て来ないということだ。
「周りを山に囲まれてると入るのも出るのも苦労するのにどうしてこんな不便な所に国を作ったのでしょうか?」
御者台のセレーナが隣に座るスミレに話しかけた。
「恐らくは現在の主要産業である鉱山の町が発展して出来た国なのかもしれんな。もしくは鉱山で発展した街をどこか国が乗っ取ったのかもしれん」
「街を乗っ取るんですか?」
セレーナがスミレの答えに戸惑う。
「ただの憶測だ。本気にするな」
スミレが軽く笑いながらセレーナに返答する。
「他国が攻め辛いというのが最大の利点だろうな。大きな山に囲まれていれば行軍するだけでもかなりの体力と兵糧を消耗する。
仮に数万の兵が行軍してこようが山道以上に広がって進む事は出来ん。逃げ場のない場所で待ち伏せでもしていれば少数の兵でもかなりの数の敵兵を葬る事が出来る。守るには最適な天然の城塞となる」
「なるほどです!」
スミレの話をふんふんと聞きながら楽しそうなセレーナ。
「ワン!」
「惣一郎、森の中に何か居るぞ」
スミレの言葉より先にルーナが森の中に入っていった。
「ルーナ!」
「「「ルーナ様!」」」
馬車を止めてセレーナがルーナの後を追う。
「スミレ、敵か?」
「いや敵ではないが血の匂いだ」
草むらがガサガサと音を立てる。
「「「!?」」」
惣一郎、ダリア、メリッサの三人が見構えるとスミレが前に出て3人を制した。
「慌てるな」
「ワン!」
「皆さん!ケガ人です!」
ルーナとセレーナが親子と思われる女性と小さな子供を抱えて戻って来た。
馬車の中で二人の手当てをする。
少しして女性が目を覚ました。
「・・・あ、クルス!・・子供は!?」
「隣です。一緒に治療して、今は寝ています。大丈夫ですよ」
メリッサが声をかけた。
「ありがとうございます・・・」
隣で寝息を立てている小さな子供の顔を見て安心する女性。
「事情をお聞きしても大丈夫ですか?」
俺は彼女に事情を聴いた。
彼女の名前はラエナ。子供の名前はクルス。
2人はこの先にある村の住人で2日前に村が竜の群れに襲われ、常駐している兵士が応戦している間に村人達は方々に逃げたという。
彼女は夫婦で子供を抱えて逃げたが、竜に見つかりその際に負傷、夫は2人をかばって犠牲になったそうだ。
「ワイバーンの群れか・・・ルーナ、スミレ、ここから何か感じるか?」
「いや、まだ遠いな」
「クゥゥン」
「そうか・・・リネットと襲ったのと同じ奴らだと思うか?」
「ワイバーンは縄張りから出ない習性を持っているからな。巣分かれで縄張りを出るならまだしも、意図的に町や村を襲う事はほとんど無い。察するにこの間の奴らの仲間がワイバーン達をあやつり率いてるのだろう」
「タイミング的にもそうなるか・・・」
「私達の進行方向を推測して先に村を襲い、待ち伏せてるという事でしょうか?」
メリッサが所見を述べる。
「確定では無いけど十中八九そうだと思います」
「次は我が相手をしてやろう。惣一郎達は竜と適当に遊んでいれば良い」
「遊んでって・・あまり無茶はしないで下さいね」
「心配には及ばん」
スミレは惣一郎にウインクしながら答える。
「いえ、スミレに無茶されると村が無くなる恐れがあるので・・・」
「・・・・善処しよう」
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
9月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
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少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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