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―異物―

 試着室の鏡の中に居た自分は懐かしい姿だった。

 二十歳前後の自分だった。


 若い!なにこれ、若返った?いつ?。

 こちらに来てから今まで自分の顔を見る事が無かったから気が付かなかった。

 転生した時に若返った?それとも魔導書の時?白い空間で話してた時・・・?ああ、それでアンダンテは鏡見ろって言ってたのか。回りくどい言い方しないで普通に教えてくれたっていいのに。


「オトナシ様?大丈夫ですか?」

 ガボットが声をかけてる事に気が付いた。


「んあ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていて、すいません」


「本当に大丈夫で?なんか変な顔してましたよ。気分が優れないなら薬湯をお出ししますので言って下さいな」

 すいません、元からこんな顔です。


「いえ、本当に大丈夫です。ご心配おかけしました。それにしてもこのコクテツ?の防具、良いですね。軽いけどプレート部分は丈夫そうな作りをしていて、接合部の革も柔らかくて動きやすい感じがします。ブーツと一体化してる脛当てのプレートは踝部分で繋いであるので、あまり重さを感じず、擦れる事が無いので動き易いですね。」


「ええ、ここじゃ屈伸位しか出来ないから動きは良く分からないでしょうけど、こいつはこの店で一番良い防具です。黒鉄鉱こくてつこうから作ったプレートと柔らかくて丈夫なサーベルブラックタイガーの革を使った軽装の革鎧で、私の十八番なんですよ」


 試着室は6帖位の広さは有るものの、壁際は鍋や武器や鎧やらなんやらが飾ってあって、大人二人が入ると少し狭く感じる。何で試着室に鍋あるんだよ・・。


「黒鉄鉱は西の大陸に行けば簡単に手に入るんですが、この大陸のこんな辺境の村じゃ行商が持ってくる事も少ないんで、街に通わないと中々素材が手に入らないんですが、先月たまたま材料が揃ったんで、久々に作ってみたんですよ」


「こんな平和なド田舎の村で買う人なんて居ないんですけどね。冒険者だって馬車の護衛依頼を受けた駆け出しの初心者しか来ないし」

 ポプリがガボットに愚痴を言う。


「こら、ポプリ止めねえか。他の客の前ならともかく、オトナシ様の前で愚痴なんてこぼすんじゃねえ」


「うー。ごめんなさいオトナシ様、つい愚痴ってしまって」


「いえ、仲の良い親子の様子をみて和みましたよ。それに今この防具は私が買うので、大丈夫です」


「本当ですか?やったー!これで私の欲しい道具が買える!お買い上げありがとうございます!オトナシ様は神様だー!」


 神様になってしまった。

 にしても嬉しそうだ。異世界初の買い物でこんなに喜んでもらえて何よりだ。


「支払いは先程の魔石で大丈夫ですか?足りなければまた取って来ますが?」


「十分足りますよ!むしろお釣り出さなきゃいけませんので少々お待ち頂けますか?」

 ポプリが答えた。


「あ、お釣りは良いですよ。色々有益な情報を教えて頂いたので、授業料としてお支払いさせて頂きますので、どうぞお受け取り下さい」


「いえ、そんな!いけませんぜ。あれ位の話とこれのお釣りじゃ文字通り釣り合わねぇし、サンシーカー様のご友人からぼったくったなんて知れたら村中から白い目でみられてしまいやす!釣りはしっかりお戻ししますのでお待ちください」


 そう言うと二人で店の奥に入って行った。


 うーんなんか逆に悪い事してしまったなぁ。

 他に何か買っていくか。飾ってある装備で何かよさげな物無いかな。


 ちなみに服はこの軽装鎧のインナーとして付属していた専用品に変えたので。自分の服は畳んで【キューブ】に入れようとしたのだが、上着のジッパーやジーンズのジッパーをみて、ガボットが驚き、構造を見たいから俺の服を少し預からせて欲しいと言ってきた。汚れてるから洗ってから渡すと言ったら「それ位はこっちで丁寧に洗濯しておきます!」と目をキラキラさせながら言われたので、そのまま靴も一緒に預けた。


 顔が近かったので暑苦しかった。


 そうだ、野営する事もあるだろうから道具があれば一式買っておこう。

 お釣りを持ってきた二人に、野営用の調理道具やナイフ等ここで揃えられる道具を全て見繕ってもらい、ついでにダガー10本と槍5本、軽めの金属盾を3枚と黒鉄の盾を1枚買った。

 それでも金貨1枚のお釣りが出るというので、その金貨1枚の予算で作れる範囲で良いから、と予備武器の作成を依頼しておいた。

 ポプリが目を潤ませながら何度もお礼を言ってきた。


 この子、それなりに苦労してるんだな。欲しい道具があるとか言ってたが、沢山買えると良いな。


 買った物を村長宅まで届けるというので、持って行けるから大丈夫と言い、全て【キューブ】に入れたらかなりビビられた。聖霊様の知人に教えてもらった魔法だと言ったら「流石サンシーカー様のお知り合いだ・・・こんな聞いたこと無い魔法も使えるなんて」とか言って納得していた。


 試着してる間にセレーナとルーナは店の外に出て追いかけっこしてた。若い子は体力あるな。十代ってこんなに走り回ってたっけ?そう言えば俺も見た目は二十歳位なんだよな。肉体年齢も二十歳くらいになってんのかな?中身は四十だけど。


「さて、それではこの後森に入って鎧に慣れてきます」

 そう言うと「調整したい所があればすぐやりますので戻り次第いつでも言って下さい!」とポプリが元気に返事をしてくれた。


 店を出ると何人かの子供と大人が店の前に居た。

 子供の方はルーナとセレーナに交じって一緒に遊んでいるみたいだ。


 大人はそわそわした感じで俺の方を見ていたので挨拶も兼ねて話しかけた。

 先程の村人と同じような話をして日が傾く前に少し森に入りたいからと話を切り上げてルーナを呼ぶとセレーナも一緒に森に行きたいと言われたので、「森に入る前にお風呂に入った方が良い」と言って頬についた肉球スタンプを拭ってあげたら顔を真っ赤にしていた。


「ルーナ、森に行って装備の動きを確かめるぞ」

「ワン!」


 セレーナに家に戻る様言い、ルーナと森に入る。


「魔物が居たら教えてくれ」

「ワン!」


 獣道っぽい場所をひたすら進んでいく。途中で倒したスライムは4匹。魔法は使わずに防具の動きを確かめる。魔石は相変わらず昼間と同じ高品質の物が出る。


「しかし平和な森だな。スライム以外の魔物は居ないのか?」

 ルーナを見る。

「ワンワン!」

「聖霊の守護のおかげか。アンダンテもあと百年はこの森に強い魔物が住みつく事は無いって言ってたし。それにしても結構奥まで来たな」


 気が付くと空が赤く、もう日が落ちそうな時間だった。

「そろそろ戻らないとか。さっき買った野営セットも使ってみたいが、多分帰らないと村長宅で用意されてるであろう夕食を無駄にする事になるはずだ」

「ワン!」


 ルーナを見ながらそう言って戻ろうとした時だった。


「ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!」

 正面から木々をかき分け揺らしながら大きな物体が歩いてくる音が聞こえた。


「隠れよう」

 そう言いながらルーナを抱きかかえ【ディストーション】(亜空間迷彩)を唱えた。

 自分自身の体が半透明になる。

「これ自分以外からはどう見えてるんだろう」

 不安になりつつ、念の為木の陰に隠れた。

「ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!」

(あれ、魔道アーマーじゃん!)心の中で叫んだ。

 ゲーム世界で見た事のあるマシンだった。細部は違うが殆ど同じような形。二足歩行で左右に多銃身機銃が2門、主砲と思われる砲門が真ん中に1門。搭乗部は密閉型で中は見えないが人間が操縦してると思われる。それが2機で歩いて隠れてる俺らの真横を通り過ぎた。


 あれは何処から来たんだ?そして何してる?この世界にも科学があった?アンダンテが寝てる間に発展したとか?

 そう考えてると抱えていたルーナが唸り声をあげた。

「グルルルルルル」

「アイツ見た事あるのか?もしかしてアイツがやったのか?」

「ワン」


 見た瞬間何となく分かったが、やはりそうだった。サンシーカーをやったのはアレだ。

 ずっと疑問に思っていた。このスライムしかいない平和な森で、サンシーカーの様な聖霊という強力な守り神を倒し、化け物に変えた奴はどんな奴かと。


 だがアレ位の兵器でやられる程サンシーカーは弱くない筈だ。まだあの兵器とは戦っていないが、共に意識を共有したサンシーカーの方の強さは何となく分かる。

 他に何か仕掛けでもあるのか?何か卑怯な手でも使わない限りサンシーカーは倒せそうにないと思う。


 アイツ等の来た方向を探ってみるか。

 幸いあいつらの足跡はデカいし、木々を倒して進んでるから通った道は広く追跡は容易い。

 ルーナを地面におろしその方向へ向かう。


 足跡を辿りアレの来た方向へとしばらく歩くと、薄暗い森の木々の間に黒く大きな柱が見えた。六角柱だった。

「なんだこれ」

「グルルルル」

 ルーナが唸る。

 柱からは黒い(もや)が湧き出ている。いかにも禍々しい何かだった。

「これはやっぱり呪いとかの類なんだろうな」

「ワン!」

「状況からみてもアイツ等が設置していったんだろうな。この森中に同じを仕掛けて何かするとかそういうパターンなんだろうな。でもアイツらは何処から来たんだ?この森に基地でもあるのか?」


 その時だった。

「聖霊の森を救え」

 例のタイトルコールだった。


(ぅおぃ!このタイミングでやめろ!)


 完全に不意を突かれて変な声を出した。

 まだ【ディストーション】(亜空間迷彩)は切れていないがドキドキしながら周りを確認する。

 ・・・大丈夫そうだ。


「さて、この状況でこいつは破壊しない訳にはいかないな。硬そうだがこの剣で切れるかな?」

「ワン!」

「きちんと壊すまで何時間でも頑張ってみるさ。アイツらも追わないといけないから時間もかけられないけどな。村に行くかもしれないし。」

「ワン!」

「よし、【オーバードライブ】(過剰強化)の出番だな。」

【オーバードライブ】と口に出す。薄く光る自分の全身に少し驚き、掌握運動の様に両手を動かして力の感触を確かめる。問題なさそうだ。腰の剣を抜き、黒い柱の前に立ち、正眼に構える。


 深呼吸をし、腕に力を籠める。剣が弾かれる前提で剣を強く握っておき、振りかぶり、袈裟斬りに斬り下ろした。


 シュン!と音がして、剣は弾かれずに振り抜く事が出来た。


「アラ?っとっとっと」

 弾かれても良いように構えていたが、振り抜いけてしまったので勢い余って柱側につんのめってしまった。


 トン。と柱に肩のプレートが軽く当たると、柱の上半分が斜めに滑り落ちた。

 ズン!・・・・ドン!っと地面を揺らし倒れた。近くの木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立った。


「完全に剣の性能だなコレ」

剣を見ながらつぶやく。

俺には武道の経験など無い。しいて言うならば子供の頃やったチャンバラごっこ位なものだ。

倒れた柱を見ると黒い(もや)が消え、中から白い物が出ていた。


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