―龍信仰の街―
惣一郎が目を覚ますと薄暗い場所で横になっていて、誰かに頭を撫でられていた。
「ここは・・・?」
眠い目をこすり空を見上げると星は無く、代わりに何か大きな物が視界を遮っている。
「起きたのねクラリス・・・」
「クラリス?」
惣一郎は自分の事をクラリス呼ぶその女性の事を知っていた。
「アナタはファフニール?」
「ええ、そうよ」
膝の上の惣一郎の頭を撫でながらファフニールが優しい声で返事をする。
「おはようございます、ですかね?」
「もうお昼よ お寝坊さん。遅くまで起きてたから疲れちゃったかしらね」
「えっと、何かありましたかね?」
そう言って目の前にあった彼女の大きな胸を避けつつ上半身を起こすと二人共服を着ていない事に気がつく。
「そうね、惣一郎の身体を借りてクラリスと愛し合っていたわ」
そう言いながら惣一郎にそっと抱きつくファフニール。
(ああ、そうだ、クラリスに身体を貸したんだっけ。でもその後の事は覚えていないな)
「うふふ、数千年ぶりに彼と媾う事が出来た。貴方のお陰よ惣一郎」
ファフニールは惣一郎の耳元で囁く。
「ああ・・・そうか。それはまあ、良かったというべきなんですかね。あ、と、そう、呪いが解けたんですよね。良かったです」
惣一郎はしどろもどろになりながらも二人を祝う。
「ええ、ありがとう。本当に嬉しいわ。」
「それに男の身体と媾ったのは初めてだけれど、凄く良かったわ・・・」
「え?男で?身体で?初めて?・・・?ん?意味が良く分かりませんが?」
「うふふ、クラリスは男だけれど身体は女だったのよ」
「え!?」
あの時見たクラリスの魂は綺麗な青年の姿だったはずだが、彼の肉体は女性だったという事か。
そしてクラリスとファフニールはつがい・・・つまりそう言う事か。
惣一郎は一人で納得すると話を続けた。
「そうだったんですね。クラリスさんの魂を見た時、男性の姿だったからてっきりそうかと」
「クラリスはまごうこと無く男よ。例え身体が女だろうが私たち二人には何も問題は無いわ」
抱きついたままのファフニールはハッキリと告げた。
「はぁ、クラリス。昨夜の貴方はとても素敵だったわ・・・・」
ファフニールは昨晩の余韻に浸っている。
「あの、所でここは何処でしょうか? 他のみんなは何処へ? あと私の装備と服は?」
惣一郎は辺りを見渡して現状把握に努め始めた。
あの夜、龍の叫びで気を失い、クラリスとファフニールの再会を見て、アンダンテに過去の話を聞いた後の記憶が無い。
「ここはあの山の私の寝床よ。何処にも移動していないから安心して。他の3人には特に何もしていないからあの場所に要る筈よ。そして惣一郎の装備はあそこにあるわ」
彼女の指さす方向を見ると装備が乱雑に脱ぎ捨ててあった。
惣一郎はゆっくりと立ち上がると地面には座布団が敷かれていた事に気が付く。
(これ、俺が出したのか?)
「惣一郎の荷物を使わせて貰ったわ」
ファフニールが背中越しに伝えてくる。
「なるほど。流石に人の身では地面は痛いですからね」
惣一郎は散らかっている自分の服と装備を集めて着替えると、広い洞窟の奥に何か光る物を見つけた。
(あれは?)
そう呟くとすぐ後ろにファフニールが立っているのに気が付いた。
「あれは結晶石よ」
ファフニールはそのまま結晶石の下へと歩き、落ちている結晶石を全て浮かせて自分の手の平に乗せた。
「これは貴方にあげるわ」
ファフニールは手の平に輝く結晶石全てを惣一郎に差し出した。
これはアンダンテさんの言っていた龍の涙と呼ばれる結晶だ。
惣一郎は龍の涙という名前は口にせず、無言で受け取る。
そのまま布団の場所まで戻り、再度話し合うために二人で向き合って座った。
「ファフニールさん、貴女はこれからどうされますか?」
「うふふ、惣一郎はどうして欲しい?」
彼女は意味ありげな視線を投げかけて惣一郎に意地悪な聞き方をする。
「私の意見ではなく貴女の意思を聞かせて欲しいのですが・・・」
惣一郎が少し困った顔で聞き返す。
「うふふ、冗談よ。私は貴方に着いて行くわ。そうすればまたクラリスと逢えるって彼が約束してくれたもの」
「ああ、そうか。彼は他に何か言っていませんでしたか?どうして剣の中に入って居たのかとか」
剣の事を思い出して腰の剣を手に取り鞘から引き抜くが、いつもの折れ剣の綺麗な刃が見えるだけで何も変化はない。
「そうね、残念だけれど聞いていないわ。でも彼は私に嘘はつかない。彼が私に貴方と歩めとそう言った。だから私はそうする。それが私の意思よ」
「そうですか。色々聞きたかったのですが、彼はもうここには居ないようですね」
「ええ、でも貴方の中からクラリスの匂いがするの。きっと貴方の中に少しだけ彼が残って居るのかもしれないわね。・・・凄く良い匂い・・・」
そう言いながらスンスンと惣一郎の首筋の匂いを嗅ぐファフニール。
「わ、わかりました。それでは取り合えずファフニールさんも服を着て貰って、皆の下へと戻りましょう」
今にも自分を押し倒しそうな勢いで身を乗り出してくるファフニールに焦り、惣一郎は立ち上がって座布団を仕舞い始めた。
「うふふ、そうね。それじゃあ行きましょう」
ファフニールは立ち上がると薄暗いこの場所でもわかる位の透けている薄い服を纏って居た。
「あの、透けてない服でお願い出来ますか?」
「貴方の好みに合わせたのだけれど・・・ダメ?」
惣一郎はなんだかデジャブを感じるこの展開に少し怯えつつもダメを出す。
「ダメです」
「うふふ、それじゃあ・・・」
その後、色々なコスプレを披露するファフニールに疲弊しながらなんとか普通の服を着せる事に成功した惣一郎は彼女に案内されて寝床と言う名の洞窟の出入り口を目指す。
まあ普通の服と言っても着崩した紫の着物姿で、肩と足を出し、足元は白いブーツという出で立ち。
惣一郎をからかうファフニールに対しての返しを繰り返す事に寄る精神的な疲労と、透けて居ないからという大雑把な理由で色々大目にみて納得した。
出入り口に至るまでの間、ルーナと竜騎士とヴァイオレットの事を話し、コルグに居る3人の事も伝えた。
アンダンテの事は言わなくても分かるだろう。ファフニールもあの場所に居たのだから。夜にでも3人で話そうかと思う。
この世界の龍というものの存在の大きさや役割が分かっていないからまだ何とも言えないが、出来る限りの事はしてあげたいと思う。
出口から差す日の光が眩しく、目が眩む。
「さあ、惣一郎、我の背に乗るのだ」
日の光に目が慣れるとファフニールは大きな龍の姿になっていた。
「おおっ! これは・・・綺麗だ」
深い紫色の綺麗な龍の姿に見惚れる。
これが毒の龍だとは夢にも思えない程だ。
「ふふ、褒めても何も出んぞ」
彼女の背中に乗ると一瞬で上空へと飛び立った。
「一瞬でここまで!?」
確かにこの速さなら昨日の素早さも納得できる。
剣を感知して一瞬で俺達の頭上に飛んで来ていたからな。
「さあ、降りるぞ」
ファフニールはそう言うとルーナと竜騎士と小竜の待つ野営地へと降り立った。
「ワン!ワン!」
「ルーナ、ただいま。心配かけてごめんな」
「ワン!」
龍の背から地面に降りると同時にルーナが飛んできた。
「おわっ!」
既に対格差が大きく離れているのでルーナに押し倒される惣一郎。
顔が一瞬で涎まみれだ。
そんな二人を気にせず竜騎士ジャックはファフニールに対して膝を着き頭を垂れ、ヴァイオレットは地に伏せている。
「大儀であった。面を上げよ」
「は!」
「お前は誰の遣いだ?」
「はい、ティアマット様に御座います」
「そうか。奴は息災か」
「はい。ファフニール様より遥か以前に解呪されました」
「そうか。それは欣快の至り」
「他は?」
「他には御座いません。ファフニール様だけでございます」
「奴は今は何処か?」
「ティアマット様は西の大陸、ドラゴンロードにてお待ちでございます」
「知らん名だ」
「ティアマット様が新しく作られました街ゆえ」
「・・・・・・そうか、ではそのうち寄ると伝えよ。我はクラリスとの約束がある。惣一郎と共に往く」
「承知致しました」
「ファフニール様」
「なんだ?」
「お戻りになられた事、大変嬉しく存じます」
「ああ、これからも我の仲間を頼む」
「御意にございます」
「惣一郎、良いか?」
「え?、あ、はい!」
突然のお呼び出しに驚く惣一郎。
既にルーナは落ち着かせて座らせてある。
「彼がこれから我と共に歩む者、我を導く者だ。アイツに伝えてくれ」
「は!」
「それと、ティアマットの事、ドラゴンロードの事、お前の知ってる事を全て話せ」
「それは構いませんが・・・」
ジャックは跪いたまま俺の方を見ている。
恐らく部外秘の情報なのだろう。
「秘匿の契約か」
ファフニールはジャックの頭に手を乗せ、聞き取れない程の声で何やら呟いている。
「これでいい、契約の理から惣一郎を外した。話せ」
ジャックはそのまま話を始め、話終わるとファフニールに促され、ヴァイオレットに乗り、西の空へと飛んで行った。
「ドラゴンロードか・・・」
ジャックから聞いた話。
ドラゴンロードについて
ドラゴンライドが滅ぼされた千数百年後、奇跡的に一人のドラゴンライドが転生し、自分の半身との再会を果たした。
彼は前世の記憶を持って生まれ変わり、新しい両親の元ですくすくと育ち、やがて旅に出た。
呪われた龍を探す旅だ。
そうして過去の記憶を頼りに世界各地を周り、ついに自分の半身である龍を見つけ、呪いを解いた。
魂を取り戻したドラゴンは、転生した彼と共に、二人だけで限りある時を生きた。
ドラゴンライドはその寿命を終える時、半身である龍に願いを託した。
「私達ドラゴンライドが再び半身達と出逢うその時まで、未だ闇の中に居る龍達を守って欲しい」と。
ドラゴンはその願いを聞き入れた。
しばらくして1つの山の麓に小さな村が出来た。
その村はかなり辺境の地であるにもかかわらず、龍が守護する村とうわさが広がり、すぐに栄えてやがて大きな街となった。
世界で唯一ドラゴンが守る街、龍信仰の街、古龍の街、その名を「ドラゴンロード」
ドラゴンロードのギルドには、唯一のジョブ、「竜騎士」がある。
古龍に認められた者だけが成る事の出来る、使命の課せられたジョブ。
認められた竜騎士達は、古のドラゴン(古龍)から新しい名前と1つの小竜を授かる。
そして生涯、竜騎士となり、小竜と共に生きる誓いを立てる。
小竜とのつがいは「ツヴァイ」と呼ぶ
古龍より与えられる名前は「ハイウィンド」
姓名の姓として使われる。
結婚は自由だが、殆どの竜騎士は生涯独身を通す。
竜騎士の使命は龍の保護。ただし、こちらは表向きの使命で、本来の使命は、ドラゴンライド達が転生し、再び古龍達との再会を果たすまで、古龍達を守る事。
こちらは古龍と竜騎士以外の人間には伝えられない。
これはいつか転生してくると思われるドラゴンライド達の安全と、魂を無くし怒りに囚われてる呪われた古龍達を殺さずに守る為の措置である。
竜騎士はこれを口外しようとすれば魂ごと消滅する。命約を交わしている。
使命の特性上、現在の竜騎士の数は不明で、竜騎士達も知らないし、その居場所も不明。
パーティを組む事も極稀で、基本的に小竜としか行動しない。
古龍と小竜はそれぞれ精霊種の龍族だが、それ以外の竜に似た生物は全部魔物。
竜型の魔物はワイバーン種というらしい。
彼等についてだが、普段は魔族を狩りながら居場所の分かっていない龍の捜索をしてるとの事。
今回ファフニールを見つけられたのは幸運だったと。
恐らく俺の持つ折れ剣の中のクラリスの魂に惹かれて移動して来たのではないかと推測された。
ファフニールはよく覚えていないとの事だった。
あと、竜騎士と小竜は魔族感知と魔族系特攻を持っているので魔族全般に対して索敵攻撃防御共に強いとの事。
ジャックには話の途中で俺の黒髪を見せたが「そもそも最初の時点で小竜が反応してないお前は魔族では無い。髪色位で竜騎士に襲われる事など無い」と微塵の動揺も見せずに言われた。
小竜について。小竜は成長してもせいぜい象程度の大きさだった。
比較対象が無いのでヴァイオレットの最大サイズを見せて貰った。
成長すれば自在に大きさを変えられるらしい。(大型犬サイズから高さ8m位まで)
例外として親の古龍と共にある時だけ、本来の龍の姿に変わる事が出来る。
その時は力の制限も解除される。
ここからはギルドで聞いた余談だが、竜騎士は全大陸で目撃はされるが、街は拠点として使われる事は無く、各ギルドへの立ち寄りも不定期である。
村人や冒険者が竜騎士に救われたという報告は多く、「ドラゴンロード以外で竜騎士を見たら良い事がある」等、目撃する事自体が縁起の良い事柄とされている。
「では惣一郎、コルグへ参ろうか」
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
9月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
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少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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更新時間は通常、朝8時に致します。
9月も頑張ります!
宜しくお願いします!




