―龍の涙ー
「こんばんは、アンダンテさん。調子はどうですか?」
「こんばんは、音無君。悪くは無いけどまだ馴染んではいないわ。まあまあって所かしらね」
「そうですか。今回は前回よりも大きい魂量だったんですかね?」
「いえ、魂の大きさは等分よ。多分記憶の容量が大きかったという事かしらね。私も初めての経験だからまだ何とも言えないわ」
「なるほど」
「所であの状況を見るに、二人は再会して龍の呪いが解けたという事で良いんですよね?」
「そうね、まさかあの剣にドラゴンライドの魂が入っていたとは思わなかったわ」
「そうですね、驚く暇もありませんでしたが、驚きました」
「アンダンテさんはあのお二人とはお知合いですか?」
「直接の知り合いではないけれど、二人の名前は知ってるわよ」
「龍騎士 クラリス・ハイウィンド」
「瘴套龍 ファフニール」
「しょうとうりゅう?」
「彼女は瘴気を纏う龍。いわゆる毒の龍よ」
「毒ですか・・・怖いですね」
「まあ、音無君ならその強さも分かると思うけど、大体は貴方の想像の通りよ」
惣一郎は瘴套龍の強さを想像してつばを飲み込んだ。
「何にせよファフニールは無事に呪いが解けたようで良かった・・・」
アンダンテは緩やかな笑顔でつぶやいた。
「・・・もし良ければお聞きしても良いですか?」
惣一郎がアンダンテにそれとなく尋ねる。
「ええ、龍騎士と龍の事ね。大丈夫よ。その事に関して、この前の融合で少し記憶が戻ったから、その部分を話してあげるわ」
「お願いします」
惣一郎とアンダンテの二人が向かい合ってソファーに座ると、アンダンテが遠い昔の話を始める。
「以前に話した龍が滅ぼした帝国の話。その顛末」
「原因となったのはドラゴンのつがいであるドラゴンライドが殺された事」
「当時のドラゴンとドラゴンライドのつがいの事をディオと呼んでいたのだけれど、デュオは本当に強かった」
「空中から一方的に攻撃が出来るドラゴンと、龍の背から飛び降り、地上に強力な攻撃を放っては、凄まじい跳躍力ですぐにまた空中の龍の背へと戻るドラゴンライド。
ディオ達は互いの攻撃では傷一つ付かないため、龍の加護を受けたドラゴンライドはドラゴンのブレスの中から攻撃したり、敵が入る事の出来ないブレスの中に隠れたりと、攻防一体化した戦術で戦う無敵の戦士達だった」
「ドラゴンライドは人間としても優れた人格者ばかりだったわ。誰に対しても優しく、常に公平で、決して驕らず、自分を厳しく律する事の出来る人間ばかりだった」
「そういう人だからドラゴンライドになれたのだけどね」
「でもその強大な力を恐れた国があった。それがかつて帝国と呼ばれた国」
「帝国は、魔族との戦争で、長い間、共に戦った仲間である筈のドラゴンライド達を皆殺しにした。
それも敵である筈の魔族と手を組んで」
「ディオはお互いが傍に居る時には、多分この世界の誰も彼らを殺すことは出来ない位強いのよ」
「でも、お互いが離れて居る時ならその限りでは無かった」
「そして彼らを殺したのは帝国の人間と無属性の魔法使い達だった」
「その魔法使い達は家族を人質に取られていた。帝国の人間が領土内でそんな事をしてもすぐに助け出せるけど、彼らの家族を攫ったのは魔族で、しかも攫われた家族達は魔族領の最深部に囚われてた」
「【ディストーション】を使える魔法使いでも、魔族領の中心は簡単に辿り着ける場所では無い」
「強力な魔力探知を使える上級以上の魔族相手だと完全とはいかないのよ」
「少しの魔力の揺らぎを起こせば見つかってしまう。魔族を倒しながら進むことは出来ても、家族を助け出して、守りながら魔族領を抜ける事は難しい。だから奴らの約束が嘘だと分かっていてもアイツ等の要求を飲むしかなかった」
「家族を無事に返してほしかったら、王宮に集めたドラゴンライドを全員殺せ」
「それがあの卑怯者達の出した命令だった」
「そしてそれは4人の魔法使いによって実行された」
「王宮に集められたドラゴンライドは20人、この世界のドラゴンライド全員よ。ドラゴンが居ないとはいえ、あの人たちが逃げれずに全員殺されたなら、殆ど一瞬だったと思うわ」
「どんなやり方をしたのか想像はついているけど、魔法使い4人全員が自分達も巻き込まれる形で魔法を使い、自分達ごとドラゴンライド全員を殺した」
「その後、悲劇が起こった」
【ディオの呪い】
「のちにそう呼ばれた呪いは、まだ確認できていない呪いもあるかもしれないけど、当時の私が確認しただけで6つ」
【一つ目は死の呪い】
「その場にいた全員とその家族が死んだ。計画を知らない者も含めて全員死んだ。恐らく魔族の方も関係した者達と、ソレ等と最も近しい血族は全員死んだと思うわ。魔族領には調査に言っていないから確定では無いけれど」
「でも冒険者達から、同時刻に「戦っていた魔族がいきなり死んだ」という報告がいくつか上がっていて、その情報を複数のギルド関係者から直接聞いたから、多分間違いないわ」
【2つ目は不才の呪い】
「計画に関係し、死んだ者達の血縁者は魔法適正が無くなった。その後生まれてきた子供も、その子の子供も全員魔法適正が無く、魔法が一切使えなかった。多分今でもその血縁が残っていれば呪いは続いていると思うわ。これも魔族側は確認していないけど、魔族にも死の呪いと同じように、等しく呪いはかかっているでしょうね」
【3つ目は大地の呪い】
「ドラゴンが滅ぼした帝国があった場所は一週間程度で砂漠になった。最初は帝国領土だけだったけど、周りの大地も浸食されるように砂漠化していって止める手立てが見つからなかった。最終的に西大陸の半分が砂漠化したわ」
【4つ目は凍土の呪い】
「魔族領の有る北の大陸は以前は年の半分だけ冬で、天気の良い日も多かったのだけど、それが1年通して太陽を見る事は出来ず、ほぼ毎日雪の降る極寒の大陸となり、多くの生物が居なくなった」
【5つ目は憎悪の呪い】
「ドラゴンライドという半身を失ったドラゴンは自分自身に呪いをかけた。龍の姿を見た者に激しい嫌悪と威圧、恐怖、悲しみ、憎しみを感じさせる呪いだった。普通の人間なら龍の姿を見た瞬間、その場で呼吸が止まって死ぬわ。鍛え上げられた冒険者でもまともに戦える状態とは言えない位に衰弱する凄まじい呪いよ」
【6つ目は絆の呪い】
「あの事件は「ディオの悲劇」とも言われているのだけど、事件の後、聖霊やドラゴンが一切誕生しなくなった。勿論ドラゴンライドも。精霊たちと深い絆が結ばれる事が無くなってしまったのよ」
「私が確認したのはこの6つね」
「ドラゴンの数20。このうち約半数はその後自ら魔力を使い切り消滅した。
所謂自殺よ。そして残りの龍達は、何処かへと消えて行った」
「死んだドラゴン達の聖霊石は残らなかった。聖霊石ごと消滅した」
「そしてその龍達が消えた後、龍の巣窟奥ではどこも多くの宝石が発見されたわ」
「宝石の名前は龍の涙」
「文字通り龍の流した涙が結晶となった物」
「光の届かない暗い巣窟の奥深く、それだけが寂しく輝いていたそうよ」
「遺物級の宝石だから今でも西の王国の宝物庫に眠っているんじゃないかしら?」
「どうせあの宝石をまともに扱える人間なんて当時でも数えるほどしか居なかったから、きっと今でも宝物庫にそのままの状態で保管されてるわ」
「ドラゴンに関する昔話は以上よ」
「え? その時のどさくさにまぎれた私の仕返し?・・・
そうね、呪いの混乱に乗じて魔族領の中心まで行って暴れただけよ。
ついでに魔族に捉えられていた人間を数人見つけたから助けてあげた。残念ながら彼等の家族ではないけれどね。
他にも少しやったけど、大したことじゃないわ」
「私の話はどうでも良いけど、ともかく5つ目と6つ目の呪いはどうにかしてあげたかった。方法は探っていたけど、まだ有効な手立ては見つけられていない。
どうにか出来る事があれば良いのだけどね・・・」
「でも、ファフニールはクラリスの魂に触れる事で呪いが解けた。これは凄く大きな1歩よ」
アンダンテは話を終えると静かにソファーへと横になった。
惣一郎は彼女の隣へ座り自分の膝に彼女の頭を乗せ、髪を優しく撫でた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
1回目のワクチン接種後の副反応は注射カ所の痛みだけで済みました。
皆様もお身体にはお気をつけてお過ごしくださいませ。
9月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)
誤字報告なども頂ければ即対応させて頂きます。
更新時間は通常、朝8時に致します。
9月も頑張ります!
宜しくお願いします!




