―仲間―
光の中から小女が現れる。
緑色の髪、服とは呼べないようなボロい麻袋に穴を空けただけの物を着た少女。
彼女は俺の手を取り、ニコっと笑うとそのまま俺を導くように歩き出した。
しばらく歩き、扉の前まで来ると彼女が耳打ちしてきたので、膝を落として耳を近づけた。
「・・・・」
目を覚ますと、心配そうに俺の顔を覗き込むセレーナの顔が見えた。
「ソウイチロウ様!」
「ワン!」
「起きたか!?」
「大丈夫ですか?!」
惣一郎は目覚めるとみんなの顔と辺りを見渡した。
「外に・・・出て来たのか?」
セレーナ達は惣一郎が倒れた後の事を話し、管理者メイズの話や選んだ報酬の事、砂漠の移動迷宮の事も告げた。
「そうかこの迷宮にはメイズという管理者が居たのか。それはそうと心配させてしまってごめん」
「いえ、ソウイチロウ様が無事なら私はそれで」
「ワン!」
「いきなり倒れたから驚いたぜ」
「でも身体の異常が無くて安心しました」
「すまなかった、ああなる可能性について先に話しておくべきでした」
「ソウイチロウ様はしばしばあのような事が起こるのですか?」
「いえ、特定の状況でしかならないので普段気を失う事は殆どありません」
「特定の状況ってのはどんなだ?その本と関係してるのか?」
ダリアは俺の抱えている本を指さして質問する。
「その辺りは詳しくは言えませんが、本もその要因の一つです」
「そうか、ソウイチロウさんが言えないってのなら聞かない方が良いな」
「すいません、そうして頂けると助かります」
頭の中にカシャカシャと音を立てながら1文字ずつ文字が浮かぶ。
「呪われしドラゴンに逢いに行け」
あのタイトルコールだった。
(またこれか・・・次はドラゴンに逢いに行くのか・・ん?呪われしドラゴン?)
「ソウイチロウさん?」
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてました」
「もし体調がすぐれない様でしたらここで休んで行きますか?」
「大丈夫です、ありがとうメリッサさん。馬車を引き取ってコルグに戻りましょう」
農場に世話をお願いしていた馬車を引き取り、1日かけてコルグへと戻る。
翌日の昼頃にコルグへと着いた。
「馬車を預けてきますので、みんなは先に休んでいて下さい。セレーナ、私の分も部屋を取っておいて下さい」
「わかりましたソウイチロウ様!」
「ワン!」
「久しぶりにベッドで眠れるー!」
「お風呂にも入れますね!」
「一度部屋に戻ってさっぱりしてから食事だな! 先に席を予約しておくよ、ソウイチロウさん!」
「ええ、頼みます」
惣一郎は馬車を進ませながら御者台で答える。
「龍・・・と竜騎士か・・・。特別な権限を持ち、どこの国にも属さない冒険者。どんな人たちなんだろうか」
「それに呪われたドラゴン・・・これは竜騎士に話を聞いた方が良いんだろうな。そうなるとイーストロックには行く必要があるのか。あとはミハエルが言っていた西の大陸の龍だな。これについても情報を集めたいが・・・・情報のやり取りは禁止されているんだっけ・・・あ」
(まずいぞ、これは下手をすれば投獄されて死刑の案件だ・・・。俺だけならいいが、セレーナは巻き込めない・・・)
「どうするか・・・それにしても逢いに行けってのはかなり大雑把だよな」
(たしか・・、育てろ。本を探せ。森を守れ。遺物を手に入れろ。逢いに行け。の順だったか。今回は逢えば良いだけなのか?呪われた龍に会う事が目的なのか? 呪われたって所が気になるが、イーストロックの龍がそうなのか? 逢うだけなら迷彩で隠れて行くのが手っ取り早いが・・・一人で行ったほうがい良いよな・・・)
「うーん、情報を集める事自体が難しいのは困るな・・・」
惣一郎は馬車を預けた後、ギルドの酒場へと戻りながら考えをまとめていた。
(ん!? 待てよ、ローランドでミハエルは龍の事をすんなり話してたよな。会話が外に漏れないようにしてあったとは言え、レミもエルカも最年長のガボットさんすらも特に慌てた様子はなかった。
西の大陸の龍に関しては周知の事実なのか? そうだ、龍はダメでも竜騎士の情報なら禁止はされていない筈だ。受付の子も禁止事項は龍の事しか言っていなかった。後で受付の子に聞いてみよう。
ギルド職員の子なら言ってはいけない事は口外出来ない魔法がかかってるから、他の冒険者や誰かに聞いて、うっかり言わせてしまうような迷惑をかける事は無いだろう)
「さて、ひとまずは風呂に入ってさっぱりするか」
「俺の部屋は4階の盾の部屋か」
宿の受付でセレーナに取っておいてもらった部屋を聞き、中に入る。
そのまま風呂場に向かい服を脱ぐ。
「さて、久々の風呂だな~」
カチャ。
「え?」
「あ!」
「ワン!」
浴室のドアを開けると何故かセレーナとルーナが体を洗っていた。
「スマン!」
「!」
「ワン!」
バタン!
惣一郎は急いでドアを閉め、服を持って脱衣所から出る。
「部屋を間違えたか!?」
(ソウイチロウ様!)
ドア越しに声をかけてくるセレーナ。
「すまない!部屋を間違えたみたいだ!本当にゴメン!」
惣一郎はドア越しに謝る。
(いえ、部屋は1つしか取ってませんので間違いではありません! )
「え?1部屋だけ?どうして?」
(はい、その、今日は久しぶりにまた3人で一緒に過ごしたいなって思って・・・)
(ワン!)
「ああ、そうか。なるほど。分かった、今日は3人で一緒に寝よう」
(はい!ありがとうございます!)
(ワン!)
そのあと二人と交代で風呂に入り、全員が酒場に集まる。
まだ日が高いので俺達以外に客は居ない。
メリッサとダリアは新しい装備を身に着けて来た。
迷宮踏破のお祝いも兼ねて沢山の料理を注文する。
迷宮踏破の件だが、特にギルドへの報告義務も無いのでしばらくはそのままにしておこうという事でみんなの意見は一致した。
メリッサの事もあるし、みんな街の中で騒がれたくないというのが本音だ。
この後の事を話そうとした所でメリッサが話を切り出す。
「その事でお話がるのですが・・・」
「使わせて貰った道具袋は一旦返すよ」
そう言ってメリッサとダリアがお互いの顔を見ながら相槌を打ち、預けていた道具袋を俺に返してきた。
「それで、二人で話し合ったんだが、オレとメリッサを仲間としてソウイチロウさんのパーティーに入れて貰えないかな?」
「今後も3人と一緒に世界を周りたいっていうのが私とダリアの願いです」
「もちろん、ソウイチロウさんが言えないような問題もある事は分かっている」
(ゴーレムの件等、色々危険がある事も理解しています)
メリッサは声を潜めた。
ダリアが惣一郎をじっと見つめて話始める。
「オレは多分、ソウイチロウさんに出会わなければコルグの街で一生を終えてたかもしれない。
ここは冒険者にとっては居心地の良い街だ。食うに困らない量の依頼があり、お金が必要になったらパーティーを組んで遠出すれば安全に素材狩りで稼げる。
でも、冒険者ってそうじゃないよなって。ソウイチロウさんと会ってみんなで迷宮に入ってわかったんだ。しばらく忘れてた、冒険者になろうって思った時の気持ち」
「オレは旅をして世界を周り、色々な冒険をしたい。」
「これが今のオレの気持ちなんだ」
「だからもし断られてもメリッサとオレは二人で旅を始めるつもりだ」
ダリアはメリッサを見ると、今度はメリッサが惣一郎を見つめて話始める。
「はい、私もみなさんと再度迷宮に入って色々考えてました。もしも踏破出来たら次は財宝を選び、もう旅などしないでどこか居心地の良い場所を見つけてゆっくり暮らしたいなって。
でもソウイチロウさん達3人を見ていて思ったんです。私も昔は3人みたいに信頼した人達と楽しく笑い合って迷宮を進んでいたんだって。そして今またこうしてみんなで笑いあって過ごせてるなって」
「報酬を選ぶ時、凄く迷いました。アレだけのお金があればって。
でも多分あの方には、メイズ様にはわかって居たんだと思います。
あの方にこの装備が 私にピッタリだぞって言われた時、私は凄く嬉しかったんです。
これを着て、また新しい冒険に出なさいって背中を押されたみたいな気持ちになって、気が付いたらコレを選んでいました」
そう言ってメリッサは自身の胸元ににそっと手を当てる。
「これが今の私の気持ちです。」
「ダリアさん、メリッサさん・・・」
セレーナが二人を見つめている。
「ソウイチロウ様、私は・・」
「ワン」
ソウイチロウはルーナとセレーナを見つめて少し微笑む。
「そうですね、メリッサさん、ダリアさん、お二人の気持ちはよく分かりました。以前お話した事もリスクとしてしっかり認識して頂いてるかと思います。その上でこうまで言って頂けるのはとても嬉しいです」
「今のところ私には聖霊の使者と言う役割があります。そして他にやる事も色々とあります。全て終わるまでにどれ位の時間がかかるかは分かりませんし、命の保証もありません」
惣一郎は全員をゆっくりひと睨みする。
「ですが、私の故郷には「旅は道連れ」って言う言葉があります。お二人がそう思ってくれているのなら一緒に行きましょう」
目の前の女の子達の表情に綺麗な花が咲く。
「ありがとうございます!」
「ありがとう!よろしくな!」
「これからもお二人と一緒ですね!」
「ワン!」
「改めて宜しくお願いします」
惣一郎は笑顔の二人に微笑みかけて、再度道具袋を手渡した。
そうして迷宮踏破のお祝いは新メンバーの歓迎会になり、みんなで少しだけお酒を飲み楽しく歓談して過ごした。
セレーナはレージェに稽古をつけて貰うというので少しの間、自由行動という事にした。
俺は龍の事は伏せ、少し寄りたい所があるから遠出するとだけ伝えた。
メリッサとダリアが装備の使い勝手を見る為に俺の用事に着いて行きたいとお願いされたが罪に問われるかもしれない厄介ごとに巻き込むつもりは無いのでやんわり断っておいた。
二人にはパーティーを組んで早々の厄介ごとになって申し訳ないが、最悪俺一人なら何とか出来るかもしれないという根拠のない自身は持っていた。
二人は俺が戻るまでペアで簡単な依頼をして待っていると言われた。
メリッサとダリアは一緒の部屋を取ってたみたいで、それを知ったセレーナが「もっと広い部屋で大きなベッドがあればみんなで一緒に寝れるんですけどね」と言い、俺の顔を見つめてどう答えて良いかを訴えて来た。
だがそれは俺に聞かれても俺もどう答えて良いか分からない。
多分セレーナには今の所そういった感覚が備わって居ないのだろう。
いや、俺達が変な事を考えすぎる汚れた大人なのかも知れないが。
「それじゃあ明日からは少しの間、自由行動で俺が戻り次第、旅を再開しよう」
「「はい!」」
「おう!」
「ワン!」
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
9月も出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)
誤字報告なども頂ければ即対応させて頂きます。
更新時間は通常、朝8時に致します。
9月も頑張ります!
宜しくお願いします!




