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―エルカ・ラプソ・ハーシュ―

「話と言うのはエルカの事だ」


 レージェが話始める。


「あの子は孤児だったんだ。赤ん坊の頃、孤児院の前に捨てられていたと聞いた。彼女を育てたのは孤児院のシスターで、孤児院の子供達の母親代わりだった」


「孤児院は村人や旅人からの寄付や孤児院の子達の働いた給金で生活していた。貧しいながらも皆で助け合って楽しく暮らしていたそうだ」


「あの子が8才になったある日、村が盗賊に襲われた。家には火をつけられ、村の孤児院にも押し入った」


「数日後、定期的に村へ行商に来る商人が、村が何者かに襲われて村人が皆殺しにされているのを発見した」


 「焼け跡からみて襲われたのは数日前の事だと分かった商人は、生き残りが居ないかを護衛の冒険者と一緒に探した」


「そして孤児院に居たエルカを見つけた」


「彼女はシスターの亡骸を抱いたまま孤児院の中で佇んでいたそうだ。」


「周りには盗賊と思われる男達の無数の死体が転がってたらしい。エルカは何も覚えておらず、誰がやったのかは定かではない。ただ、盗賊はエルカの目の前でシスターを殺したらしい」


「商人達は犠牲者を手厚く葬ってから、彼女を連れて街に戻り、長年の知り合いに預ける事にした」


「エルカはその知り合いの家で暮らす事になった」


「それがこの道場だ」


「そうして私があの子の親代わりとなって育てた。しばらくは口もきけない状態だったよ。ある日、エルカが稽古に興味を持ったので武術を教えたのだが、天賦の才かメキメキと上達していった」


「彼女の才能を伸ばそうと、私の持っている全てを教えた」


「5年が過ぎ、エルカが13歳の時に道場に一人の貴族が現れた。そいつは私の古くからの友人でね、私はエルカにこんなボロイ道場で一生を終えて欲しくなくて、才能を活かせる場所へ行かせようと、その貴族の養女にする為に呼んだんだ」


「グラン・シエル・ハーシュ伯爵。それがエルカの養父の名前だ。奥方のアン・シエル・ハーシュ様は病により数年前に他界されている」


「エルカを養女にと願ったのは奥方様でね。生前は大層可愛がって貰ったそうだ。あの子もたまに道場に顔を出して楽しそうに話してくれたよ」


「エルカは武術だけではなく魔法の才能もあった。それに気が付いた伯爵夫婦はすぐにエルカを魔術学園へと入学させた」


「そこでもエルカは才能を開花させて、回復魔法、結界魔法と難易度の高い魔法を次々と習得していった」


「回復魔法も結界魔法も使える上に、武術で近接戦闘も出来るエルカは15歳で魔術学園を卒業し、すぐに第三魔導師団へと入団した。最年少の入団記録だそうだ」


「盗賊団討伐、近隣小国との戦闘、魔族討伐、彼女の任された小隊はサポート役の第三では珍しく、死者や負傷者を出さない隊として、功績を挙げていった」


「やがてエルカは第三魔導師団の団長になった。誰もが認める強さと才能が有った」


「だが中にはそれを認めない奴も居たのさ」


「そいつはエルカと団長の座を争って負けた男の親で、当時の軍務大臣補佐だったドランという男だ」


「争ってといっても向こうが一方的にエルカをライバル視していただけで、あの性格のエルカには相手にされてなかったみたいだけどね」


「ある日、エルカの部隊はいくつかの小隊に分かれて物資の輸送をしていた」


「その輸送経路を敵国に教えた奴が居たんだ」


「小隊はそれぞれ別々の場所で敵の待ち伏せを受けて壊滅した。隊員は皆殺しにされ、物資も奪われた」


「エルカの隊も例外では無く襲われた。だがエルカと当時は小隊長だった今の副団長のシェーナが生き残った」


「ドランが仕組んだ罠だった。そのあと生き残ったエルカに罪を着せ、エルカを反逆罪で投獄、処刑しようとした」


「だが、それをかばった奴が居た。ミカエル第一王子だ」

「ミカエル王子と、レミも知ってるだろう?」

「彼らは学園時代の友人でね。この道場にも遊びに来ていたし、稽古もつけていた」

「第一王子がエルカの擁護に入ったことで事態は変わった。まずはエルカに言い渡されたのは奪われた物資の奪還だ」


「その小隊に配属された一人に、ミカエルの友人のデッシュという男がいてね、エルカやレミを妹のように思ってくれている奴で、元第二兵師団副団長だった男」


「デッシュが掴んだ情報で、物資を奪った奴らの正体も分かっていた。もちろんミカエル王子にすら秘密にして極秘裏に動いていて掴んだ情報だ。それを元に物資の奪還作戦が行われた」


「そしてまた敵に裏をかかれた」


「城内に裏切者が居る事は分かっていた。そして誰かも見当はついていた。そいつにワザと作戦を漏らして罠に嵌めたのさ」


「結果、奪還作戦は成功し、物資の奪還および敵の指揮官と隊長以下数名の兵士を生きたまま捉えて女王の前に連れて行ったのさ。敵兵の半分以上はエルカが倒したとミカエル王子やレミ、ディッシュ、その他の兵士も言っていた。その際に魔法は一切使わず、格闘武器を手に、武術のみで殴り殺していたとね」



「軍務大臣補佐のドランが罪人として引きずり出された」

「国家反逆罪」


「そうしてドランと捉えた敵兵は処刑される事が決まったのだが、そいつらは処刑を待つ事無く殺された」


「それをやったのがエルカだ」



「手枷を解いた状態の罪人と戦って全員を素手で殴り殺した。相手の戦意は関係なく殺したそうだ」


「笑顔がトレードマークのエルカからは誰も想像もつかない行為によって付いた二つ名が「撲殺天使」だと」


「罪人を勝手に殺した罪によってエルカは再び投獄されたのだが、それをミカエル王子が救ったのさ」


「その時の詳しい話は聞いていないが、レミとデッシュもミカエルと共に動いたらしい」


「そうしてミカエルはミハエルと名乗り、皆で一緒にローランドに居るのさ」




「エルカがオトナシ殿に殺意を向けたのは私の所為だからねぇ。アンタにはこの話をしなきゃいけないと思ってね」


「あの子は多分、まだ・・・・いや、きっとこれからも悪夢は見続けるのだろうけど、敵と味方の区別はついているから、昼間の事はどうか許して貰えないだろうか」


 そう言って昔話を終えたレージェは俺に頭を下げた。



「大丈夫です。俺は彼女の事を恨んだり、敵だと思う事もありません。殺気を向けられてもそれは変わりませんよ」


「それに彼女があの時気づかせてくれなかったらレージェさんに強化を掛けていなかったかもしれませんし、私より強い方に失礼な言い方になるかもしれませんが、打ち所が悪ければレージェさんを殺めていたかもしれません。彼女のお陰で僕も救われたんです。許すも何もありませんよ。大丈夫です」




「・・・ありがとう」




 話を終え、道場に戻る際、一瞬、石鹸の匂いを嗅いだ気がした。


 俺はそのまま道場の門をくぐり、ルーナとセレーナの待つ宿へと帰った。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


総合評価も何とか100を越えました!


お読み頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!


少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。

これからも頑張って続けて参りますので、良かったら評価応援の方宜しくお願い致します。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると励みになります。


栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)

ぜひよろしくお願い致します。


更新時間は通常、朝8時に致します。

8月も頑張ります!

宜しくお願いします!

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