―怪鳥―
降り注ぐ火炎弾を避けながら強化を掛け直してディストーションを唱えた。
姿を消すと火炎弾は止んだ。
空飛ぶ敵はファイアーロックと呼ばれる魔物で、飛行しながら無数の火炎弾を飛ばしてくる。
身体が大きい割に飛行速度は速く、弓やボウガン程度では当たらない程の素早さと高度から襲ってくる厄介な魔物だ。
「ギャァァァァァァ!ギャァァァ!」
ファイヤーロックが叫び威嚇している。
「ファイヤーロックって生息域この辺なのか? どう考えても違うよな?」
「ワン」
姿を消しつつルーナと合流し、新造した対物ライフルを取り出し膝立ちで構え、ファイヤーロックに狙いを定めた。
「あ、耳栓忘れてた」
ポプリ作のイヤーマフを自分に装着し、ルーナには距離をとって貰った。
音を出して敵の注意を逸らす為デコイを数本投げる
ブン! ザザン!
高めに投げた丸太が木の枝葉に当り、木が揺れると即座にファイヤーロックがそこへ向けて数発の火炎弾を吐いた。
ボン!ボボン!ボン!
火炎弾が木々を焼き、衝撃で周りの木が燃えながら吹き飛んでいく。
「残念でした」
バーン!
トリガーを引き、爆音と共に弾丸が放たれ、ファイアーロックの胴体に風穴が空いた。
カシャン!カシャ。
ボルトアクションでリロードをするが、この弾丸には薬莢が無く、何も飛び出て来ないのでちょっと違和感はある。
ドサ!
胴体を貫かれたファイアーロックは絶命し、リロードを終えたタイミングで地面に落ちて来た。
近くで見るとかなりデカい。10メートル位はあるんじゃないだろうか。羽も1枚1枚が大きいのが分かる。
「こいつエルカに見せて確認しようか」
「ワン!」
「でもその前に消化しないとな」
「ワン」
周りを見渡すと、ファイヤーロックの火炎弾により周りの木々は燃えて、バチバチ音を立てている。
熱気も凄く、結構熱い。山火事発生である。
銃をしまい、空に手をかざし、詠唱する。
「我求めるは天地の循環。降り注げ【アクアブラスト】」
見る見るうちに積乱雲が出来上がり、ゲリラ豪雨のように局地的に大粒の雨が降り注ぐ。
俺とルーナは野営用の天幕をかぶり、雨を凌ぐ。
数分後、雨は止み山火事は鎮火した。
倒した魔物達を【キューブ】に詰め込み、馬車の下へと走って戻る。
レッサーボア2匹は良い感じで焼けていた。
二人に追加のレッサーボアを解体してもらってる間、俺はキノコを数えてそれぞれを袋に分けて再度キューブに入れておく。
解体も終わり、二人にファイヤーロックを見せた。
大きな銃声と何かの轟音が聞こえていたらしく、注意はしていたと言われた。
「ファイヤーロックがこの山に来ましたか~」
エルカの口調はいつも通りだが、驚いてはいるようだ。
「やはり生息地はここでは無いですよね?」
「そうですね~。ファイヤーロックは~東の山脈イーストロックの魔物ですね~」
道中の目的地の魔物だ。
何かを追って来たのか逃げ出してきたのか、それ以外の何かか分からないが、生息地を出るのはこの世界でも異常な現象だと魔物関連の本にも書いてあった。
生息地に何かあったのだろうか。
「所でこれは何かの素材になったりしますか?」
「え~っと~。羽がローブの素材になるのと~火炎袋という器官と皮、嘴や爪が武器や防具の素材になりますね~」
「やはり、前に聞いた通り、良い素材になるんですね」
「はい。あの山の大体の魔物は良い素材になります~。でも強いので~ソロ討伐出来る冒険者は~ソウイチロウさん位だと思います~」
「あ、ルーナも居たのでソロでは無いかな~。な、ルーナ」
ルーナを見て誤魔化すが、何度も大きな魔法を見せた事の有る彼女相手ではあまり意味は無いだろう。
「ワンワン」
ルーナも呆れ顔だ。
「ファイヤーロックはガボットさんに預けてみるか」
「そうですね! ガボットさんなら何か良い物を作って頂けるんじゃないかと思います!」
セレーナも賛成してくれた。
ガボットに手紙を書き、【キューブ】の中にファイヤーロックと一緒に纏めてしまっておいた。
遅い昼食を済ませ、コルグへ向かう為、再び馬車に乗り、来た道を戻った。
グロン山の山林出口まで来た所で良い時間になったので、その場で野営する事にした。
交代で見張りをして一晩を過ごす。
ここ数日でセレーナも大分逞しくなった気がする。
以前より、防具を身に着ける姿もさまになって来たし、何より腰に下げた棘付きのナックルがイカツイ。
エルカが王都でセレーナにプレゼントした物だが、昔エルカの使っていた物と同じで、色々カスタムしてあるとか、綺麗に細工がしてあるとかで、セレーナのお気に入りになっている。
野営中はいつも抱きながら寝ている。
「抱いているのが人形だったら違和感は無いんだけどなぁ」
そこから二日かけてコルグに到着した。
馬車で街中を進む。
「コルグはまだ復興中か」
「そうみたいですね~」
コルグの状況は話で聞いていたが想像より酷いように感じた。
それでも外壁はしっかりと直し、街中の方は建築中の建物が何棟も見えている。
行き交う人々も悲壮感は無く、元気を取り戻りしているように見えた。
王都で建築中の鉄筋コンクリート工法がこちらでも始まれば多少は外敵からの攻撃には強くなるだろうし、銃の方も既に新設計した対物ライフルが作られている筈だ。
俺達は一度ギルドに寄り、キノコの納品と魔石(浄化済み)を交換して路銀を増やし、そこからエルカの師匠に会いに道場へ向かった。
武天流格闘術道場
師範は、レージェ・セクステットという人物らしい。
「今は~避難所になっているみたいですね~」
「そうみたいですね」
「人が沢山いますね!」
「ワン!」
道場は街の外れにあり、殆ど被害は受けていない様だった。
むしろ元からボロい感じの印象を受けた。
表に馬車を止め、エルカを先頭に中へ入っていく。
途中、道着を着た門下生がエルカに道を譲りしっかりと挨拶をする。
それだけでこの道場でのエルカの立場が分かる。
「みんな大変だったわね~」
一人一人に声をかけてから先へ進むエルカ。その後ろをついて行く。
トントン。(ドアをノックする)
「どうぞ」
引き戸の向こうから女性の返事が聞こえた。
「失礼します~」
引き戸を開けて中に入ると、奥には作務衣の様な服を着た壮年の女性が板の間に座ってた。
「お久しぶりです~師匠~お元気そうで何よりです~」
「久しぶりだねぇエルカ。そっちこそ元気そうで何よりだ」
お互いに笑顔であいさつを交わし俺達に座るように示唆する。
「皆様、はじめまして、この道場の師範を務めるレージェ・セクステットと申します」
「エルカ、お連れの方を紹介しておくれ」
レージェ・セクステットは俺達の方を見て笑顔をくれた。
「は~い。まず、こちらはオトナシ・ソウイチロウ伯爵で~す。その隣がサンシーカー様のお子様でルーナ様です。その隣がトロン村のセレーナちゃん。私の弟子になりました~」
そう言えば伯爵になったのだった。言われて思い出した。
「はじめまして、音無惣一郎と言います。宜しくお願いします。因みに惣一郎が名前です」
俺はフードを外し、日本式のお辞儀で挨拶をした。
レージェは髪に一瞬目を向けたが驚く様子も無かった。
その後をセレーナが続く。
「少し前にエルカさんの弟子になりました。セレーナ・カーマインです。宜しくお願いします!」
「ワン!」
ルーナもお座りして吠えた。
「オトナシ様、見ての通り今は住処を失った人達の避難場所として使われている何もない所ですが、ゆっくりして行って下さいな。しかし、聖霊様のお子様を連れてとは、これまた凄い方達を連れて来たね、エルカ」
「ええ、ソウイチロウさんは聖霊の使者なんですよ~。他の地の聖霊様を探して世界中を周る旅の途中なんです~」
「なんとまあ、聖霊様を探して世界中をねぇ」
エルカの説明に目を丸くするレージェ。
その後も、エルカは魔導船の話、王都の奇襲の話等、今までの事を説明した。
「なるほどねぇ。歴史の文献も探しているのか。ここにはその本棚にある位しか本や文献は無いが、好きに見て行って貰って構わないよ。あとこの街で本や文献が見られる場所は・・・ギルド位かねぇ。あそこの執務室にも多少本が有ったと思うが、探してる物が見つかるかは分からないねぇ」
「そうですか。ありがとうございます。後でギルド長に尋ねてみます」
「それはそうとお前さん、あのゴーレムを倒せるくらい強いんだろ? 私と手合わせしておくれ」
「あ、いやー私の場合、剣と魔法があっての強さなので・・」
(ここでもその流れになるのか。この世界の女性はなんでこんなに逞しいんだろうか)
「まあ良いじゃないか、ただの手合わせだ。殺し合いをするわけじゃない。気楽にやっておくれ」
レージェはそう言うが、こちとら女性と殴り合いなどしたこと無いから気が気じゃない。
なにより武術家相手に無手で勝てる気がしない。いや、武器を持っていても勝てる気がしない。
このレージェという人物が強いのが分かる。師団長では感じなかった何かを感じるのだ。強いていうなら野生の感だ。
道場の外に移動する
「ここなら良いだろう」
道場の裏手の空き地へとやってきた。
「お前さんはその腰の武器を使うんだろう?」
「ええっと、これは旋棍と言いまして、一応は武器ですが、普段盾代わりにしている武器なので、無手で行きます」
「そうか、まあ何でも良い。いつでもかかって来な」
構えるレージェ。
「はい、宜しくお願いします!」
格闘技の経験は無いが、旋棍を持つ時の様な構えを取った。
強化は既にかけて有る。
ただ、攻撃に行こうにも近寄り難い。
いわゆる隙が無いという状態だ。普通に突っ込んで行っても攻撃が当たる気がしない。
(うーん、とにかく色々試してみるか)
彼女を中心に円を描く形で走る。
キューブから丸太を取り出してそのまま彼女に投げつける。それをいくつか繰り返し、そのうちの何本かに迷彩をかけて投げるも全て弾かれる。
(あーやっぱ効かないのか。迷彩かけて突っ込まなくて良かった)
適度に丸太が散らばった所で真後ろから仕掛ける。
バキ!
後ろからの攻撃をかわし、カウンターを放つも彼女の肘を食らったのは丸太だった。丸太は縦に真っ二つに割れていた。
【シフト】を使い、彼女の死角へと位置を入れ替える。
俺はそこから更に飛び蹴りを仕掛けるも、綺麗に避けられ、逆にレージェに蹴りを入れられる。
ベキ!
寸前の所でもう一度丸太に変わる。蹴りを喰らった丸太はくの字に折れた。
視覚と身体、交互に集中を切り替えるので目が回りそうだ。
丸太と位置を入れ替えたが、即座にレージェが反応し、俺の目の前に居た。
もう一度【シフト】を発動して遠くの丸太と入れ替えたが、彼女はそれにも反応していた。
目の前に笑顔の彼女が拳を突き出していた。
ドン!
「ぐはっ!」
俺はその拳を腹に受けて吹き飛ばされ、地面を転がった。
「ごほっ。ごほっごほっ。ふう、いやー参りました」
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