―グロン山へ―
ソウイチロウ達は王都ルブルムナビスを出発し、ギルドの依頼をこなす為に数日かけてコルグの北の山、グロン山へと向かった。
「この辺りが全部グロン山の森なのか」
「そうですね~。この辺りは強い魔物も居ないので~、初心者用の狩場にも適してるんですよ~。私も良くキノコを取ったり、修行の為に狩りにも来ました~」
「エルカ師匠もここで修行したんですね! 私も頑張ります!」
「ワン!」
いつの間にかエルカを師匠と呼ぶセレーナ。
そう、セレーナはエルカに弟子入りをしていたのだった。城でのアリエルの用事とはエルカとの修行だった。
初日のセレーナを見てアリエルが色々考えてくれたらしく、エルカと相談して気を紛らわせられればとセレーナに話を持ち掛けてくれたらしい。
なぜ俺に内緒にしていたのかは分からないが、なんか女子の色々複雑な気持ちなのだろう。
男子にはわからん。
エルカはセレーナに合った格闘武器も選んでプレゼントしてくれたみたいだった。
山への道中、休憩中に俺に見せてくれた。
敵を殴る為の武器を貰って喜ぶ16歳に対して俺は何を言えば良いのだろうか悩んだが、「良かったな」位しか言えなかった。
そう、いつの間にか彼女は16歳の誕生日を迎えていた。いつ誕生日だったのか聞いたら王都を出発した日だったと言われた。
「記念日が増えました!」と笑顔で言われてしまった。
この世界では毎年誕生日を祝う習慣は無いみたいだが、コルグに着いたら誕生日プレゼントを買おうと思っている。
冒険者が集まる街ならそれなりに良い物も売ってそうだからな。
王都ではどの店も復興の手伝いや防衛の準備で営業どころじゃなかったから、コルグではもう少し一緒の時間を作ってあげたいかなと思っている。
「この辺りが~キノコの群生地だったと思います~」
左隣のエルカが御者台から周りを見渡した。
「よし、じゃあここに馬車を止めて、周りを探してみよう」
丁度良く広い場所があったので、馬車を止めて辺りを探してみる。
「ルーナ、キノコの匂いを探してくれ」
「ワン!」
キューブの中のヤドリギタケとアオタケの匂いを嗅いでもらい、ルーナに探索を任せた。
強化をかけたセレーナとルーナが走り回って倒木を探している。
このキノコはどちらも倒木を苗床にして繁殖するらしく、この辺りなら倒木を探せば大体見つかるとの事。ルーナの鼻も合わせればそれなりに多く見つけてくれるだろう。
俺は馬の世話をしながら彼女達を待つ。
エルカも近くを探してくると言って走って行った。勿論彼女にも強化を掛けている。
グロン山へ向かう旅の始まりに、エルカにも【キューブ】を見せた。
馬車の荷台に積んだ荷物を王都から少し離れた場所で【キューブ】に移した時だ。
彼女にはこれは聖霊の使者になった際に授かった魔法だと言っておいた。
彼女は聖霊信仰を持っていたらしく「サンシーカー様ってやはり凄いんですね~」といって感心していた。
ローランドでルーナの事に気が付いたのも彼女だったのを思えば信仰心も納得である。
俺も馬車が見える範囲でキノコを探してみたが道沿いでは見つからなかった。
「流石に人が通る辺りは無いか」
数分後セレーナが返って来た。
片手に大きな荷物を持って。
「ソウイチロウ様!やりました!」
「ワン!!」
なにやらテンションの高いセレーナが引きずって来たのは魔物だった。
「なにこれ? どうしたの?」
「魔物です! 倒しました!」
レッサーボアというイノシシの魔物だった。大きさはカバ位だろうか。
これを殴って倒したのか。この子凄いな。
「結構大きいな。セレーナは怪我は無い?」
「はい! 大丈夫です!」
「それなら良かった。やったね!大物だ。夕食はこいつを料理して頂こうか」
「はい!」
「ワン!」
「あら~。レッサーボアね~」
エルカがキノコを抱えて帰って来た。
「師匠! やりました!」
「ワン!」
「うんうん。これを一人で倒せれば初級はクリアよ~」
「ありがとうございます!」
「ワン!」
このレッサーボアはこの辺りの魔物では強い部類の敵らしく、脱初心者冒険者の討伐基準の対象となっているらしい。
(しかし、レッサーって確か下位種の名称だったよな。この大きさが下位種だと上位種はもっと大きいのか)
王都で見た魔物図鑑では上位種は下位種より大きいと記載してあった。
大きさの単位が統一されていない時代の書き方だったので良く分からなかった。
実物を見て自分で判断するしかない。
セレーナは魔物の解体も覚えたいと言うので、エルカが解体を教えてくれる事になり、キノコ探しは俺とルーナで引き継ぐ。
まだ日は高いので十分な時間がある。ついでに料理の支度も彼女達に任せておいた。
「ルーナ久しぶりに散歩にいこう」
「ワン!」
ある程度キノコを採取し、時間もあるので山の頂上付近まで登ってみる事にした。
といっても道1本なので強化をかけて数十分程走れば登りきれた。
「ふう、流石に疲れた」
「ワン!」
ルーナと共に水を飲み、少し休憩する。
「おー流石に上まで登ると見晴らしが良いな。あの遠くの方に小さく見えるのがコルグかな? しかし広い山林だな」
標高もそこまで高い山では無いので頂上付近はなだらかな場所だった。
そしてレッサーボアが3匹とさらに大きなレッサーボアが1匹こちらに走って来てる。
ルーナが吠えたのでそれらの接近に気が付いた。
見つめられているのだろうが、仲間になりたがってる様子では無い。目は血走っている。
俺は黒鉄1号を左手に構え、戦闘態勢に入った。
「まずは小手調べ」
キューブから手裏剣を取り出してそのまま投げてみる。
シュッ! シュッ!シュッ!
「うーん刺さって居るけどあまり効いてないな。皮が分厚いのかな?」
突っ込んでくるレッサーボアを避けながらさらに投げてみるがあまり効果的では無かった。
「下位種とはいえ大型の敵には使えないか」
向きを変えて再度こちらに突っ込んでくる魔物達。
「よし、それじゃ黒鉄の出番だな」
黒鉄を右手に持ち替え、左手には旋棍を構えた。
狙いは先頭のレッサーボア。上手くかわしながら前足を片方切って動きを止める。
ザンッ!
前足1本を一刀両断出来た。切れ味は抜群だった。
「おお!これでも十分じゃないか。流石は名工ガボットさん」
片足を失ったレッサーボアは、勢いをそのままに転がりながら数本の木をなぎ倒した後、横たわっている。どうやら動けないみたいだ。
良く見るとルーナが転がっているレッサーボアの喉に食らいついていた。
素早く止めを刺しに行ったみたいだった。状況はアレだがルーナの成長にちょっと感動した。
「良いぞ!ルーナ!」
しっかり褒めておいた。
「ワン!」
ルーナも嬉しそうだ。
さらに旋回して襲ってくるレッサーボア達。
単純に突っ込んでくる攻撃なので旋棍を使ってあしらうのは特に難しくもなく、小さいのから順番に2体目3体目と同じように倒していく。
「さて、最後はお前だけだぞ」
正面の敵に向かい話しかけたその時、ルーナが勢いよく吠えた。
「ワン!ワン!ワン!ワン!グルルルルル」
周囲を警戒するも正面から最後のレッサーボア(大)が突っ込んでくる。
「ドォォォォォォン!」
身構えたその時、上空から大きな火炎弾が放たれ、レッサーボア(大)に当り、その巨体は燃えつつも真横に弾き飛ばされた。
火炎弾が飛んできたと思われる上空を見ると、大きな鳥の様な魔物が羽ばたいていた。
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