―夜の営み―
少々俺の勝手な勘違いがあり、サンドバックではなく、スキンシップを行った。
しばしアリアと二人きりの時間を過ごし、彼女に満足頂いたので服を着て店を出る準備をしていた。
「凄く・・良かった・・また・・おねがい・・ね」
背中越しに言われた。
そして杖は値引きじゃなく、俺にタダであげるとも言われた。
俺は半額ならお金は払えるから払うと言ったが、受け取らないとの事だった。
その代わり、また二人きりで過ごす時間を設けて欲しいと言われたので、「支払いはまだ残ってるので、残りのローン分は来ますよ。サービスして貰った半額分も合わせて3回追加って事でどうでしょうか?」と聞いた。お金は受け取ってくれなさそうだったので、肉体労働で返す事にした。
しかしこれはWin-Winなのか? 俺一人が得してないか? そう思ったが、彼女は笑顔で投げキッスを返してくれた。OKらしい。
余談だが、今回は彼女のリクエストで2試合戦った。何とか2勝出来た。勝ち負けがあるかは知らないが、自分ルールでは2勝出来た。
試合後のインタビューで彼女は自身の事を少し話してくれた。
彼女はハーフエルフだという事。エルフの血が濃いので、人体の魔力の流れが見えるらしく、俺の魔力を見て、気に入ってくれたみたいだった。一目ぼれみたいな感じだったと言われた。
エルフは人体の魔力が見える事を知った。
念の為、シェーナの恋人かどうかの確認を取り、杖の割引を持ちかけたと言って、軽く謝って来た。男女逆の話は良く聞くんだけどね。
もちろん騙すつもりもなく、杖の金額、割引の話も本当だったが、1試合目に色々気に入って頂けたみたいで、二試合目のリクエスト中には杖を俺にタダで譲る事にしたらしい。
ミリターの呼び方も気になったので、知り合いかと尋ねたら、小さい頃から知ってるとの事だった。
エルフ程では無いが、ハーフエルフも長命らしい。アリアの年齢は聞かなかった。俺も実年齢だと40歳だからね。
他にも、「ソウイチロウさん・・不思議な・・魔力・・二つ・・持ってるね」とも。
一つはアンダンテだろう事は分かったが、2つ目が分からなかったので何となく聞いてみた。
「聖霊様の・・加護・・あるわね」と、言われ、納得した。
彼女はアンダンテの事までは分からない感じだった。
聖霊についても聞いてみた。
彼女は緑の国出身らしく、ケット・シー様を崇めていると言った。何度も姿を見てるらしく、色々聞いてみた。
見た目はやはり 王冠を被った黒と白の毛の猫っぽい姿 らしくて、二足歩行だったり4足歩行だったりと、気分で姿を変えるらしい。
ケット・シーは子供が好きで、森で迷子の子供が出ても、必ずケット・シーに連れられて街の入り口まで送られてくるそうだ。
大森林では悪人以外なら大人も助けてくれるらしく、森では迷い人は出ないとか。
子供には姿を見せるけど、大人にはなかなか姿を見せないらしい。なんだかサンシーカーに似ている。
ケット・シーは緑の国が出来る前からの存在らしく、物知りで、遊びながらいろんな話を子供に聞かせてくれるらしい。
緑の国生まれのエルフは全員、子供時代にケット・シーと遊んだことがあると言っていた。
現在の長老達もそうらしい。ケット・シー様は何歳なんだろう。
もちろんアリアも結構遊んだらしい。
主に「追いかけっこ」や「かくれんぼ」で、どんなに上手に隠れても見つけられてしまうと言っていた。
そうした背景もあり、緑の国では全土でケット・シーが祀られていると。
それでも聖霊から加護を受けられる人間は少なく、緑の国でも片手で数えられる程だと言われ、アリアは、俺は自身が思ってるより凄い人間なんだと言われた。
世が世なら赤の国でも勇者的な扱いを受けただろうって。
「王国の・・エルフなら・・ソウイチロウさん・・黒髪・・誰も・・怖がる人は・・居ないから・・安心して」 と言われた。
聖霊様の加護万歳。
彼女は先に人間の持つ青い色の魔力を見ていたので、部屋でフードマントを脱いだ時にも気にしなかったと言っていた。
カウンター越しに俺を舐めるように見ていたのは、魔力を見ていたのだと分かった。
「綺麗な・・色の・・優しい・・力・・好きになったの」と、なんだか擽ったい褒め方で、褒められ慣れていない昭和生まれには恥ずかしかった。
着替え終わり、時計を見ると18時を過ぎていた。
見送りたいと言われたが、彼女は腰が抜けているらしく、1階まで抱き上げてリビングへ連れて行った。
俺は挨拶をして彼女から青い魔石の杖とキスを受け取った。
「それじゃあまた来ます」
「ええ・・また・・ね」
【シフト】を使い、彼女の家のリビングに丸太を残して城へと戻った。
「長居してしまった」
演習場へと戻って来た。銃が届いていないか当番の兵士に確認し、5丁来ていたので、術式を付与した。自分用に弾と魔石をいくつか貰っておき、村に何かあればガボットにも使うようにと手紙で連絡をしておいた。片言だが、本を見ないでも自分の名前と短い文章は書けるようになっていた。
恐らくはアンダンテのアップデートのお陰だろう。俺自身そこまで勉強した記憶は無い。
シャワーを浴びようと思い、部屋に戻った。
既に明かりは点けられていて、ソファー前のローテーブルと窓辺の花瓶の花が交換されていた。
「食堂にもこの花が飾ってあったな」
名前は分からないが、赤く綺麗な花だ。匂いも優しく、悪くない。
シャワーを浴び、体を拭いて髪を乾かしていると、ローズが食事の用意が出来たと呼びに来た。
俺は返事を返し、急いで服を着て装備を身に付け支度を整えた。
夕食はアリエルとウリエラと一緒だった。エレーナとルーナが少し遅れてやってきた。
「皆さま、遅れてしまって申し訳ありません! 髪を乾かしていたら遅くなってしまって」
二人もシャワーを浴びていたのかな? 髪が長いと乾かすの大変だよね。
「いえ、今揃った所ですから、問題ありませんよ」
ウリエラが笑顔でセレーナに語り掛けた。
アリエルもセレーナを見ながらニコニコしてるので問題は無いだろう。
お二人のお心遣い痛み入ります。
俺はいつもの席に案内され、食事を待つ。
アリエルはニコニコしている。なんでもアイスクリームが楽しみなのだそうだ。
今日は3食のデザートをアイスにしたらしい。喜んでもらえたなら良かった。
食後にミリター大臣からの現況報告を受けて、銃の配備状況を教えて貰った。
現在、銃は36丁、北、東、南の城門に、6人編成で3部隊、12丁ずつ配置されてるとの事。
防御用に結界の使える魔導師2人、射撃手4人との事だ。
安全性を重視した良い編成だと思う。
「思ったよりも早く形になりましたね。この都市の迎撃に関しては少し安心ですかね」
これに関しては王都の職人が優秀なのだ。素直に称賛する。
「ええ、王都から他の地方の村々にも増援と銃及び弾薬の提供を始めます」
ウリエラが答える。
小さな町や村にも増援が送られ始めるので一安心だ。着々と無力化計画は進んでいる。
他の国にも設計図も術式も複写されて渡されている。
今頃は同じように配備されているだろう。
敵にも情報が渡っているとは思うが仕方ない。
ゴーレムを改良されないよう願うしかない。
対応されたとしても相当な強化が必要になる筈だから、どこかで尻尾を出す可能性はある。
いたちごっこになるかもしれないが、敵の尻尾を掴むチャンスがあるならそれも許容範囲だ。
アリエルにずーっと見つめられてるので、何か良い事でもありましたか?と聞いてみた所、ニコニコしながら俺に服の様な物を手渡してきた。
「オトナシ殿、わたくしからこれを貴方に送ります」
「これは、フードマントですね。俺のと色違いだ」
落ち着いた赤い色のフードマント。背中と胸元に大小それぞれの模様が入っていた。
「この国の国旗、王家の紋章です。これを身に着けていればフードが外れても友軍から攻撃される事は無いしょう。このフードマントはオトナシ殿以外には渡す事がありませんので、身の証にも使えます」
船の形の紋章。黒ベースで山吹色の縁取り。紋章などには詳しくは無いが、威厳のある色使いだと感じた。
確かに国の紋章に攻撃する友軍は居ない。そんなことをしたら反逆罪で死刑だからな。
(しかしこれは俺が身に着けて良いのだろうか? 王家の人間では無いのだが)
不安になりながらも女王自らが用意させたのなら問題は無いのだと思う。
「ありがとうございます。謹んで頂戴します」
この国で戦う際にはこれを着ておこう。赤は日本に居た頃は着ない色だったが、ここでの戦闘の際は着ないと命に係わる。アリエルも心配してくれていたのだ。彼女にも失礼のないよう、すぐに着用しておいた。
そしてアリエルから沢山の誉め言葉を頂いた。本人も嬉しそうだから良かった。
セレーナやルーナ、ウリエラからも褒められて、恥ずかしくなった。
もーやめろよーオジサンを煽てても、山盛りてんこ盛りのアイス位しか出ないぞー。
報告とプチファッションショーが終わり、部屋に戻る前に銃の刻印を転写しに【シフト】で演習場に向かい新たに3丁完成させ、昼間使った丸太を回収した後、再び部屋に戻る。移動魔法便利杉。
ちなみに城内の部屋か廊下に落ちている丸太を見かけたら、俺の部屋へと運んで貰える様に執事さん、侍女さん、兵士達には話をしている。
部屋に戻り、ガボット達にトロンやホルン村への配備増強が始まる旨の手紙を書く。
ガボット達からも弾薬のお礼が届いていた。
ガボットからは油砥石、ポプリからはクッキーが届いていた。
銃はあの後5丁程出来上がったらしいので、刻印を施しておく。
数は少ないが、これでホルンにも配備出来るだろう。
取り扱いや射撃体勢等は手紙で伝えて有る。俺の下手な絵で伝わる事を祈る。
セレーナにも銃の使い方を教えるべく、部屋の中に入れて貰い、レクチャーを始めた。
流石に部屋では試し撃ち出来ないので、リロード、射撃体勢を実演しながら耳栓の重要性も全てしっかりとメモを取らせた。
オーバードライブ無しだと、反動でまともに当てられないだろうから遮蔽物等を利用した固定撃ちをするようにと念を押し、射程圏内で近くに固定出来そうな遮蔽物が無いなら、無理に撃たずに対応できる場所まで引く事を教えた。一人で対峙する場合は敵に気づかれる方が問題だからと。
一通り教えると 時間は21時を過ぎていた。
自分の部屋に戻ろうとした時、ルーナが勢いよく吠えた。
「ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!グルルルル。」
「敵か!?」
「ワン!」
どうやら今回は夜襲を仕掛けて来たようだ。
セレーナとルーナには既にやる事を伝えて有る。
俺は部屋を出て、敵襲だと叫びながら走り、兵士数人へ伝えてから前線に出る為に【シフト】を唱えた。
少しして、夜の王都に警鐘が響き渡った。
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