40話―夕食から自室にて―
夕食も昼食と同じ部屋だった。
席順も同じだがエルカは居なかった。
セレーナも良くなったみたいで、俺が付いた頃には既に女王と二人でしっかり会話をしていた。
何やら女王がセレーナに相談している感じだったが、俺には内緒らしい。
女同士の内緒の話なら、尚更仲良くなきゃ出来ないからな。仲良くなったならそれに越した事は無い。
ちょっとくらいハブられた位で落ち込んだりはしない。
こっちもさっき王子と部屋でアイス食べながらイチャイチャさせて貰ったし。
きっと部屋の外の侍女達からはこっそりとヘイトを買っているだろう。
食事は昼間よりも会話が多かったので楽しかった。
女王が船でのクラーケン退治の事を聞いてきたのだが、なるようになると戦っただけで、必死にやったのだと。そんな感じで説明したが、何やら鼻息荒く興奮していた。「シーサーペントを一撃で葬って、その後クラーケンを古代魔法で焼き殺し、続いて出て来た、さらに大きい2体目の巨大なクラーケンも物凄い魔法で切り刻んだ挙句、海ごとクラーケンを凍らせて倒したのだろう?」と、早口で目を輝かせて興奮していた。
多分報告を受けた際にも細かく聞いたのだろう。話しているうちにだんだん顔が近づいてきてちょっと怖かった。
2体目のクラーケンはどうやったのか、兵達にも詳しくは分からないと言われた。どうやったのだ!詳しく聞かせろ!と言われたのでなるべく簡潔に話した。
そんなこんなで食事を終えたが、このような事情で食べた物は覚えていない。シェフごめん。
デザートにアイスが出て来て、それを食べた女王が目を丸くして驚いていた。
ウリエラがアイスの作法を女王に伝えたら、女王も頭を押さえて涙目になっていた。
アイスも悪戯も俺が持ち込んだのだと、ウリエラがネタバラシをしたので、俺を涙目で見つめて来た。ちょっと可愛かった。
その後、セレーナにもエルカにもウリエラにもやったと言ったら、女王もウリエラと同じように皿にアイスを掬って、外に居る侍女に同じ事をした。血は争えないな。
今度、ウリエラが女王と結託してミカエルにも悪戯するというのでアイスの件が伝わって無い事を願うばかりだ。アイスの件はエルカとシェーナに口止めしておこう。レミにも仕掛けたい。
そう、ミハエルが俺達より先にこの城へ来ていたらしい事は話の端々で聞こえていて、気になっていたのだが、どうやら例のクリスタルがこの王都の隣の街、コルグにあり、単騎で馬を飛ばせば王都まで大体1日の距離だという。
そうして俺達が船で着く前にちゃちゃっと来てちゃちゃっと帰って行ったらしい。
何となく想像がつくが、自由奔放とは間違いなく彼の事だろう。
食事後、ウリエラが女王に先程の話を説明したら、アリエルが俺の腕を抱きしめるような体勢で詰め寄って来た。
「なんと!オトナシ殿、そのような事が可能なのか!?」
「はい、陛下。無限の叡智より授かりし智慧にございます」
「無限の叡智・・・そなたの持つスキルよな。あの渡した本にて助力を得たというのか?」
「はい。ですがまだ他にも得られる智慧があるやもしれません。書庫の書物に関しては、いましばらく閲覧の猶予を頂きたく存じます」
まだ書庫には行けていないので何とか待ってもらいたい。
「良い!既に許可は出したのだ。これに期限など付けぬ、そしてこれを覆す事などせぬ。これからも昼夜問わず自由に閲覧する事を許す!」
「有りがたき幸せに御座います」
「うむ、それでだな、オトナシ殿、わたくしの事は陛下ではなくアリエルと呼び捨ててくれて構わんぞ」
「女王様、呼び捨ては流石に・・・・」
(それは無理っス。不敬罪って最悪死刑になるよ!)※心の声
「ならアリエル様で構わん。そう呼んで欲しいのだ」
「分かりました、アリエル様」
とは言ったものの、TPОに応じて使い分けよう。
「うむ!それで良い」
アリエルはなにやら上機嫌になり、次の日の昼食には城に仕える者、分け隔てなく、全員にアイスクリームを振舞うと言っていた。「歴史に残る貴重なレシピを提供してくれたオトナシ殿に感謝しろ」とも付け加えていた。
アリエル様、そーゆーの良いです。恥ずかしいし、ガラじゃないんで。
ちなみにアイスの話になった時、「コレは結構万能なデザートで、色々なフルーツやナッツ類、紅茶やお酒とも相性が良いです」と伝えておいたら、アリエルも今度アイスを作りたいから一緒に作ってくれとお願いされた。
デザート作りを手伝うのは嫌いじゃないので、落ち着いて時間が出来たら一緒にやりましょうと返事をしておいた。
その後、俺とウリエラで話し、準備させていた会議をすべく、招集をかけていた武官と文官が待つ会議室へと足を向けた。
セレーナは女王が用事を与えたらしく、そちらへ向かうと言って侍女に連れられルーナと一緒に別の場所へ。
先程の内緒話の件だろうか。まあいい。戦いの会議なんぞ十代女子には退屈なだけだ。気が紛れるなら他の事をしていて貰った方が良い。汚れるのは大人の役目だからな。
そうして、会議では俺のプランを使い、様々な試算とそれに基づいた作戦が立てられた。
勿論、準備に時間を要するので、明日すぐに行えるものでは無いが、出来るだけ早く配置出来るように24時間体制で行う事となった。
会議はすぐに終わり、武官文官それぞれが役割を成すべく出口を速足でくぐって行った。
俺は部屋へ戻り、新たにガボット宛の簡単な図入りの手紙を書き、キューブに入れた。
「いい加減、しっかりした字も書けるようにしないとな」
手紙を書く際は、魔導書の文字を見ながら真似して、殆ど片言のような感じで書いている。
「ふう、良い時間になったが、まだやる事はやっておきたい。取り合えずはこの本と、書庫の本だな」
食事と休憩を挟み、体も大分軽くなってきたので、まだ触っていない他の本を読むことにした。
古い歴史書、細かい文字のインクが消えかかっている。
確かにレミが言っていた感じの事が書かれているが、内容は文字が消えかかって読めない。
ざっと何冊か流し読みして見たが、報告で聞いた以上の事は分からなかった。
「一応、書庫にも行ってみないとな」
時計を見ると午後11時になっていた。書庫の場所は聞いていたので、一人で向かった。
書庫の扉の前には兵士が二人居たので、挨拶すると、髪色を見て理解したようで、すぐに鍵を開けて貰えた。
一人が中を案内すると言って付いて来てくれた。俺にも魔石ランタンを渡してくれて、一緒に中を進む。
禁書の方を先に見たいと伝えると、一番奥の扉へと案内され、鍵を開けて貰った。
中には古い本が綺麗に本棚に収まっており、少し埃が積もっていた所もあったが、やはり最近調べるのに出入りした痕跡はあった。
意外と広かったが、空いている本棚もあり、比較的歴史が新しい国ではそこまでの量の本は無いのだろう。
禁書に関しては呪い関連の魔導書や罪人のリストらしきもの、王族の墓の正確な場所や、各地の疫病の記録などがあった。どれも建国してからの記録で、それ以前の物は殆ど無かった。
恐らくアンダンテの居た時代に関する記述の本はあれ位なのだろう。
やはり古い本は歴史の古い国、緑の国へ行かないと手に入らないかも。
しかし、無属性魔法自体聞いた事の無い魔法だとレミは言っていたが、歴史上から無属性魔法は消えたのか? どうやって? 伝承にも残らない? しかしアンダンテの記述はここにあった。うーん分からない。取り合えず保留だ。
そうして禁書コーナーを出た。
18禁コーナーでは無いぞ。
一つ収穫だったのは、通常の書庫の方に、薬学に関する本と自生植物の本があったので、それをいくつか借りた。後でセレーナに持って行こう。
「さて、取り合えず今日はもう寝るか」
そう思い、明かりを消し、ベッドに入ろうした所でドアがノックされた。
(トントン)
(ん?こんな夜中に誰だ? セレーナか?)
「はい、今開けます」
返事をしてドアを開けに行く。月明かりがあるので照明を消してもドアまで行くのは難しくなかった。
(カチャ)
ドアを開けると目の前に居たのは知らない侍女だった。
「どうしましたか?」
俺が問いかけると、侍女は俺に凭れかかって来た。
(トン)
胸部に違和感がある。
しっかり見ると刃物が刺さっていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
おかげさまで記念すべき40話になったので話数を入れてみました。
無理やり話を進めるのが苦手で、話の展開は遅いかと思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。
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