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―悪戯―

 白い光の中から小さな幼女が現れた。

 緑色の髪、服とは呼べないようなボロい麻袋に穴を空けただけの物を着た幼女。


 彼女は俺の手を取り、ニカっと笑うとそのまま俺を導くように歩き出した。

 しばらく歩き、扉の前まで来ると彼女は俺に耳打ちしようとしてきたので、膝を落とし、耳を近づけた。


「・・・・」


 目を覚ましていた。

 どれ位意識が無かったのだろう。

 部屋の窓からは夕焼けの色が見えていた。


 椅子に座ったままの状態で、背もたれと左のひじ掛けに(もた)れ掛かり、軽く眼を瞑り、左手でこめかみを押さえていた。


 ベッドに行きたいが、立ち上がれそうにもない。

 少しの間そのままの格好でいた。


 ドアがノックされ、なんとか返事をすると、侍女らしき女性の声が聞こえた。

 明かりを着けに来たとの事だ。


 入って貰うように即し、明かりをつけてもらった。

 明かりは魔石を使った照明だ。


 シャンデリアが綺麗に光っているのが何となく分かった。

 しばらくしたら食事になるので、その時はまた呼びに来るとの事だった。


 俺はセレーナの事を聞いた。

 彼女は落ち着いて寝ているとの事だった。

 それを聞き、安心した。


 侍女さんの肩を借りてベッドまで連れて行って貰った。

 良い匂いがした。石鹸の匂いだろうか。


 お礼を言うと少し嬉しそうにして部屋を出て行った。

 眼が霞んでいたので顔は殆ど見えなかったが、声が明るくなっていた気がした。

 名前を聞くのを忘れた。

 後でお小遣いでもあげようと思う。


 なんとか靴を脱ぎ、ベッドに横になる。

 さっきの子に靴脱ぐのを手伝ってもらえば良かったと後悔した。


 これが魔力枯渇の状態かな。

 ダンテちゃんの方に一気に魔力を持って行かれたんだとおもう。

 多分、アンちゃんの方は何日も時間をかけて俺から魔力補給していたから多く取る必要が無かったのだろう。


 俺の魔力が増えればもう少し楽になるのかな。


 そう言えばホルンで貰った薬の中に、魔力草と言うのがあると教えて貰ったんだった。

 回復量は少ないが、魔力の回復が出来るらしい。


 魔力草は生えてる場所の魔力を吸って成長するらしく、大地の魔力量によって回復量が変わるとの事。


 お茶にする元気も無かったのでそのまま口に含んだ。

 俺は今、草食動物系男子になった。

 何とも言えないみどり味だった。

 殆ど噛まずに飲み込んだ。

 次からはお茶にしたものを【キューブ】に入れておこうと思う。入れておけば腐らないし。


 彼女はどうなったのだろう。あの幼女は多分アンダンテなのだろうけど・・・。


 魔力草が効いて来たのか、少し体が楽になった。

 起き上がれる位にはなったので、ソファーに移り、目の前のテーブルを使い【キューブ】から魔力草を少し取り出し、以前セレーナに教わったやり方でお茶にしてみた。


「美味しくは無いが、草よりこっちの方が全然マシだな」

 作ったお茶をゆっくり飲みながらぼーっとする。


 天井を見ると綺麗に光るシャンデリア。


「これも魔石を使った魔道具って感じなんだよな・・・あ、これ良いかも」

 可能であればこちらの戦力は大幅に上がる。そんな手を思いついたので、後で無限の叡智に相談しよう。まあ今の時点で彼女にも伝わっては居るのだろうが。


 そう思った時、イメージが送られてきた。彼女の存在もしっかり確認出来たので安心した。

「バッチリだ。流石、無限の叡智。バージョン2だな。」


 俺が彼女に提案した企画は全て問題無かった。


「後は急がせるだけだ」

 ガボットにもやって貰う事が出来たので、手紙を書き、キューブに入れ、靴を履いて部屋を出た。


「次は、王子と話が出来れば早いのだけど・・・」


 廊下に居た侍女にウリエラの居場所の確認をお願いした。俺は調理場の場所を聞き、そっちへ行ってるから居場所が分かったら調理場へ来てくれと伝えた。


 そう、取り合えずはアイスクリームだ。調理場へ行くと、夕食の準備で慌しかった。来る時間が遅かったので申し訳ないと思ったが、調理場のスペースを少し借りて、自家製アイスを作り始めた。


 黒い髪のゲスト()の事は伝わっていたので、髪色を見て、調理場のコック達はみんな丁寧に挨拶をしてくれた。


 今おいちゃんが美味しい物作ってやるからな! 待っとけよ坊主達!


 そんな気持ちでアイスを大量に作り始め、一生懸命、最後の工程をがんばっていると、侍女が来たので、小匙でアイスをすくって舐めさせた所、泣かれてしまった。


 彼女は泣いた事を謝りながら、こんなにおいしい物を食べた事が無いと、アイスが美味しかった事を必死で伝えて来た。


 そんなやり取りを見ていた、一番長い帽子をかぶったシェフが寄って来たので、彼らに匙を一つ寄越せと言い、一口すくって渡してやった。


 シェフも感動してた。レシピを教えてやるから、夕食のデザートでこれを出してくれと頼んでおいた。


 俺が作った分はこれから王子に味見してもらう予定だから渡せないけどな。


 アイスを小皿に分けて先程の侍女にお礼として食べて貰った。

 彼女は初めは断っていたが、何か問題があるなら、俺が毒見と称して無理に食わせたと証言してくれとシェフにも念を押しておいた。


 こういった世界では、身分の低い子は色々大変なのはわかる。この件で何かあれば俺があの子を雇ってあげよう。名前はローズというらしい。歳までは聞かなかったが、10代だろう事は分かる。先程部屋で手を貸してくれた石鹸の匂いの子だ。


 俺はローズの先導で、王子の部屋へと急いだ。右腕で鍋小の中のアイスを捏ねながら。

 階段を2回登り、途中で侍女が交代した。王子専属の侍女の一人らしい。侍女は立ち入れる場所も制限されてるのだろう。


 この子にもアイスを食べさせたかったが、多分王子より先に食べたらこの子が一番困るだろうと思い、やめといた。


 王子の部屋に付き、侍女がノックして俺の事を伝える。部屋の前の廊下には近衛兵が何人も並んでいた。

 全員が俺のアイスへ釘付けだった。黒髪の事は聞いていただろうが、変な物抱えてこねくり回してる姿はかなり不審だっただろう。通る事を止められなかっただけでも感謝しよう。


 王子の部屋の扉が空き、中に通される。

 部屋の中にも近衛兵が二人居た。


 そのままソファーに案内されて座った。

 人払いは必要ですかと聞かれたが、別に人払いする様な事も無いので、構いませんと告げた。


「所で、オトナシ殿、それは一体?」


 そりゃ気になるよねー。


「これはアイスクリームと言って、冷たくて甘くて美味しいデザートです」


「冷たいのですか? 氷の様な?」


「氷は使いますが、冷やしているだけですね」

 そう言って鍋大の中の氷を見せた。


「なるほど、そのように作るのですね。オトナシ殿は面白い方だと兄から聞いておりましたが、確かにそのようですね」


 そう言って笑顔をくれた。

 惚れそうになった。


「ありがとうございます。兄弟仲良くて良いですね」


「兄とは少し歳が離れていますから、喧嘩にはなりません。兄に怒られたことや喧嘩した事等一度もありません」


「それは凄いですね。私にも兄が居ましたが、良くケンカしましたよ。うちは年子で1つしか違わなかったからかもしれませんが。でも1歳差とはいえ、私は一度も兄に喧嘩で勝った事はありませんでしたよ。はっはっは!」


 ミハエルの真似をして笑ってみた。


「そうですか、私も喧嘩しても兄には勝てないと思います。フフ」

 二人で他愛のない話をしてから、アイスの準備をした。


 お皿を用意して貰い、そこへアイスを掬って差し出したが、念の為、先に近衛兵が毒見すると言ったので、食べて貰った。王子は失礼だと断って居たが、流石に近衛兵の言う事は正しいので、一口食べて貰った。


 因みに近衛兵の一人は女性だった。

 匙で掬い、一口食べた彼女は動きが固まった。


 もう一人が彼女を揺すってどうかしたかと尋ねると、一言、「美味しい」と。

 揺すっていたもう一人も、同じ皿のアイスを匙で一口掬って食べた。同じ結果になった。


 そうして、無事、アイスクリームへの容疑は晴れて、王子様の口に収まる運びとなりました。


「オトナシ殿、これは、今まで食べた事の無い美味しさです。冷たく、甘く、美味しい。確かにその通りだ」


「でしょう? これは夕食でデザートとして出てくる予定なので、夕食を楽しみにして下さいね」

「既に調理場に?」


「ええ、先程スペースを借りて作っていました。長い帽子のシェフにはレシピを教えてあります。夕食には間に合わせると思います。材料も作り方もそこまで難しくは無いので、かなりの量を作らなければ材料が足りなくなる事は無いかと思います」


「ちなみにこれは口いっぱいに頬張って食べるのが作法です」


「そうなのですね。わかりました」

「ええ、どうぞお召し上がりください」


「!?」 

 王子は頭を押さえてうずくまっている。


「オ、オトナシ殿、これは・・・」

「王子様、冗談です。そんな作法はありません。はっはっは!」


「フフ、オトナシ殿も人が悪い」


「いやあ、すいません。通過儀礼にしてるんです」


「ご馳走した相手にはこれを?」


「ええ、うちのセレーナやルーナには勿論、エルカさんやシェーナさんにも船でやりましたよ。みんな同じ反応で面白かったなぁ」


 そう言うと、王子はお皿にアイスを盛って、部屋の外の侍女を一人呼び、同じように食べさせた。

 侍女は涙目で頭を押さえていた。

 それを見て王子も俺も部屋の近衛兵もみんなで笑いを堪えていた。


 その後、王子は侍女の肩を抱き、しっかりフォローを入れていた。彼にならイタズラされても嬉しいだろうな。


 アイスを食べ終えて、本題の話に移った。

「ウリエラ王子様、ここに来たのはアイスの件ともう一つ、本題があります」


「お聞かせ下さい」

 再びソファーに座り直した。


 そうして俺は王子に自分のプランを伝えた。

 アンダンテの協力も必要だが、同時に彼女のお墨付きでもある。プランに問題は無い。

 あとは実行出来るだけの資材があるかどうかだ。


「なるほど、これは凄い。これは本当に可能ですか?」


「プラン自体に問題はありません」


「なるほど、それであればこの国だけでも問題なく準備は可能かと思われます」


「それは良かった。

 ただ、これは非常に危ない事にもなります。

 恐らくは新たな火種にもなるでしょうし、今は予期できない問題もいずれ出て来るとは思います。

 平和の為に作りだされた物が、新たな争いを生む事は、今までの歴史が証明していますからね。

 コレを作る事は避けられませんが、その事も考慮したうえで運用して頂きたいと存じます」


「分かりました。私もいずれはこの国を治める者として、常に心に留めておきましょう」


「その様にお願い致します」


「オトナシ殿、ありがとうございます」


「王子様、お礼を言うのはまだ早いかと。全て上手くいってからにしましょう。敵は待ってくれませんからね」


「そうですね。失礼致しました」

「取り合えずこの話は、まだ女王陛下には伝えておりませんので、出来れば王子様から女王様へとお話をお願い出来ますか?」


「わかりました、私から女王陛下へお伝えいたします」

「お願い致します」



「それでは王子、早速準備にかかりましょう。今の大型バリスタの製作は継続しつつ、数を半数にし、残りをこちらの作業員として当てて貰えれば良いかと思います。


 細かい調整は私が行いますので、作業を手伝って頂きながら覚えて貰うために、第三魔導師団の方を数名私に貸して頂きたい。


 あと、調理場で折角作って頂いた夕食は頂きたいと思いますので、資材等の調達を先に手配するようお願い致します。とりあえずは1つ手持ちの物で試作して見ます


 細かい打合せ等は夕食後に大臣殿と団長殿を交えてお話ししましょう」


「わかりました。そのように手配致します」

 そう言って近衛兵の一人に大臣に伝える様命令を出し、俺は自分の部屋へと戻ろうとした時、丁度夕食の準備が出来たようで、俺と王子は一緒に食堂へ向かった。


お読み頂き、ありがとうございます。


おかげさまで何とか毎日更新出来ております。

暑さに負けず、8月も頑張りたいと思います。


お読み頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!

これからも頑張って続けて参りますので、良かったら応援の方宜しくお願い致します。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると励みになります。


栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)

ぜひよろしくお願い致します。


更新時間は通常、朝8時に致します。

8月も頑張ります!

宜しくお願いします!

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