―混沌の海①―
目を覚ますと夜明けの時間だった。
兵士や船員の走る音と敵襲という叫びと警鐘の音。そして。
「ドゴォォォォン!」「ドゴォォォン!」
何かがぶつかっている大きな音と振動
自分に強化をかけて部屋のドアを開けると、同じタイミングで正面の船室のドアからセレーナとルーナが出てきた。
二人にも強化をかておく。
「セレーナは救護室に向かい、ケガ人が運ばれてきたら薬で手当を手伝ってあげてくれ」
「わかりました!」
「ルーナは取り合えず俺と来てくれ」
「ワン!」
まずは甲板に出て敵を確かめる。警鐘と振動、何かのぶつかる音は止まない。
急いで甲板に出ると船を囲む結界が見えた。そしてエルカと第三魔導師団の魔導士達の姿。そして敵の姿も。
敵はかなり大きかった。
色は白く、船よりも遥かに大きく、そして結界を掴むように巻き付いている長い触手が多数。
海の怪物でおなじみのクラーケンだ。
「デカすぎだろ・・・・・」
思わず声に出た。
魔導師団はいくつかに分かれ陣形を組み、シェーナの合図で魔法を放ち応戦している。
あの兵器とは違い、魔法は効いている。だが相手が大きすぎてダメージはそれ程与えられてはいないように見える。
さて、どうしたものか。周りを見渡すとエルカとその近くに数人の師団の子が居て、魔法を使っているみたいだが、攻撃魔法ではなさそうだ。彼女等の表情は険しい。
「エルカさん!大丈夫ですか?」
「ソウイチロウさん、大丈夫です。私達が船の結界を強化しているので、頑張って下さいね~」
エルカとその近くの彼女達は結界の強化が出来るらしい。支援系の魔法が得意な部隊なのだろうか。いずれにしてもあまり悠長にもしていられないだろう。
「エルカさん、強化魔法をかけておきます。少しは時間が稼げる筈です」
そう言ってエルカに【オーバードライブ】をかけておく。
「え、これは・・・ありがとうございます。楽になりました~」
ちゃんと効いたみたいだ。ついでにエルカの周りの師団の子達にもかけておく。無詠唱魔法に驚きつつも、みんな表情が解けていく。
「さて、防御はこれで良いとして、次は攻撃だが」
防御結界はこちらの攻撃は通すらしく、敵へと放たれていく魔法は結界をすり抜けていく。
「エルカさん、この結界は人間はすり抜けられますか?」
「はい、大丈夫です~。敵以外は出入り自由です~」
よし、それでこそ魔法だ。
「分かりました。行ってきます」
「はーい。お気をつけて~」
「ルーナはエルカ達の護衛を頼む」
「ワン!」
辺りを見渡すと兵士たちが海に向かってボウガンを撃ち出している。海面と海中から他の魔物も襲ってきていて、その魔物達の結界への攻撃を防いでるのだろう。
古代魔法でザコを一掃したいが、結界へダメージが入るといけないので取り合えずはクラーケンに集中する。
マストに取り付けられている階段を上り、見張り台部分に着くと、その場からクラーケンへ魔法を放つ。
「【ブラスト】」 パシュ! パーン!
魔法は結界をすり抜けてクラーケンの触手へ当り、触手の吸盤部分の一部が弾ける。続けて数回魔法を放つ。
パシュ! パーン! パシュ! パーン!
纏わりついている太い触手が切れれば少しは余裕が出るはず。
「威力はあると思うんだが触手が太すぎるな。千切れそうにない。仕方ない、斬りに行くか」
鞘から剣を抜き、キューブからダガーを出す。
「よし、行くか」
見張り台からヤードを走りそのまま結界を抜け、クラーケンの触手へ飛び移り、左手に持ったダガーを突き立てる。
「うん、臭い。あと思ったより硬いな。もっとブヨブヨしてるかと思ったけど・・な!!」
気合を入れて右手の剣で触手を斬る。
シュパッ!
「流石に一太刀で両断は出来ないか。」
それでも半分位は切れている。
「もう一丁!」
再度気合を入れて剣を振る。
「よし!まずは一本!」
剣の切れ味に感謝だ。
斬り離された触手はうごめいていて、俺は左手のダガーに捕まったまま振り回されている。
そこへ他の触手が俺を叩きに来た。
「やば!」
ダガーから手を放して自然落下しつつ結界内に逃げるも、下は甲板では無く海なのでこのままいくと海に落ちる。【キューブ】からカギ縄を取り出し、ヤードめがけてブン投げる。
「上手くかかった!」
ロープの先端付近で振り子のように揺られつつ甲板へ着地する。
アンダンテが言った通り面倒な相手だ。時間もかかるかもしれない。けれど落ち着いてやれば大丈夫。彼女はそうも言っていた。焦らずやっていこう。
先程切った触手はそのままの場所でうごめいているが、同じ場所に違う触手が張り付いていた。
「もう一度斬りに行くか」
カギ縄のロープをベルトに結び、マストを登って、ダガーを取り出し、ヤードを走り、ヤードから触手へと飛び移った。その瞬間、再度違う触手が俺を叩きに来たのを視界に捉えた。
「あぶな!」
触手から飛退き回避する。俺の居た場所へ襲ってきた触手が叩きつけられる。
「見られてるのか!」
そう言えばイカにも目はあった。ぶら下がる為の腰のロープの長さを調節しつつ周りを見渡すと、クラーケンの目が見えた。黒目が大きすぎてどこを見ているのかは分からないが、正確に俺を叩きに来ていた様子から、俺の事はしっかり見えている筈だ。
「面倒だ。あれが先だな」
先にクラーケンの目を潰すことにした。
甲板に降り、剣を鞘に納め、もう一度マストを登り、見張り台からクラーケンの巨大な目を確認する。
「お前が俺を覗く時、俺もまたお前を覗いているのだ!」
クラーケンの目玉の方向に手をかざし、狙いを定め、静かに詠唱を始める。
「我求めるは汝の力、我の魔力を糧にして、炎の力、等しく全てを貫き通せ」
「【バーストグレイブ】!」
天から紅い光の柱が落ち、一瞬でクラーケンの目に突き刺さる。
直後、凄まじい熱風と熱気が周囲の海水を沸騰、蒸発させ、結界の外は蒸気が立ち、海面は沸騰している。
多くの魔物の断末魔も聞こえた気がした。
「あ・・・これも時と場所考えないとダメな奴だ」
結界が無かったら味方も黒焦げだコレ。
光の速さで反省した。
クラーケンは暴れている。結界が軋む音と結界を叩く音、海面を叩く音が聞こえるが、濃い蒸気でクラーケンの姿がハッキリと見えない。船を囲む結界にはまだ触手が巻き付いている。
結界の中も温度が上がり、シェーナの命令で魔導士達が氷魔法を使い結界内部の温度を下げようとしている。
兵士や魔導師団達は辺りを確認しつつも状況が分からず戸惑っている。
ごめん、俺のせいです。テヘペロ
シェーナが見張り台の俺に気が付き、声をかけて来た。
「ソウイチロウ様! 今の魔法は貴方が?!」
「そうです! ごめんなさい! やり過ぎました!」
「いえ、了解しました! こちらは援護に回ります! 何かあれば指示をお願いします!」
「わかりました! すいませんが引き続き、結界内部の温度を下げるようにお願いします!」
「了解しました!」
お互いに離れているので声を張って喋っていた。
結界に張り付いている触手に派手な動きは無い。しばらくは結界外に出れないので、こちらも攻撃を控え、辺りを警戒する。
マストの見張り台からだと殆ど死角が無いので船全体が見渡せる。
念の為、こそこそっとオーバードライブとメタルを甲板の戦闘員全員にかけておいた。防御力が上がれば多少は温度変化にも強くなるかもしれない。多分。
色々問題はあったが、海面や付近に居た雑魚は一掃出来たので良しとする。
「あとはクラーケン。お前だけだ」
しばらくすると海風と潮の流れにより、海面の温度が下がり、少しずつ蒸気も散っていく。
クラーケンの姿が薄っすら見えた。
「やったか?!」
シェーナが口走る。
「あ、それ言っちゃダメなセリフじゃん」
俺が不安に駆られていると、蒸気が無くなりハッキリとクラーケンの姿が見えた。
「イカの丸焼きになってるな」
クラーケンの目があった部分は目以上の大きさで穴が開き、その周囲は黒く焦げ、その他全て、焼けて赤くなっていた。
(誰か醤油とマヨネーズを!)心の中でそう叫んでいた。
「やりましたね! ソウイチロウ様!」
シェーナが俺に向かって叫んだ。その時。
巨大な触手が、目の前の美味しそうに焼けたクラーケンを絡め捕り、海の中へ引きずり込んでいった。その余波で船が大きく揺れる。
「俺のイカ焼きが!」
食欲が喉を通り外に出た。
「今のは?! クラーケンは何処へ?!」
シェーナが声を上げる。
魔導士達、兵士達が甲板に伏せながらざわついている。
「もう一体いるぞ! 敵の攻撃に備えろ! 全員何かに捕まっておけ! 船内にも衝撃に備えるように連絡を!」
俺は正気を取り戻し、甲板に向かって大声で叫ぶ。先程、シェーナが立てたフラグを回収しなければならない。
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