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―海人達―

サブタイトルは かいびとたち と読みます。

 朝食はやはり海鮮だった。

 深夜に狩った魔物の中で、食べる事の出来るヤツを捌いて調理したらしい。


 産地直の新鮮な海の幸だ。既に調理済みなので元の姿は見ていないが美味しいので不問とする。


 船員達も変わった飯にありつけたと言っていた。そのうちの何人かにお礼を言われた。昨日の俺の詠唱を見ていた船員だったのだろう。夕飯に一杯おごると言われた。お酒よりも甘い物が良いと言ったが、そんな物は無いと言われた。あまり得意ではないがお酒で我慢しよう。


 セレーナは船酔いになっていたらしく、昨日の夜は立ち上がれなかったそうだ。


 ホルンの村で貰った薬草類の中に、酔い覚ましの薬草があり、それをお茶にして症状を軽減したらしいが、それでもまだ完全ではないらしい。食事もスープしか喉を通らないみたいだ。船酔いで死ぬ事は無いが、1週間もこれが続くのは少し可哀そうだ。早く身体が慣れると良いんだけど。大型船でも船酔いになる人はなるみたいだからな。こればかりはどうしようもない。せめて身体だけでも元気になればと、彼女が部屋に戻る前にオーバードライブとメタルをかけてあげた。


 船の内外を見て回りたかったので散策に出る。夜にはあまりよく分からなかったが、甲板に出て船の上を見渡すと、この船の大きさが良く分かった。

 マストは4本、全長は100メートル位、幅は20メートル前後と言った所か。船にはあまり詳しくは無いが、日本の所有する観測船とかがこれ位の大きさだった気がする。勿論、現代の観測船にマストは1本も無いが。


 動力があるので帆は畳んでるが、万が一の時には帆船としても使えるように残してあるのだろう。 エンジンルールにも入って動力部を見たかったが、さすがに入らせてはくれなかった。


 船内も広く、船員と兵士の数を合わせると乗組員が150人以上いる事が分かった。朝食の時にエルカに聞いたのだ。勿論、防衛機密の為、正確な数じゃない。部屋数も相当ある。エルカとシェーナ等、国軍関係者の士官クラスの人間は個室らしい。勿論、赤の国から会議へ招待された俺と、セレーナもそれぞれ個室だ。


 海は穏やかで、魔法を練習するには良い感じだった。流石に習ったばかりの古代魔法は撃たないが、火、水、雷、土、氷の下級と思われる魔法を海に向かって連射していた。それぞれの属性アローの魔法と、魔法弾を放つブレットと呼ばれる魔法だ。これはイメージだけで発動出来た。属性アローの魔法は多少の誘導も可能な事が分かった。


 他にも回復魔法をやってみたかったが、ケガ人は居ないので実演とはいかなかった。回復魔法に関しては、エルカに詠唱を聞いた。乗り物酔いに効く魔法は無かったが、教えてもらった回復魔法なら骨折位まで治せるそうだ。地球でこの魔法が使えれば外科手術や入院はしなくて済む。凄いとしか言いようがない。あっちの世界なら医療行為と言うよりは心霊治療の類になるのだろうか?

 教祖にでもなればお金を稼げるだろう。勿論、折れた骨をきちんと治せるのだから問題ない。怪我の多いアスリートさん達専門の祈祷治療師を名乗っても良いな。こっちも同じくらい胡散臭いが。


 そんな邪な金儲けの想像をしている俺にも、聖母のような微笑みをくれるエルカと回復や治療の話をしていたが、やはりポーション自体は即効性が高い事や魔力に関係なく回復が出来るので、セレーナの様に調合技術が優れている薬師は引く手数多だという。ローランドのポーションはホルン村で作った物が大半を占めているらしい。戦火が広がれば需要も増えるだろ。村にとっては稼ぎ時にはなるだろうが、薬が多く必要になる事態を考えれば村人は複雑な気分だろう。


 昼、【キューブ】の中にガボットさん達からの手紙を確認した。ホルンとトロンの村に兵士が派遣される事になり、二人は村への案内と紹介を依頼され、その部隊と一緒に村へ戻っているとの内容だった。ミハエルが要請してくれたらしい。ミハエルが直接口利きしてくれた兵士達なら安心だ。


 薬が売れる時はケガ人や病人が増えるって事だからな。例え善意で薬を作っていたとしても薬は高価だ。必ず妬む奴が出てくる。村が流れ者や盗賊等の標的になる事を危惧してくれたのだろう。戦争ってのは本当に嫌なものだ。


 昼食はパンと具沢山のスープだった。

 保存を効かせる為か、パンが固いのでスープに浸して食べる感じだった。それでも中々美味しかった。昼は基本的にこのメニューで固定らしい。


 セレーナはまだ食欲が出ないみたいだった。ルーナには毎食、ローランドで大量に仕入れてきた生肉をあげている。【キューブ】の中に入れておけば腐らないので本当に便利だ。ちなみにこの船には氷を使用した冷蔵庫があるらしい。魔法で氷は出し放題なので電気要らずだ。溶けた水も触媒として再利用すると魔力消費が減るみたいだ。魔導師団は冷蔵庫の氷管理も任されているらしい。


 第三魔導師団の魔導士はシェーナを含めて40名が乗船しているとの事。魔導師団は大食堂では決まった時間、決まったテーブルに付いて食事をしてる。白地に赤い刺繍の入ったローブ姿の集団は、恰好よかった。彼等彼女等は交代で見張りに立ち、24時間周囲の警戒をしている。男性よりも女性が多かった。そう言えば副団長も女性だったし、元団長のエルカも女性だ。女性の多い部隊なのかな?


 昼食を済ませ、また甲板で魔法の練習をしていたら。強風を受けてフードがずれ、一瞬黒髪を出してしまった。周囲の船員に騒がれたが、事情を知らされている兵士と魔導師団員のおかげで何事も無く収まった。俺の乗船が急な話だったので、船員にはきちんと俺の髪色を含めた情報が伝わって無かったらしく、船長がシェーナから報告を受け、慌てて船員全員に通告を出していた。


 船員には【シーサーペント(海竜)を一撃で倒したランクA】と知られていたので、船員たちはみんなすぐに俺の事を理解してくれた。勿論、良い意味で。お陰で乗船中はフードを被らずに済む事になったが、やはり黒髪は目立つので、船員達から声をかけられる事が多くなった。皆、楽しく話しかけてくれて、特に嫌味を言ってくる奴は一人も居ないので悪い気はしない。「また魔物が出たら頼むぜ!」って一言言われる感じだ。


 船員に話を聞くと、シーサーペント(海竜)には仲間を殺されたという船乗りが多く、仲間の仇を討って貰った感じだそうだ。「この航海以外でも海で海竜を見たら必ず骨まで黒焦げにしておくから任せてくれ」と伝えたら船員はかなり喜んでいた。魔族と同じ黒髪の俺に嫌味を言う船員が居ないのは、船乗り達の怨敵である海竜を退治したお陰だった訳だ。


 夕食時はかなり多くの船員が俺の事を囲んだ。昼間に話を聞いた船員はシーサーペントの歯の首飾り(チョーカー)を俺にくれた。お守りだそうだ。船乗りはシーサーペントの歯を航海の無事を祈るお守りとして身に着けるらしい。ヤツの歯は沢山あるから1匹狩れば数十個は作れるそうだ。チョーカーは海竜を屠った証としての縁起物という意味もあるらしい。有難く貰っておいた。


 何人かの船員に朝食のお礼も兼ねてお酒を奢ると言われてたが、俺は酒に強くないので1杯だけ貰い、あとは情報を頂く事にした。

 古い本や歴史の本、珍しい本、精霊や聖霊の事を知っていたら、噂でも何でもいいから教えて欲しいと。あとは迷宮の場所や、その他の変わった話なんかも聞いてみた。


 流石は皆船乗りだけあって、世界中の色々な話を聞けた。複数の船乗りが見た、聞いたという、正確な情報と思われる話から、本当に噂程度の話。海の魔物や東と西の大陸の話、南方群島の話。良い収穫だった。


 色々な地域の女性の話も聞いた。聞いたというよりは船乗り達が勝手に話始めただけだが、エルフは美人ばかりだとか、西の大陸の女性は褐色でスタイルが良いとか、獣人や亜人の女性も可愛いとか積極的で良いとか。嫁が獣人だとかエルフだとかの話にもなり、それぞれ奥さんの自慢話も沢山聞かされた。船乗り達は楽しそうに話し、それをみんなで楽しそうに聞き、それぞれが幸せそうで何よりだと思った。


 そんな時間も終わり、酔い覚ましに甲板に出て夜風に当たっていると、近くに居た見張りの師団の子が、遠くに魔物を発見したというので、酔った勢いでそっちの方向に向かってハイボルテージを撃ち込んでおいた。結構遠かったのでハッキリと殲滅は確認していないが、魔物が見えなくなったと言っていたから多分やっつけたと思う。近寄る前に倒すのは安全だけど、倒したのを確認が出来ないのがちょっと面倒だ。それに回収して朝食にも出来ないし、次からはもう少し近い距離で倒すことにしよう。


 師団の子は、俺の使ったアンダンテ仕様のハイボルテージを見て驚いていたが、何か聞かれる前に酔っぱらったフリをして船室に戻った。お酒の効果もあり、ベットに横になるとすぐに眠りに落ちた。




 目の前にソファーがあった。俺はそのソファーの後ろ側に立っていて、彼女はソファーに座って居るが、必然的に俺に背を向けている状態だ。


「こんばんは、アンダンテさん」


「つーん」



 この女性特有とも言える反応は、事故で死ぬ前、日本に居た頃に何度か体験していて知っている。さてどうしたものかな。


「今日はご機嫌斜めですか?」


「つんつーん」


「どうしたんですか? ワサビの真似ですか? 髪の色まで綺麗な緑にして」 


「誰がワサビよ!! 髪色は地毛です! 」


「素敵な髪色ですね。所で拗ねてるんですか? 何かありました?」


「フン!何よ! 何かありました? じゃないわよ。うら若き乙女にあんな恥ずかしい恰好までさせておいて、シカトして寝るなんて! 赤っ恥も良い所よ! 深く傷ついたわ!(恥ずかしいの我慢して頑張ったのに・・・)」

 アンダンテは顔を真っ赤にして怒っている。


「すいません、最後が良く聞き取れませんでした。最後の所だけもう一回良いですか?」


「何でもないわよ! 音無君のバカー! アホー! スカポンターン! 」


「罵声の言葉が叡智と呼ばれる人物とは思えないレベルですよ。恥ずかしいならやらなきゃ良かったじゃないですか」

 彼女の正面に回り込みながら話しかける。


「なっ・・・!」

 顔を赤くして言葉に詰まるアンダンテ

「しっかり聞こえてるじゃない! バカ――!」

 腕を組みそっぽを向いて怒っている。


「私があそこまで体を張ったのに、なんで音無君は平然としてる訳? 君はアレなの?女性より男性に対してナニがハイボルテージするタイプのフレンズなの?」


「おい、魔法の名称を人のナニの状態に例えるな。次から使い辛くなるだろ。念の為に言っておくが、俺はそっち方面の趣味のあるフレンズではない」


「なら何でよ! 私ってそんなに女としての魅力が無いの?!」

 アンダンテは半泣きだ。


「・・・そうじゃない。アンダンテさんはとても魅力のある女性だと思います。 でも、意識があるとは言え、この夢の中ではそういった気持ちにはならないんですよ。不思議な事に。 特に今は色々と考える事も多いし。正直、この前まで地球で平穏に暮らしてた身としては、いきなりこの「切った張ったの世界」に来て、戸惑いが続いてて、結構いっぱいいっぱいで・・・・・でもここでのアンダンテさんとのやりとりや、貴女の明るさに救われてる所もあるので、感謝はしているんですよ。以前にも言ったでしょ? 貴女と話すのは好きだって」


 自身の現状と彼女への思いを正直な言葉にして気持ちを返した。


「じゃあ・・・して」


「え? 声が小さくて聞こえなかったです、今度は本当に」


「・・・抱っこして」




「わかりました」

 そう言って彼女をお姫様抱っこしてソファーに座った。


「こうして欲しかったなら、最初から素直にそう言えば良いのに」

 小声で優しくそう言った。



「嫌よ・・・」



「何でですか?」



「そんなの・・・カッコ悪いじゃない」


 彼女は顔を背けているので表情は見えない。


「良いじゃないですか、他に誰が見てる訳でも無いし。それに俺の記憶は散々見てるでしょ? 俺の方がカッコ悪いし恥ずかしいですよ」

 40年も生きていれば、誰かに見られて恥ずかしいと感じる思い出は沢山ある。



「そんなの・・・・・ごめん。もう見ないようにする」



「いえ、別に良いですよ。減るもんじゃないし。ずっとここに居ても退屈でしょうから、良い暇つぶしになれば幸いですよ」



「・・・優しいね。音無君は」


「それ位しか取り柄が無いんです」




「私の記憶も見たい?」


「ん-興味はありますが、やめておきます」


「どうして?」



「「女は秘密を着飾って美しくなる」って、誰の何のセリフか忘れましたが、そんな言葉も有るんですよ。だから全てを知るよりも、少しくらいミステリアスな方が、より魅力的に感じるから? ってのは理由になりませんかね?」



「私に聞かないでよ。・・・でも別に音無君がそれで良いならそれで良いわよ」


「じゃあそれで良いです」



「あ、でもやっぱり日本のアニメの記憶だけは見るわ。面白いのが沢山あって楽しいから」


「暇つぶしには丁度良いかもしれませんね。まあ記憶があやふやだったり、エンディングを覚えて無いのもあると思いますが」


「気にはなるけど、別に気にしないわ。無ければ自分で適当に続きの物語作って完結させるから」


「プッ! アンダンテさんらしいですね」


「私はいつだって私よ」


「今のこの状態も?」







「・・・・音無君のバーカ」


 そう言って彼女は俺の胸に顔をうずめて来た。


 彼女の気持ちを察するなら、きっと、誰かに触れられる事で、今、自分自身が生きている事、ここに居る事を確認し、そして誰かに自分を確認して貰いたかったのかもしれない。


 俺はいつの間にか彼女を抱きかかえたままの姿勢で眠っていた。微睡(まどろみ)の中、頬と唇に温もりを感じた気がした。



お読み頂き、ありがとうございます。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると励みになります。

栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)

ぜひよろしくお願い致します。


更新時間は通常、毎日朝8時に致します。

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