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―海の幸―

「アロハ~音無君」


「・・・・・何してるんすかアンダンテさん」


「何って、これが畑を耕してるように見えて?」


「いえ、どう見てもビーチチェアーの上にサングラスとスクール水着姿で寝そべってるようにしか見えません」


「正解よ!音無君のチェアも用意してあるから着替えてこっち来て座りなさいよ」


「そうじゃなくて、人の夢の中で何やってるんですか?」


「何ってバカンスじゃない。地球では海に行くとこうやって寛ぐんでしょ? こっちの世界は海水浴なんて文化が無いからやってみたかったのよ」


「海もビーチもあるのに海水浴しないんですか?」


「そうね、海もあるしビーチもある。そして魔物も居る」


「あ・・・」


「美しい砂浜だろうがロマンチックな波打ち際だろうが、魔物が出るのよ。この世界。だから無防備な格好で海に入るなんて自殺行為なのよ」


「そうか。でも何故スク水なんですか?」


「これは音無君の趣味に合わせたつもりなんだけど。ダメだった?」


「俺にそんな趣味は無かった筈ですが・・・?」


「音無君の記憶の中で中学校時代の好きな人の水着姿が鮮明だったから真似してみたんだけど?」


「その言い方、俺が危ない人みたいに聞こえるからやめて! せめて普通の水着にして!」


「仕方ないわね、じゃあこんなのはどうかしら?」

 一瞬で水着が変わる。


「なんか布の部分少なくないですか?」

「攻めた水着にしてって言われたから攻めてみたわ!どうかしら?」


「攻めすぎだろ!ほぼ紐じゃねーか!って攻めた水着にしろなんて言ってない!普通の水着にしてって言ったんだ!」


「えー普通のってどんなの~? 音無君の記憶にある水着しか再現出来な~い」

 ワザとらしい素振りで返される。


「やめろ!俺の記憶にも普通の水着はあるだろ!嘘をつくな!」


 アンダンテは楽しそうに次々と水着を変えていくが、どれも似たような際どさだった。


「もうスク水でいいからやめて下さい。なんか俺の恥ずかしい部分(趣味嗜好)を晒されてる気分になって来た・・・」


「夢の中なんだから楽しめばいいのに~。」「あらコレも可愛いわね」

 そう言ってアンダンテは布面積の少ない水着を楽しんでいる。


「アンダンテさん夢の中楽しみ過ぎだし、色々自在に操り過ぎじゃないですか?」 


「だって他にやる事無くて、同じような場所で千年こうやって時間潰してたら色々出来るようになったのよ。凄いでしょ?」

 彼女はビーチパラソルや浮き輪を出しつつそう答える。


 ああ、そうか。彼女はずっとこんな世界に居たんだ。目的の為とは言え、俺には到底真似できない。凄い精神力のある人だな。


「そうだ、音無君、まだ自然魔法の練習出来て無いでしょ? 折角だし船の上で練習したらどう? 甲板から海に向かってなら何も気にせず魔法打ち放題よ!」

 人差し指を立てながら提案してきた。


「なるほど。どんな魔法で練習したら良いですかね?」


「そうね、ランス系の詠唱を教えてあげるからそれで練習すると良いわ。属性は水、雷、土のどれが良いかしらね~。海の上だし雷が良いかしら?」

 スク水姿の自称JKがビーチチェアーに寝そべったまま答える。


「わかりました。それで練習します」


 その時、 彼女が何かに気づいた。

「あ、丁度良いわ、練習台が来たみたいだから試し撃ちして来たら?」

「練習台が来たってどこに?」

「どこってこの船の近くよ?海の中」


「それって、つまり?」

「この船が魔物に襲われるわね」


「っておい!」

 俺は眠りから覚める為に目を閉じて集中する。

「いってらっしゃ~い☆」

 アンダンテは寝そべったままで手を振って見送る。



 目を覚ました瞬間、久々の不意打ちタイトルコールが見えた。


「迷宮の遺物(アーティファクト)を手に入れろ」


「え?なに迷宮って? このタイミングおかしくない? 海関係なくない?」

 戸惑っていると、アンダンテから詠唱がイメージで送られてきた。

「もう、忙しいな!」

 ぼやきながら部屋を出て甲板を目指す。


 甲板に出ると船員と兵士が慌しく動いていた。

「魔物は見えたか!?」

「はい!シーサーペント(海竜)らしき魚影を発見しました!」

「シーサーペントだと!?」

「他にもその取り巻きらしき魔物群の魚影が見えます!」

「ハープーンボウガンを用意しろ!」

 色んな方向から声が上がる。

「魔導師団を呼べ!エルカ様もお呼びしろ!」


 船の護衛で魔導師団とか乗ってるのか。シーサーペントってゲームとかだとウツボのデカい奴みたいな魔物? だった気がするけど。あ、魔導士が来てやっつけられたら動く標的相手に練習出来なくなる。彼等が来る前に少しだけ練習させてもらおう。


 甲板の手すり近くから見渡し、敵影を確認する。距離は少し遠い感じだが、感覚的に魔法なら届く距離だと感じた。


 体を安定させる為、肩幅程度に足を広げて立ち、足と体の向きをそれぞれ細かく調整し、敵の方向に手をかざして一呼吸。落ち着いてイメージ通りに、静かに魔法の詠唱を始める。



「我求めるは汝の力、我が魔力を(にえ)として、(いかづち)の力、(ひと)しく闇を貫き通せ」



「【ハイボルテージ(超高電圧雷撃槍)】!」


 直後、手をかざし狙いを付けた先の海原に大きな光の柱が現れ、辺り一面が光で覆われる。


「ドン!」

 大きな音と振動、一瞬の閃光と共に、シーサーペントと思われる巨大な魔物が稲妻の光の柱の中を昇る様に海から吸い上げられた。


「ギャ・・・・・・・・」

 シーサーペントは一瞬の断末魔と共に絶命した。


「あ・・・・」

 俺は驚きすぎて声が出なかった。


「凄~い」

 後ろから声が聞こえた。振り返ると白いローブの女性が居た。エルカだ。周りの兵士と船員は驚いて動きが止まっている。

 俺はすぐに落ち着きを取り戻し、エルカに声をかける。


「エルカさん、こんばんは」

「ソウイチロウさん、こんばんは~。綺麗な光でしたね~」

「そ、そうですね」

「ソウイチロウさんの魔法ですか~? 雷系の魔法も使えたんですね~」

「ええ、ちょっと練習しようと思いまして。騒がしくしてスイマセン」


「いえいえ~。なんか魔物が出たからって呼ばれたんですけど、もう大丈夫そうですね~」


「え、でも他にも魔物の群れが居るって言ってましたけど」

「多分~。今ので、ほら」

 そう言って海面を指さすエルカ。


 指の先の海を見ると、大量の魔物が浮いていた。


「あ、感電したのか」


「そうみたいですね~。すご~い。海の幸食べ放題ですね~」

「アレって食べれるんですか?」


「魚の形してるのは食べられるのもありますよ~。さっきの魔法でしっかり火が通ってれば、丁度良い焼き加減かなぁ~」

「焦げてないと良いですね」


「そうね~。ソウイチロウさんはお魚好きですか~?」

「ええ、好きですよ。味付けを変えれば毎日でも飽きないです」

「私も~。お魚大好きです~」


 相変わらず彼女は終始笑顔だ。可愛い。


「エルカ様、お話中の所失礼します」

 エルカとは少し違うデザインの白いローブを着た魔導師団と思われる女性がエルカに話しかけてきた。

「は~い、どうしました~?」

「周囲の魔物の殲滅を確認致しました。先程の光はそちらの方の魔法でしょうか?」


「そうね~。この方はソウイチロウさんです。ソウイチロウさん、こちらはこの船の護衛として乗船している第三魔導師団副団長のシェーナちゃんです」


「初めまして、シェーナちゃ、失礼、シェーナさん。ソウイチロウと言います」

「初めまして、ソウイチロウ様、第三魔導師団副団長のシェーナと申します。なるほど、貴方がランクA+の冒険者の方ですね」


 シェーナはレミ位の背丈の女性だ。150㎝位かな?エルカよりも背は低い。

 シェーナが一瞬フード越しに俺の黒髪を見た気がした。松明の明かりと月明りだけではフード奥の髪の色までは見えないとは思うが。


「ソウイチロウ様、もし良ければ先程の魔法の事を聞いても宜しいでしょうか?」

「え?ああ、えっと、魔法名の事ですか?」


「はい、あれ程の高出力の魔法は見た事が無く、後学のためにお聞きしたいのですが」


「あれはハイボルテージという魔法です」


「ハイボルテージ!?」


 え? 俺何か間違った事言ったかな? アンダンテのイメージだと、ハイボルテージっていう魔法なんだけど。


「ハイボルテージって雷属性の古代魔法じゃなかったかしら~?」

「そうです!長い詠唱と膨大な魔力量を必要とする為、集団詠唱で使う事が前提とされる魔法です!」


 おー、さすが副団長殿、分かり易い解説ありがとう。でも詠唱は短かったから俺が使ったのは弱めの奴なのかな? あれ位の詠唱で長いとか無いよな?


「まさか古代魔法を一人で放って平然としていられるなんて・・・・」


 そう言えばなんか少し疲れた気はするけど、立てなくなる程じゃない。勿論、【オーバードライブ(過剰強化)】はかけて有るが。日本に居た頃で例えるなら、数十メートルダッシュした程度の疲れだな。


「えっと、古代魔法の詠唱って長いんですか? 今のハイボルテージは詠唱短かったんで、威力は弱めだったかも」


「え?古代魔法って頑張っても詠唱時間は十秒以上はかかりますし、ファストキャスト(短縮詠唱)出来るなんて話は聞いた事ありません。しかもシーサーペントを一撃で仕留めているのに威力が弱い等という事は無いかと・・・」


 おお、マジか。じゃあこの魔法はハイボルテージでは無いのか? ・・・いや多分アンダンテのイメージを貰って放ったハイボルテージ(古代魔法)も、シェーナの言っているハイボルテージ(古代魔法)もどっちも合っているのだろう。嘘をつく意味が無い。三千年で魔法の体系も色々変わったのだとおもう。多分。


「これほど強い方が ランクA なのは評価がおかしくないですか? ランクS が妥当ですよ!エルカ団長!」

「あら~。私今は団長じゃないわよ~シェーナちゃん」

「あ! 失礼しました。エルカ様」

 エルカに言われて落ち着きを取り戻すシェーナ。


 エルカは魔導師団の団長をやってたのか。


「ソウイチロウさんは二日前に冒険者になったばかりだから~まだ ランクS にはなれないのよ~」

「二日前!?」

「そうよ~報告書はまだ読んでないかしら~?」

「申し訳ありません!まだ全てに目を通していませんでした!」

「じゃあこれから一緒に読みに行きましょ~。ソウイチロウさん失礼しますね~。おやすみなさいませ~」


「あ、おやすみなさい。良い夢を」

 そう言えば深夜だった。懐中時計を確認すると時刻は2時少し前。この時計は出航前の買い物中、ガボットさんに時計屋は無いかと聞き、店を紹介して貰って二十万リア(金貨2枚)で買った懐中時計だ。所々金で装飾されている。やはり小型化した時計は高級品だった。壊さないように普段は【キューブ】に入れている。これでしっかり時間が把握できる。


「さて、俺も船室に戻るか」

 周りの船員と兵士の視線が気になったが気が付かないフリをして階段を下りる。

 その後、兵士と船員達は俺が魔法で倒した魔物の回収をしていたみたいだ。部屋に戻ってからも掛け声等が聞こえていた。後片付けしなくていいのは楽だな。


 ちなみにルーナはセレーナと同じ船室で寝ている。セレーナ一人では寂しいだろうから、船旅中はセレーナの傍に居てくれと、俺がこっそりルーナにお願いしたのだ。さっきの魔法の音で起こしてないと良いけど。


 ベッドに戻り再度目を閉じる。



「おかえり~。どうだった?」

 アンダンテはまだビーチチェアーでバカンスを楽しんでいた。麦わら帽子とドリンクが追加されていた。


「結果はアンダンテさんも見てたでしょ?でもなんか思ってたのと違う魔法が出た気がしますが?」

「えーランス系だから間違ってないわよ~」


「いやランスっていうよりも柱でしたけど?巨大な柱」

「まあ柱みたいな太さの槍が落ちる魔法なんだけどね」

 二人同時に喋っていた。


「「・・・」」


「魔導師団の子に古代魔法とか言われてましたがそうなんですか?」

「ん-まあ古代魔法と言えばそうだけど、アレと一緒にされるのはなんか(しゃく)ね」

「何故ですか?」

「音無君に教えたハイボルテージは私のオリジナルだからね~。詠唱を短くして消費MPも超少なくしたのに威力は3割増しよ!あの出来損ない(古代魔法)とは格が違うわ!」


「・・・この魔法でもあの兵器は倒せませんか?」

 威力を見て思いついてた事を聞いてみた。


「ここから色々見てたけどあの兵器の対魔法結界は特殊限定結界と言って、魔法特化型防御結界なのよ。理不尽だけど外側からの魔法攻撃は大幅に効果を下げられてしまうの。かといって結界内で放てば自分も魔法に巻き込まれるし、倒せば自爆にも巻き込まれる。今更だけど、魔法陣を斬って破壊しても、自爆は発動するわよ」


「なるほど・・・。アレを倒すだけならってやつですか」

「そう言う事。私や音無君だけが相手をするなら兎も角、戦場での戦闘や一般の兵士達はあんな卑怯な兵器相手に正々堂々と戦う必要は無いわ。遠方からの狙撃で十分よ。更に大量に出てきた場合、音無君が一つずつ破壊して回る訳にも行かないでしょ?」


「確かにそうですね。あとは対策をされないうちに鏃の量産を急ぎたいですね」

「まあそれは戦略会議で提案して見たら良いんじゃないかしら?既に量産が始まってるかもしれないし、敵側に対策されて通じなくなってるかもしれないけど一応ね」


「そうですね。所で戦略会議って何するんですかね? 魔族領って北の大陸でしたっけ、3国の同盟軍でそこに乗り込んで戦うんですかね?」


「さあね、でも相手が魔族なら最終的にはそうなるでしょうね」

 何か含みのある言い方に聞こえた。

「あの兵器は魔族のじゃないんですか?」

「私の知ってる魔族は狡猾でいやらしいけど、そこまで頭の良くないアホの集まりなのよね」

「ん-。つまり魔族にはあの兵器は作れないと?」


「作れなくは無いでしょうけど、あのアホの魔族共だけであの兵器を完成させたとは思えないのよね。まぁ三千年の間にあのアホ共にも勤勉な奴が出て来て、色々勉強したのかもしれないけど」

 そう言えばアンダンテさんは魔族領で大暴れしたんだっけ。めっちゃアホ連呼してるけど、その時の怨みはまだ残ってるぽいな。今は触らないでおくか。


「王都で魔導書を見せてもらう時に他の歴史書も見せてもらう事になってますので、その時に何か分かるかもしれませんね」


「そうね、そうだった。私とした事が、バカンスが楽しくて忘れてたわ! 取り合えず1冊は確実に回収出来るわね! やったわ! でかしたわよ音無君!」


 どんだけバカンス楽しんでたんだこの人は・・・。


「音無君! こっちを見て頂戴!」

 アンダンテの方を振り向くと、前かがみになって膝に手をつき、胸を両腕で寄せてポーズをとっていた。


「何してるんですか?」

「音無君へのご褒美よ! 好きなだけ見てて良いわ!」


 俺はそのまま無言でビーチチェアーに座り、傍らにあった麦わら帽子を顔に乗せて目を閉じた。

「おやすみなさい」


「ねえ! ちょっと! 少しは喜びなさいよ! 私の立つ瀬が無いじゃない! ほら、胸だってこんなにあるのよ? 何が足りないの? 脱いだ方が良い? そっちの方がいい? ねえ? ちょっと?」


 なにやら喚いているアンダンテを無視して俺は朝まで深い眠りに落ちた。

 美味しい海の幸(朝ごはん)を心待ちにして。

お読み頂き、ありがとうございます。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると励みになります。


ぜひよろしくお願い致します。


更新時間は通常、8時に致します。

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