―真義②―
「それは・・・・」
レミが口籠る
「それは私の感だ!本当だぞ?はっはっは!」
レミは やれやれ といった表情で頭に手を当てている。
「・・・プっ!フフ、ははははは!」
「ソウイチロウ殿もその様に笑えるのですな?!はっはっは!」
「あはははははははは!」
本当に可笑しかった。ミハエルは本当に変な奴だった。
「こんなに笑ったのは久しぶりですよ」
軽く涙を拭きながら答えた。
俺と王子以外の人間はキョトンとしている。やはり俺達は気が合うらしい。
「それで、ミハエルは私に何をさせたいのですか?」
「ソウイチロウ殿は話が早くて助かる、なあレミ?」
「はい、まずは現在の状況をお伝え致します。昨日の兵器との戦闘についてですが、世界各地であの兵器の襲来が確認されました。そしてその殆どが迎撃間に合わず自爆され、かなりの被害が出たとの報告が入りました」
「幸い、赤、緑、黄、3国の各王都では多重結界と大型兵器等の使用によって城下町の外での迎撃に成功し、被害は殆ど無い状態で対処が出来ました」
「世界各地でですか」
「はい、そして王都以外で殆ど被害が無かったのは、このローランドのみとなります。」
「ソウイチロウ殿のおかげでな」
「そう言った現状も踏まえ、オトナシ様には赤の国所属の冒険者として特別に、ランクA+を与えると共に、3国への無条件入出国の権利とギルド証による船舶の所持、港の使用許可、及びその他優遇措置を与える事と致しました。またランクA+の権限貸与に基づきエーテルサーキュレーションデバイス、通称【クリスタル】による移動の開放も承認させて頂きます。これに伴いステータスプレートの方は後程更新して頂きます」
二階級特進所じゃないな。FからAって5階級特進だ。Aの上はSか。プラスってのがクリスタルでの移動許可なのか?
「そして誠に勝手ながら優遇の条件として、3国での敵兵器及びその他の敵勢力の殲滅作戦、及び関連する戦闘に強制的に参加して頂く事となります。勿論、その国に入国し、街や村、王都に滞在している間という条件が付きます」
「話の途中ですいません、エーテルサーキュレーションデバイスって何ですか?」
「エーテルサーキュレーションデバイス、通称【クリスタル】は有形アーティファクトと呼ばれる物の一つで、世界各地に点在する巨大人造魔力結晶を使った移動装置になります。大陸間すら一瞬で移動出来る装置ですが、これの解放には各地のクリスタルを訪れ、一度触れる必要があります」
「凄いと思いますが結構危険な装置ですね。世界各地に作ったのですか?」
「残念ながら現在はクリスタルを新たに作る技術は失われてしまいました。今あるクリスタルは当時のままの物です。そしれこれらは各国でしっかりと管理されていますが、一度に大量の人間を運ぶ事等は出来ず、また物資の大量輸送にも使えません。遥か昔に作った人間がそうしたのか、それともそうならざるを得なかったのかは分かりませんが、今の所、戦争等に使われるような心配はありません」
「なるほど、これを開放する為にも世界を周る必要はありますね」
「はい、後程ご案内致しますが、この街にもクリスタルが御座いますのでまずはローランドのクリスタルを開放して頂きます」
「分かりました、ちなみに先程の戦闘への強制参加ですが、これは私一人だけという認識で宜しいでしょうか?」
「はい、セレーナ様やルーナ様への強制は御座いませんので、ご安心下さい」
「それなら良かった」
「ソウイチロウ様、私は何処までもソウイチロウ様に着いて行きますし一緒に戦います」
「ワン!ワン!」
「分かってるさ、二人共。ただの確認だ。二人を置いて行くわけじゃない。大丈夫だ」
「はい、それなら良いのですが」
「ワン!」
最悪、二人は逃がしても問題は無い事を確認しておく。兵士やそれに属する者が撤退命令以外で敵前逃亡すれば死刑ってのはどこ行っても同じだろうからな。まあそうならないように努力はするけど。
俺に関して言えば要するに3国に出入り自由で要請以外では好き勝手に戦う事が出来る遊撃隊か。個人で太刀打ち出来る人間なら国が管理したい所なんだろうけど、恐らく3国のトップ達で話し合って決めたのだろう。万が一にも敵に回らないように優遇し、足枷も付けてって感じかな。まあ大人の事情だな。
別に何かされない限りはこちらも何もする気はないし、出来るだけトラブルは避けたいからね。
「話を遮ってしまってすいません、続きをどうぞ」
「はい、オトナシ様には一度、ルブルムナビス王国へ赴いて頂き、戦略会議への参加をお願いしたいとの要請があります」
「私が戦略会議に? 個人の戦闘経験もそうですが、戦略に口出し出来る程の経験等はありませんよ?」
「それに関しては無属性魔法と無限の叡智といったスキルに起因しているのかと思われます」
「私のステータスについて王都で何かありましたか?」
王都にはアンダンテの魂の入った著書があるはず。だとしたらそれ関係の書物かその本自体が保管管理されていてもおかしくはない。見つける手間が省けるかも。
「はい、オトナシ様のスキル、無限の叡智、意識制御、無の理解者、魔力融合がスキルブックと呼ばれる今まで発見されたスキルの記録には無く、新しいスキルとして登録されました。また、無属性魔法についてですが、こちらは王宮の禁書として厳重保管された図書の中から無属性魔法の魔導書が発見されました」
よし、それだ。目当ての本に間違いない。
「その他、古代の歴史書の中から、魔導書の著者、アンダンテ・アニマート氏の名前が記述されたものを発見致しました」
フルネームはアンダンテ・アニマートって言うのか。てかあれから一切魔導書見て無かったな。後で一応確認しておこう。
「その記述の中から氏が女性である事と彼女の二つ名が無限だったという記述が確認されました。歴史上、無限の二つ名を所持していた人物は彼女以外確認できず、恐らくオトナシ様のスキル「無限の叡智」との関係性があるのではと推測されました」
おおー有ってる。流石王国の偉い人達だ。
「彼女は推定三千年以上前の人物で、現在まで残るいくつかのアーティファクトの製作にかかわっている事や、いくつかの国を滅ぼしたり、単身で魔族領に乗り込み数千以上の魔族を屠った事、数々の偉業が記録されていました。残念ながら歴史書が古すぎて完全な状態では無く、詳細まで確認する事は出来ませんでした」
アンダンテさん帝国以外も滅ぼしてるのか? まあ状況的に帝国の同盟国的な国に暗殺されかけたから潰したんだろうな。どさくさに紛れて仕返しってこれか?
てか魔族を数千屠るって、魔族は彼女相手に何やらかしたんだ? 「単身で魔族領に乗り込んで」ってアンダンテさんブチ切れ案件じゃないっすか。彼女の思い当たる節ってこれじゃないの?
「ちなみに彼女の関わった遺物って何があるんですか?」
「そうですね、先程お話しした【クリスタル】の作製にも関わったらしい事は確認出来ています。あと、ステータスプレートもその一つです。他にも古代迷宮攻略用の迷宮図や複数の魔法術式、薬品類の製法、いくつかのスキルの発見も彼女の功績として有形無形の遺物の記録が確認出来ました」
流石自称天才JKだな、色々な功績残してるじゃないか。しかもステータスプレートもクリスタルも作製に関わってるとか、三千年前の人達、優秀過ぎる。
「なるほど、凄い人なんですね」
「ええ、私もこの報告を聞いて、驚きのあまり言葉も出ませんでした」
「ソウイチロウ殿はこれらの件に関して心当たりはありませんかな?」
ミハエルの鋭いツッコミが入った。なんと答えるべきか。彼等には素直に言っても問題無いだろうけど、国の偉い人達がどう判断するか・・・。ここまで色々巻き込まれて今さら感はあるが、取り合えずは本の回収を先にしたい。これから益々戦火は広がっていくだろうし、そうなれば本の存在自体がが危うくなるだろうからな。
「そうですね、無属性魔法については現状で種類がどの位あるのかも分かっていませんし、まだ使える魔法も多くは有りません。その辺りを調べる為に、一度その本を見せては頂けませんでしょうか?」
嘘は言っていない。バレバレだとは思うが敢えて言葉を濁す。
「分かりました。では戦略会議にはご出席頂けるという事で宜しいでしょうか?」
「はい、その複数の禁書を全て閲覧させて頂けるのであれば参加致します」
要望はハッキリと伝える。会議に参加したとしても現状で俺自身の知識がそこまで役に立つとは思わないが、それとこれとは別の話だからな。役に立たなかったとしても俺の責任ではない。
「了解致しました。それでは禁書の方はしっかりと準備させて頂きます」
「お願い致します」
「それで、王国迄の移動ですが、ここから魔導船に乗って王都の港までお送り致します」
「魔導船ですか?」
「はい、推進力に魔石を用いた大型船です」
「大型船なら馬車よりは快適な旅になりそうですね」
そう言いながらセレーナに微笑みかけると、彼女はポプリを見ながら困惑した表情で笑ってる。
フリが上級過ぎた。
魔導船か。お風呂とかドライヤーみたいな感じで、魔石を燃料にしたエンジンみたいな物が付いてるのかな?推進力が風次第の帆船では無いのだろう。大型船なら馬車よりは乗り心地良さそうだ。これもまあ一種の身柄拘束なのだろうが、そこまで警戒して捻くれた考えばかりでも仕方ない。まずは1冊目を無事に回収する事が優先だ。他の書物も俺を通して彼女に見せれば色々な事が分かるかもしれない。彼女のアップデートもしなければな。
「ここまでで何か質問は御座いますか?」
「王都まではどの位の日数がかりますか?」
「はい、王都までは魔導船で7日程になります」
「1週間、ちなみに馬車だと?」
「大体30~50日位ですかね」
「かなり遠いですね」
流石に昼夜問わず推進力使って移動し続けられる船なら早いか。それでも1週間。色々買い込んで準備した方が良いよな。申し訳ないがガボットさんにも買い物を手伝って貰おう。
「ちなみに出発はいつになりますか?」
「準備が出来次第、遅くても今夜中には出発致します」
早くない? 今日の今日だぜ? 大型の船なんて港に有ったか? 色々急いでたから見逃してたのか?
「なるほど、あまり時間が無いですね。早速準備の方にかかりましょうか。まずは柱の切断、プレート更新ですかね?」
そうして柱の切断、ステータスプレートの更新、ローランドのクリスタルの開放、船旅に必要な物の買い出しを済ませた。
クリスタルの場所は港の南側の奥、崖の下の横穴の中だった。入り口には格子の扉がついていて表と中に兵士数人と警戒は厳重だった。普段は観光用に開放してるとの事だが、流石に有事には閉ざされていた。
クリスタルの開放にはエルカさんのみが同行し、その後の買い出しにも一緒に付いて来てくれた。船旅も彼女が同行してくれるらしい。旅慣れしている女性が一緒に居ればセレーナには心強いだろう。彼女はまだ16だからな。ちなみにクリスタルの開放はルーナも含めた5人全員で行った。
クリスタルの開放後の買い物中はポプリと3人で仲良く話しながら盛り上がっていた。俺とルーナとガボットさんは女子3人と途中で分かれて武器や防具の予備を買い足すのと、今後ガボットさんに作ってもらう装備の打ち合わせをしていた。
その為、ガボット親子には宿を取り、村への出発を一日だけ延期して貰った。宿の代金はギルド持ちだ。昨日泊まったのと同じギルドの宿だからね。勿論一番良い部屋だ。
肝心の魔導船だが、運よく敵兵器の襲撃時には到着せず、昨日の深夜に入港していたらしいが、国所有の大型船なので関係者以外立ち入り禁止の専用ドックに入っていたそうだ。
夕方、出発の準備が出来たので待ち合わせ場所として指定した商業ギルドで女子3人と合流し、魔導船まで案内される。
「ガボットさん、ポプリ、二人共ありがとう。そして村への報告は頼みます」
「二人共色々手伝ってくれてありがとうございました。」
「ワン!」
「村の事はお任せ下さい。村長への報告もしっかりとさせて頂きます」
「ソウイチロウ様、ルーナ様、セレーナ、頑張ってね!」
別れを済ませ、船へ乗り込む。
さあ、これから長い船旅だ。
異世界での船の旅を楽しむとしよう。魚介類は好きだからご飯が海鮮ばかりでも飽きないし楽しめるだろう。
お読み頂き、ありがとうございます。
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更新時間は通常、8時に致します。
馬車での移動日数を変更しました。




