―口実―
宿屋に戻った後、みんなでギルドの宿屋の1階にある酒場にて夕食。
ガボットが防具の状態を見てくれると言うので俺は装備をガボットに預けた。
風呂に入ろうと思ったが、湯沸かし器等有る訳が無く、使い方が分からなかったので再度ガボットの部屋に訪れ、風呂の使い方を聞いた。
「この魔石をこうしてここにはめ込むとお湯が出ます」
「おお、これは便利ですね」
「止める時は魔石を外してください」
「わかりました。ありがとうございます」
ガボットの部屋で説明を受けて、自室へ戻り風呂に入った。
三日ぶりの風呂だ。やはり湯船に浸かるのはいい。
「ふぅ、一日の疲れが取ルーナが湯船に飛び込んでザバーン!!っっておい!」
ルーナが湯船に乱入してきた。
「危ないから湯船に飛び込んじゃいけません。」
「クゥウン」
「まぁでも一日お疲れ様。今日は二人で沢山走ったな」
「ワン!」
「明日も沢山走るかもしれないが宜しくな」
「ワン!」
また、いつあの兵器に出くわすか分からないが、備えだけはしておこう。明日は朝から防具の予備とフード付きの服も何着か予備を買っておこう。敵が魔族だと分かった以上、髪の色が原因のトラブルはどこでも起こるだろうからな。
昼間の疲れと満腹感で眠くなって来たので風呂をあがり、髪を乾かして寝る事にする。
脱衣所には備え付けのドライヤーのような物もあり、同じように専用の魔石で動かす形だった。
ファンタジー最高かよ。
いや、まあこの世界は空想や幻想ではないんだけどな。
「こんばんは、音無君」
「こんばんは、アンダンテさん。昼間はありがとうございました」
「お礼なんて言わないで良いわよ。今の私はアナタの一部なのだから。それよりも本格的に街が襲われだしたわね」
「ええ、目的はやはり人間に対しての戦争行為って事で良いんでしょうかね?」
「まだ何とも言えないわ。他の街や他国を含めた国の情報が入ってないから、どの位の規模であの兵器が使われてるのか分からないし」
「確かにそうですね。トロンやホルンの村は平気でしょうか?」
「気になるけど今はどうしようもないわ。村長達にはアレが来たら逃げてと言っておいた訳だし、その辺りは上手くやるでしょ」
「そうですね」
「それよりも私に色々聞きたい事あるんじゃない?」
「ええ、ステータスプレートの内容なんですが、無限の叡智ってアンダンテさんの事ですよね?」
「そうね、他に意識制御はここの事で、無の理解者は分かるわよね?」
「はい、聖霊の加護はサンシーカーの加護って事ですよね?どんな内容なんでしょうか?」
「加護スキルは効果が色々あるんだけれど、まずは他の聖霊や精霊に認識してもらえるという事が一番の利点ね。あとはそうね、地球の言葉で分かり易く言うと、このスキルはパッシブスキルよ。無限の叡智は少し違うけど、アンデットキラーはその一つだし、幸運もソレね」
「加護の内容としてはその他にも魔物に対して攻撃力が増す効果だったり、サンシーカーの場合、平穏と安寧を司る聖霊だから、他人とのコミュニケーションが上手くいくとか、そういった効果があると思うわ。でも昼間の騒動に関しては髪の色が原因だからどうしようもないけどね。今回の敵が魔族じゃ無ければ、バレても何とかなったかもしれないけどね」
「幸運とは一体」
「幸運は強いて言うなら、私という存在が居る事かしらね!」
「俺の出現の方がアンダンテさんにとっては幸運だったんじゃないですか?」
「あら、音無君言うようになったわね」
「そんな事よりも、まだ聞きたい内容があるんですけど、自然調和と魔力融合ってそれぞれなんですかね?」
「そうね、これは私も持ってるから教えてあげるわ。寧ろこれが今日のメインディッシュよ。そう言えば今日の夕飯は美味しそうなお肉だったわね。」
「ええ、お腹空いたので色々頼んじゃいました。食べてる最中にお金使い果たしてたのに気付いて、トイレ行くふりしてギルドで魔石換金して来ましたけどね」
「アレみんなにバレてたんじゃないかしら。気を使って見ないフリしてただけだと思う。座席の位置から入り口丸見えだったし・・・」
「おふ・・・・」
「ごめん、話が飛んだわ。自然調和だけど、これは自然属性を全て使える者のスキルよ。音無君も魔法適正は全てあるでしょ?無以外の魔法も覚えれば自在に使えるわよ」
「おーそれはいい。アンダンテさんも使えるんですよね?」
「そうよ」
「なんで教えてくれないんですか?」
「別に意地悪して教えて無いわけじゃないわ。物事には順序ってものがあるのよ」
「順序?」
「そう、順序。ド素人の音無君がいきなり全部の属性の魔法覚えるよりも、無属性1本に絞って覚えた方が効率がいいと思ったのよ。詠唱嫌がってたし、それに無属性魔法は実際役に立ったでしょ?」
「まあ確かに。あの兵器には自然魔法効いてなかったですからね」
「そうよ、あんな多数の術式使った魔導兵器なんて幾重にも対魔術の防御結界施してあるに決まってるんだから、そんじょそこらの魔法使いじゃ軽くひねり潰されるだけよ」
「その言い方だと魔法でも対処は出来るように聞こえますが?」
「出来なくはないけど、そのレベルの魔導士が今この世界に居るかが問題ね」
「なるほど」
「でもコスパ悪いから、ボウガンで装甲ぶち抜いて操縦者殺した方が手っ取り早いわよ」
「コスパ・・・」
「ん?使い方間違ってた?」
「いえ、合ってます」
「日本と違ってこの世界では殺し合いなんて日常茶飯事よ。音無君だって何回も殺されかけたでしょう?。対話だって通じる相手じゃ無かったり、状況がそれを許さない事だってある」
「ええ、そうですよね。やらなきゃやられる。そんな世界ですもんね。きれいごとばかり言ってられない」
「ええ、「理解しろ」なんて言わないけれど、こればっかりは慣れるしかないわ。悲しいけどね」
泣き言を言っても始まらない。出来る事をするしかない。
「自然魔法に関しては後でいくつか詠唱を教えるわ。これも音無君なら地球の科学で原理を理解しているから、発動に慣れればイメージだけで使えるようになるわよ。ただ、無属性と違ってコスパ悪いから連発してると魔力枯渇するから気を付けなさい」
「分かりました」
「次に魔力融合だけど、これはいくつか使い方があるの。魔法の詠唱より遥かに難しいから時間はかかると思う」
「何かを融合させるって事ですよね?」
「そう、魔力を融合させられるスキルよ。そうね、例えば火と土の魔法を融合させるとかね」
「土を燃やすんですか?」
「簡単に言えばそうね、例えば溶岩をイメージして貰えば分かり易いかな」
「ああ!確かに。あれは燃えてる岩ですよね。そうか、鉄等の金属も溶かしたらその類か」
「そうよ。そのイメージで二つの魔力を融合すれば良いわ。まあ簡単には出来ないからこれは練習あるのみよ」
「これも魔力消費は多いですか?」
「ええ、単純な自然魔法よりもかなり威力はあるけど、比例して魔力消費も上がるわ。気を付けてね」
「わかりました」
「あとは、追跡者のスキルだけど、これは触った対象をどこまでも追跡する事が出来るスキルよ。慣れれば複数人にマーキングできるわ。【シフト】と相性が良いスキルだけど、シフトの範囲は魔力次第だし、見える範囲以上の距離ではシフトと合わせて使わない方が良いわ。発動しないわ魔力枯渇するわで痛い目を見るわよ」
「わかりました」
「こんな所かしら?あとは私じゃなくても説明は出来るわ。さてそれじゃ魔法の詠唱だけど、イメージを渡すからこっちに来て頂戴」
「はい」
アンダンテに近寄ると、頬に両手を当てられお互いの額を付け・・・
「!?!?!?!?!?んんん!」
お互いの額では無く、唇と唇が触れていた。
「んんん~ぷはぁ~☆」
「ぷは~じゃないですよ。何してるんですか?」
「別に良いじゃないキス位、減るもんじゃないし、音無君童貞でも無いでしょ?」
アンダンテは笑顔でよだれを拭いている。
「違いますけど、なんでキス?」
「音無君に私のを入れるのと、私の中に音無君のモノを入れるのを同時にしただけよ」
「言葉のチョイスを考えてー」
「魔法の詠唱イメージを送るのと、覚醒時に意識に出て予定外に減っちゃった分の魔力を貰ったのよ。一石二鳥よ」
「舌を入れる必要はありましたか?」
「良いじゃない、お互いに実体の無い夢の中なんだから気にしないでよ」
「それはそうですが・・・」
「・・・嫌だった?」
「その言い方ズルくない?!」
「音無君・・・嫌だったんだ・・・」
「嫌じゃないですよ」
くそう、あの言い方はずるい。
「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。こんな天才美少女からキスを貰って嫌なわけないわよね☆」
アンダンテは自分の両手を頬に当ててクネクネしてる。
「ふう、まあいいや。今日から自然魔法の練習頑張ろう」
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