―謎―
冒険者ギルドへ戻る
ドアの前で迷彩を解除する。
ガボットさん達が見えた。
「みんな、ただいま」
「ワン!」
「お二人共、御無事で何より」
「「ソウイチロウ様!ルーナ様お帰りなさい!」」
三人が同時に話す。
「ワン!」
「ルーナはセレーナに抱き上げられながらもセレーナの顔を舐め回している」
周囲がざわつく。
「居たぞ!こっちだ!ギルドの中だ!」
兵士が声を上げ、俺達を取り囲んだ。
後ろから指揮官風の男が兵をかき分けて前に出てくる。
「見つけたぞ!観念して大人しく投降しろ!」
「あ、忘れてた。冤罪で追いかけられてたんだった」
「ワン」
「ソウイチロウ殿、何をされたんですか?」
「いえ、冤罪です。身に覚えがありません」
「そうですよ。ソウイチロウ様が兵に追われるような事をするなんてありえません。」
「そうだよお父さん。髪の色位で兵に追われるわけないじゃん」
「「「「・・・・・」」」」
「「「それだ」」」
魔族の襲撃 → 対魔結界壊される → 街の中に黒い髪の男。
なるほど、トリプル役満じゃないか。
自分の肩を見るが、炭になったフードマントは跡形もない。
よし、分かった。逃げよう。こんな街さっさと出てしまおう。宿代は勿体ないが諦めよう。
そうだ、商業ギルドに寄ってお金を半分位返してもらおう。
船は小舟だったし、壊れなかったし、1艘は使わなかったし。それにあの中には村長から預かったセレーナの分の路銀も入っているんだ。あの子に不自由な思いはさせたくない。
よし、まずは姿を隠して、あの指揮官風の奴を一発ぶんなぐってそれから・・・
そんな逃亡プランを考えて居ると、誰かが声を上げた。
「黒髪の彼とその仲間達の身分は私が保証する!!!兵を引き上げろ!!!」
後ろから大きな声が響いた。知ってる声だった。その場の全員がその人物を見た。
ミハエルだ。
「ミハエルさん」
「ソウイチロウ殿、街の事も含め、先程はありがとうございました」
彼の方に振り返ると、ミハエルが俺に近寄り頭を下げた。
その場の全員が二人に注目し、静まり返る。
ミハエルの後ろから女性が現れ、指揮官風の男に命令する。
「さあ、聞こえなかったの?!早く兵を引き上げなさい!」
彼女は副試験官のレミだった。
隣にはもう一人白いローブを着た女性も居た。
「エルカさん!」
セレーナが白いローブの女性をそう呼んだ。知り合いか?
「こんばんは~!セレーナちゃんさっきぶりね~!」
指揮官風の男と兵士達はミハエル達に向かって敬礼をしてからギルドを出ていく。
セレーナの方も気になったが、まずはミハエルと話をしないとな。
「ミハエルさん達は偉い人だったんですね」
「そうでもないぞ、ただの試験官だ!はっはっは!」
嘘が下手だなこの人。
「そうだ、ソウイチロウ殿はお疲れだろう?立ち話もなんだから奥の部屋に行って話をしよう!美味しい茶菓子もあるぞ!」
「行きましょう!美味しい茶菓子を食べに!」
「茶菓子に釣られてる・・・」
レミが小声で突っ込む
「さあ、セレーナちゃん達も、お菓子を食べに行きましょ~」
「は、はい、取り合えず行きましょう」
「ワン!」
全員でギルドの奥の部屋へ移動した。
あーソファーだ。座り心地良いな。にしても疲れたなー。取り合えず茶菓子食べて寝たい。
そう言えばお昼食べてないな。てかもう夕食的な時間じゃん。出前とか取れないかな。
そんな事を考えながら出されたクッキー的なお菓子を食べてるとミハエルが話しかけてきた。
「どうだ!ソウイチロウ殿!茶菓子の味は気にってくれたか?!」
「はい、美味しいです」
食べてる最中だったので口に手を当てて答えた。
「まだ沢山あるから、全部食べても良いぞ!はっはっは!」
「晩御飯食べられなくなるので全部は無理ですが、お土産にしますので少し包んで下さい」
「そうか!わかった!レミ、お土産に包んであげてくれ!」
「わかったわ、ナタリーお願いね」
「え、あ、はい!」
ちなみに飲み物はトロン村で飲んだのと同じ透明な紅茶だった。美味しい。
ルーナにも水を出してもらった。
「さて、改めて自己紹介をしておこうか!私はミハエルだ。隣がレミ、その隣がエルカだ」
「レミです」「エルカです」
「私はソウイチロウです。隣がシーカーウルフの子ルーナでルーナを抱いているのがエレーナ。その隣がポプリでその隣がガボットです」
互いに自己紹介をする。一応敬称は付けないでおく。
「よし、それではまずはこちらから、ひとまず今回の魔族と思われる敵の襲撃の件についてだが、被害も少なく迎撃してくれた事をお礼させて頂く」
「あ、えっと、はい」
「君が全部やってくれたんだろう?別に隠す事じゃないぞ!はっはっは!」
「ん-そうですね」
なんだろう、褒められたりするのに慣れてない日本人の性格が顔を出してるな。半分は緊張で残り半分は疑心だ。
「そして私は君に命を助けられた!君が居なければ犠牲者の一人だった。そちらのお礼も言わせて欲しい。ありがとう!」
「いえ、どういたしまして。こちらこそ先程は助けて頂いてありがとうございました。危うく濡れ衣で処刑されるところでした。」
「いや、礼には及ばん。君はこの街を救ってくれた英雄だ。確かに髪の色は黒だが、君は魔族ではない。それ位は私にもわかる。フードで髪を隠していたのはこういった騒ぎを避ける為だったのだろう?」
「はい、個人的にあまり目立つのも好きでは無いですし、仲間にも迷惑が掛かりますから、街の中ではせめて目立たない様にと思ってました」
「君はそれでも冒険者になって何かしたい事があった。そうだろう?」
「はい、色々ありまして、世界を周る予定です」
「そうか!世界を周るか!それは良い!世界は広いからな!自分の小ささが良く分かる!はっはっは!」
「それでは本題だが、ソウイチロウ殿はあの兵器と以前にも戦った事があるのだな?」
「はい、あります」
「ふむ、アレについて知ってる事を教えて頂きたい」
「わかりました」
操縦者を殺すと結界に閉じ込められ、自爆が発動する事。魔法陣術式で動いている兵器だという予想。兵器と同じ数の柱が設置されているであろう事等兵器の事や柱の素材等を分かる限りで話した。
「なるほど、その柱というのは気になるな。分かった、すぐに兵士を捜索に出そう。その他には何かあるかな?」
「そういえば私が斬った足の残骸は回収されましたか?」
「ああ、あの足の残骸は兵器が自爆した際に一緒に消えてしまったと報告があったな。塵になって消えてしまったそうだ」
「そうですか。破片でも残っていれば何か分かるかもしれなかったのですが。仕方ありませんね」
「そうだな。他にはなにかあるか?」
「いえ、あの兵器に関してはこれ位かと思います。何か思い出したらその時に言います」
「わかった」
「シルビア、兵士長を呼んで来てくれ」
「はい、分かりました」
シルビアというのはセレーナの方の受付をしてくれた女性だ。
扉から出て行った。兵士長を呼びに行ったのだろう。
隣のレミがミハエルを肘でつつく。
「お、なんだレミ、何かあるのか?」
「私も話して良いかしら?」
「良いぞ!話したい事があるならどんどん話せ!」
「えっと、一応聞くけど私の事は覚えてるわよね?」
「はい、副試験官のレミさんですね」
「そうよ。覚えててくれてありがとう。聞きたい事がいくつかあるのだけど、別に何か疑っていて尋問って事じゃないから答えたくない事があれば答えなくて良いわ。」
「はい、わかりました」
「あと、貴方のステータスプレートの内容の事もあるんだけれど、彼等にも聞かせて大丈夫かしら?」
「あ、はい、特に隠すつもりは無いし、一番信頼してる人達なので大丈夫です」
「わかったわ。一応この部屋は今、魔法で封鎖してあって、この中の会話は外には聞こえないし、後ろにいるナタリーもさっき出て行ったシルビアもギルド職員は秘匿の契約魔法が掛けられていて、冒険者の情報は上級管理者以上の職員以外には喋れないし、声以外のいかなる方法でも伝えられないから安心して頂戴。」
「分かりました」
「それじゃあまず、名前はオトナシ・ソウイチロウで良いのよね?」
「はい」
「貴方の姓だけど、聞いたことが無いわ。どこの出身?」
「えっと、ノーコメントで」
「分かったわ、じゃあ次に称号の【聖霊の使者】についてだけど、これは説明出来る事はあるかしら?」
「えーっと、世界を周る目的の一つですね。他の大陸も周って聖霊に会いに行きます」
「聖霊に会って何をするの?」
「聖霊に会うのが目的なので、聖霊が私にさせたい事があればその時に伝えてくると思います」
「なるほどね」
「次にスキルについてだけど、聞いても良いかしら?」
「はい、でもスキルについて私も良く分かって無いものばかりなので答えられる事が少ないです。今日初めてプレートを作って、スキルを見たので」
「自分でも自分のスキルを理解していないの?」
「はい」
「そうなの・・・まあ良いわ」
「すいません」
「謝らなくて良いわ。こっちが勝手に聞いてるだけで、貴方に答える義務は無いから」
「そういって貰えると助かります」
「まだ聞きたい事が有るんだけど続けても良いかしら?」
「どうぞ」
「貴方の魔法適正なんだけど」
「はい」
「無って何?」
「え?」
「無よ無、そんな属性聞いたことが無いのよ。まだ詳しく調べて無いからなのかもしれないけど、少なくとも学園での授業やその他、私が今まで色々見てきた本にも無なんて属性は無いのよ。さっきの戦闘や試験で見た姿を消す魔法もその属性の魔法なの?」
「えーっとそうですね、無属性魔法です。」
「無属性魔法・・・」
レミが考え始めたタイミングでミハエルが話す。
「みなさん、お茶のお代わりは如何かな?」
「頂きます」「ワン」みんな頷く
「ナタリーお茶を頼む」
「はい、ただいまお持ち致します」
俺はクッキーに手を伸ばし、残りのお茶を飲み干す。
「レミは頭が良くてな!それに知りたがりなので、気になった事はついつい色々聞いてしまうんだが彼女に悪意はないんだ!すまんな!はっはっは!」
「ええ、レミちゃんは良い子だから大丈夫ですよ~」
白いローブの女性、エルカがゆったりとした話し方で話す。
「そう言えばセレーナはエルカさんとは知り合いなのか?」
「はい!私の自由試験の試験官の方です!凄く応援して貰ったので頑張れました!」
「セレーナちゃんすご~く頑張ったんですよ~。学園にも行かずにその歳でポーションを作れるって本当に凄いんですよ~」
「エルカさんが試験官で良かったな。セレーナ」
セレーナに笑顔で話しかけた。
「はい!本当に良かったです!」
エルカは終始にこやかな表情だ。
なんだろう、こーゆー子に優しく怒られたい。
雑談をしてるとナタリーがお茶のお代わりを淹れてくれた。
レミはまだ考えてる。
「さて、では私も少しだけ聞きたいのだが良いかな?勿論話したくなければ言わなくて良いぞ!はっはっは!」
ミハエルが話始める。
「ええ、分かりました。どうぞ」
「ソウイチロウ殿の使っている武器なのだが、見せて貰っても良いか?」
「この剣ですか?」
「ふむ・・・そうだな、まず私の使っている剣なのだが」
そう言って片手剣を取り出し、鞘付きのままテーブルに置き、俺の方へと寄せた。
「どうぞ、剣を抜いて見てくれて構わない」
俺は鞘を手に取り静かに剣を抜いた。刃は全て蒼く、刃こぼれの無い綺麗な剣だ。
重量的には俺の剣程ではないが見た目に反して軽く、バランスが良く握り易い剣。素人目だが凄く良い剣だと思う。あと金額もかなり高そう。武器屋に売られてる剣ではないと思うけど。
「その剣は少し良いものでな、アダマンチウムで出来ている。」
「ブルーソードと呼ばれていて、宝級と言う品質の剣です」
ガボットが俺に教えるように補足してくれる。
「そうだ、ガボット殿はご存じですな」
ガボットはこのギルド所属だからミハエルとは顔見知りだよな。
「なるほど、ブルーソード。あの兵器の装甲を貫いてましたね」
「ああ、その切れ味のお陰でソウイチロウ殿に迷惑をかけてしまったのだがな!はっはっは!」
苦笑いしている。
「すいません」
「嫌味じゃないのは分かっているから大丈夫だぞ!」
「このブルーソードでもあの装甲を貫くのは難儀したのだが、ソウイチロウ殿のその剣はあの兵器の足を軽く両断したと聞いた」
「そうですね。折れているのですが切れ味が良い剣なので色々助かっています。」
「なんと!?それはアレを斬った時に折れた訳では無く?」
「はい、あの兵器を斬る前から折れています」
そう言いながら剣を鞘ごとテーブルに置いてミハエルの方に寄せた。
「拝見させて貰って良いか?」
「どうぞ」
ゆっくり剣を抜き、声を出す。
「これは、凄い。神宝級、いや聖剣と言われる類の剣ではないだろうか。折れてるのが不思議としか言いようが無いが、確かにこれは・・・」
ミハエルが剣をみて目を輝かせている。ガボットもこんな目をして剣見ていたのを思い出した。
「えっと、他にも何かありますかね?」
「おっと、すまない、剣をお返しする。貴重な物を見させて頂いた!ありがとう!やはり世界は広いな!はっはっは!」
「えーっとぉ私からも一ついいですか~?」
ゆったりした声でエルカが話し出した。
「はい、どうぞ」
「セレーナちゃんの抱いてる子ってもしかして聖霊ですか~?」
「サンシーカーと呼ばれている聖霊から預かった子です」
「え!?本当!?」
レミが驚く。
「やっぱり~そうなんだ~」
「ええ、この子を他の聖霊に合わせるのも旅の目的の一つですね」
サンシーカーが死んだ事は言うべきか・・・?ん-まだ彼等の素性が分からないから何とも判断できないな。良い人達なのはわかるが、今の時点では黙っておくか。特に聞かれても居ないからな。
「黒い髪、聖剣、聖霊の使者、無属性魔法・・・」
レミが呟く。
「さて次はそちらの番だな!我々に何か聞きたい事があれば聞いてくれ!勿論、答えられない事は答えないが許してくれ!はっはっは!」
「わかりました」
「はい!」
いきなりポプリが手を挙げた。
「ポプリ!?」
セレーナが驚く。
「いいぞ!ポプリ君、なんでも聞いてくれたまえ!」
「ミハエルさん達は何者ですか?」
ド直球だった。
「ギルドの試験官だ!今はギルド長が用事で居ないのでギルド長の代行もやっているぞ!」
「三人でですか?」
質問を続けるポプリ
「私とエルカは彼の補佐よ。ギルドの仕事は彼一人じゃ大変だからね」
レミが答える。
「なるほど、そうなんですね。でも先程は兵士の偉そうな人に命令してましたよね?あれってギルド長の権限なのですか?」
「はっはっは!そうだな!色々と事情があってな!そういう事にしておいて欲しい!」
「なるほど、わかりました!私からは以上です!」
ガボットがホッとした顔をした。彼は何か知ってるのだろう。まぁ兵士に命令出来る時点で国軍の関係者だな。そして彼等よりも階級が上だな。
隠す必要があるのなら詮索はしないでおこう。藪はつつかないに限る。
「他には何かあるかな?」
「二人は何かありますか?」
セレーナとガボットに問いかけてみる。
「いいえ、特にはありません」「私の方も特にありません」
二人がそれぞれが答える。
コンコン
良いタイミングでノックの音が聞こえた。
「シルビアです。兵士長を連れて参りました。」
「レミ、頼む」
「わかりました」
レミが部屋から出て行く。柱の捜索命令を出すのだろう。
1分も経たずに戻って来た。
一息入れ、紅茶を飲み、お菓子をつまむ。この紅茶は冷めても美味しい。
「では私から良いですか?」
「何でも聞いてくれ!」
「トロンの森以外で聖霊様の居る場所を知っていたら教えて頂きたいのですが、どなたかご存じですか?」
本の事も聞きたいが、魔導士のレミが無属性を知らない時点で情報は得られないだろう。なにせ三千年前の本だからな。取り合えずはルブルムナビス王国まで行って自分で探すしかない。
「そうだな、まずは緑の国にケットシーと呼ばれる聖霊が居る。あとは黄の国にはドラゴンが居る。私が知っているのはそれ位だ。レミとエルカはどうだ?」
「そうね、砂漠に聖霊が居ると聞いたことがあるわ。後は南の群島にも聖霊が居たはず。定かではないけど中央大陸にも居るとか聞いたことあるけど、こっちは噂程度だと思っておいて。」
「わたしが知っているのは~ラクシュナと~サクバだったかしら?昔話に出てくる聖霊様よ」
「エルカ、それおとぎ話だから違うと思うわよ」
「え~そうなの~?」
「なるほど、ありがとうございます。どれも有力な情報です」
よし、聖霊様の方は緑の国のケットシーだな。緑の国は魔法産業の国らしいから本も沢山ありそうだし、最低でも1冊位見つかるだろう。
「あと、少し気になった事もあるのですが、そろそろ良い時間ですので、出来ればまた後日お伺いするという事にして頂いても宜しいでしょうか?」
「もうこんな時間か!そうだな!また明日にしよう!」
「そうだ、ソウイチロウ殿!これを持って行ってくれ!同じものを用意出来れば良かったのだが、生憎サイズがこれしか無かったそうだ。因みにナタリーに頼んで買ってきて貰ったのだ!ありがとうナタリー!」
そう言ってフード付きのローブを渡された。
「ナタリーさんミハエルさん、ありがとうございます。」
「いえ、これもお仕事ですから」
笑顔が可愛い。
「礼には及ばん!ではまた明日、都合の良い時間にギルドに来てくれ!」
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更新時間は通常、8時に致します。




