―戦う者―
ここは冒険者が戦ってるのか。
ガボットさん達は来てるのか?彼には村で兵器の詳細は話してるから迂闊な事はしていないはず。
自爆の件も伝わってくれてると良いんだけど。
周りを確認すると結界の外で兵器と対峙してる冒険者が複数人いる。
前衛1と後衛複数。正面で敵の攻撃を捌きながら対峙してるタンクが一人、後ろで魔法使いが魔法で援護しつつその魔法使いを守る盾役が複数。ガボットさん達は見当たらなかったので少しだけ安心する。
正面のタンクが上手いな。ガトリングを後衛側に撃たせないように誘導している。
状況は把握出来たが、残りは後2体。
だけどやはり魔法は効いていない。攻撃を捌くので手一杯か。
その時だった。
「あ、それはダメだ!」
兵器の胴体に剣が刺さっている。あの装甲を貫ける武器を持ってる冒険者が居た。
見覚えがある鎧だった。試験官だったミハエルだ。
ヤバい、自爆される。
ミハエルが剣を深く差し込んだ瞬間、結界が発動した。
くっ!ダメだ!
駆け寄ろうとした瞬間に展開される自爆用結界に焦った時、時間の流れが遅くなった。
思考が加速している。あの時の様にアンダンテのイメージが頭に流れ込んでくる。
他に選択肢など無い。その最適なイメージ通りに動く。
「【シフト】」
そう唱えると
瞬時に俺とミハエルの位置が入れ替わり、俺はそのまま結界内の自爆攻撃に巻き込まれる。
ドゴォォォォォォォォォォン!
凄まじい爆発音と共に地面が揺れ、結界内は激しい炎で真っ赤に燃えている。
やがて少しずつ火が消えていく。
ミハエルは何が起きたか分からずに棒立ちのまま自爆結界を見つめている。
ミハエルの下へ後衛の魔導士が二人駆け寄って来る。
「「ミハエル!大丈夫!?」」
「ああ、私は大丈夫だ!何が起きた!?」
「分からないわ。いきなり敵とミハエルを囲むように結界が張られて、でもミハエルはあの結界の中に居たのにいきなりここに出てきた。どういう事?」
周りの冒険者達も城壁の兵士たちも混乱している。
「見て、結界が消えて行くわ!」
誰かが言った。
結界が無くなり煙が晴れると、そこには一人の男が結界の壁ギリギリの所に膝を着いた状態で防御姿勢のまま硬直していた。全身が黒く焦げている様に見えた。
「ひぃ!黒焦げに・・・」
魔導士が悲鳴を上げる。
「・・・お、おい!生きて・・いる・・か?」
ミハエルが声をかける。
「・・・・・ううぅ、またボロボロだ」
男は姿勢を解いて立ち上がりながら呟く。
「生きてる!大丈夫か!?おい、回復魔法を早く!」
魔導士達に声をかける。
男はミハエル達に向かって大丈夫と手のひらを見せる。
「良かった生きていた。君は・・・!もしかしてソウイチロウか!?」
「はい、先程ぶりです。ミハエルさん」
「怪我は!?大丈夫なのか!?君が助けてくれたんだな?」
「あれ自爆攻撃で、あのままだと危なかったので・・・」
「本当にすまない、あんな攻撃を隠しているとは予想できなかった。迂闊だった」
「いえ、まだあと1機残っています。ちょっと行ってきますので、また後で」
そう言って走り出す。
「おい!君は大丈夫なのか!?」
背中越しに声をかけられる。
「大丈夫です。なんとかなります!他の場所への報告お願いします!」
報告をお願いして最後の1機の方へ走る。
強化をかけ直して、装備を見る。
今回は防具は全部大丈夫だな。グローブが焼けて少し手甲が欠けてるけど問題無い。
残りの予備盾3枚全部持って行かれたが、そのおかげで俺自身の被害も減らせただろう。
後でまた買っておかないとな。ああ、フードマントが炭になってる。結構気に入ってたのに。
そんな事を考えながら取り合えず5機目を視界に捉えた所で、丁度結界が破られていた。
「パ―――――ン!」
勢い良くはじけ飛ぶ音と共に対魔結界が崩れて消えていく。
再度、敵の主砲が放たれ、城壁に当たる。
ドゴォォォォォン!
「ここは足止め出来なかったか」
周囲に倒れた兵士が何人か見えた。
敵が崩れた城壁から街中へと進行しようとしていたので、横から思い切り蹴り飛ばし、壁から遠ざけて足を斬り更に遠くへ投げておく。
「ルーナ!居るか!?」
「ワン!」
後方のルーナが答える。
「他に敵の気配はあるか?」
「ワンワン」
座りながらこっちを見て軽く吠えた。
「よし、大丈夫そうだな」
「こっちにも負傷者が居ます!」
何人か呻いてる兵士が確認出来たので姿を隠したまま叫んでおいた。
「あとは残りの兵器の処分だけだ。急がないと」
先程のアンダンテのイメージの中には動けなくした兵器の処理方法もあった。
それを実践する為、商業ギルドへと走った。
「すいません!誰か居ますか?」
ギルド内は静かだった。
「すいませ-ん!!」
「はい!只今!」
そう言って奥から若い女性が出てきた。
「あ、は、はい、ご、御用は・な、何でしょうか?」
女性は乱れた髪を軽く手で整えてから口を開いた。妙に怯えてるが、非常事態だ。怖いのも無理はない。
「お忙しい所すいません、この港で売ってる船があれば4つ買いたいのですが?小舟でもボロくてもいいです」
「え、えっと、ギルド証は御座いますか?」
「冒険者ギルドには所属しているのですが、ダメですか?」
「ぼ、冒険者の方!?す、すいません、商業ギルドのギルド証が無いと船はお売りできないんです。本当にごめんなさい!」
こめつきバッタの様にペコペコされた。
あーそっかーそうですよねー。
「あの、現在お分かりの通り、非常事態でして、これの解決の為にちょっと力をお借りしたいのです。お忙しい所お手数をおかけして非常に申し訳ないのですが、出来れば上司の方を呼んで来て頂く事は出来ませんか?」
ダメもとでお願いしてみる。
「ええっと、はい、分かりました!少々お待ち下さい!」
言い切る前に奥へと走って行った。
足速いなあの子。世界を狙えるんじゃないか?
1~2分位で奥から商人のテンプレって感じのターバンを被りヒゲを蓄えた男が出てきた。
「あ、コホン!私がギルド長のバルカロでございます」
最初の あ は何だったのか。
「お忙しい所すいません。時間が無いので端的に申し上げますと、現在の緊急事態を収める為に、船が4つ必要なんです。売って頂けませんか?壊れててボロい船でいいんです。」
そう言って有り金全部をカウンターに出した。
「なるほど、壊れててボロい舟・・・ここから逃げる為と言う訳でも無さそうですな」
「逃げる?ああ、そうか、確かにそういう人も居るでしょうね。でも違います」
「冒険者の方とお聞きしましたが、ステータスプレートは御座いますか?良ければご提示頂きたい。名前とレベルだけ表示して頂ければ結構です」
「はい、どうぞご覧下さい!赤の国所属です」
そう言って名前とレベルだけを表示させてプレートを見せる。
「ふむ、確かにこの国の冒険者の方のようですね」
「良いでしょう、船をお売りします。では一緒に港へ行きましょう。」
「ありがとうございます!」
そう言ってギルドを出ると兵士達が大勢待ち構えていた。
指揮官風鎧を着た男が叫ぶ。
「動くな!この辺りは封鎖した!お前に逃げ道は無いぞ!おとなしく投降しろ!」
む?ギルド内に犯罪者でもまぎれていたか?まさかこのギルド長が偽物だった!?
そういって振返りギルド長を見ると、既にギルド長バルカロは兵士の隣で一緒に俺を見ていた。隣には受付の子も居た。
辺りを見渡す。
「・・・・俺?」
そう言って自分を指さした。
「「「お前だ!」」」
複数人に突っ込まれる。
「待ってください!船買いに来ただけで何もしてないんですが?お金も支払ってきましたよ?」
そう言ってバルカロを見る。
バルカロは無言で兵士の後ろからこちらを見ている。
うーん、心当たりがない。ていうか時間もない。どうした物か。腕を組みながら考える。
①説得する この状況で?無理無理。みなさん絶対話聞かないマンになってるもん。超アウェイ状態で説得とか無理。みんな刃物構えてるし目つきが怖い。人に恨まれるような事してないのに。
②全員ぶちのめす? 余計に事態が悪化するし船買う所じゃなくなる。トラブルダメ、絶対。
③街から逃げる? うーん、処理作業が進まない。船買えない、ダメ。
④投降する? バッドエンドしか見えない。却下。
ダメだ、どうしようもない・・・
仕方ないこうなったらプランBだ。
コイツらを撒いてから港で適当な小船4隻奪って処理しにいく。
金は支払ってある。そうだ、小舟4隻ならお釣りがくる位のお金は払ってある。バルカロも「船をお売りします。」と言った。民法上の売買契約は成立している。盗む訳じゃない。
問題は船が見つかるかだけになった。
「よし、殆ど問題が無くなったぞ!」
「おい!何をブツブツ言っている!。な!姿が消えたぞ!どこへ行った!探せ!探し出せ!見つけ次第殺して構わん!探し出せ!」
指揮官風の男がすぐに命令を出す。
見つけ次第殺せとか物騒だなおい。こっちは身に覚えがないぞ。冤罪だぞ。訴えてやる。弁護士を呼べ。
取り合えず迷彩をかけただけでその場から動かずに人が減るのを待った。
すぐに兵士が居なくなったので走って港へ向かい、船を探した。
「うーん、流石にぼろい船は停泊場所には無いか。まあいいや、人が乗っていないのが分かる小舟はあるからそれを貰おう。」
港を走りながら目ぼしい小船を沖へ4隻ぶん投げる。
「距離と位置も大丈夫だな。これでよし。さて急ごう」
そのまま北門へと走る。
蹴とばした兵器はまだその場から動かずに居た。周りを兵士が囲んでいるが、爆発するかもと警告した甲斐があったのか自爆結界範囲までには寄っていない。
「よーし、パパの言いつけを守っているな。良い子達だ。それじゃあ始めるか。」
「【シフト】」
魔法を唱えると兵器が消え、その場所に小舟が現れる。
「なんだ!?船に化けたぞ!?一旦離れろ!」
「おー良い判断だな、普通の小舟に変わっただけだから意味は無いが」
ルーナが一瞬ビクっとした。沖の方で爆発音が聞こえた気がした。
「よし、時間がない。次行くぞ」
「ワン」
ここまでルーナには迷彩をかけたままおとなしくしていて貰った。
「可愛い子には楽をさせろ」という諺がある。今作った。これでいいのだ。
北門から時計回りに南下していく。
そうして2体目の場所でも同じように兵士が取り囲んでいた。
「【シフト】」
兵器と船の位置が変わる。遠くで爆発音が響いた気がした。ルーナの耳もピクっとしていた。
「よし、成功!次いくぞ!」
「ワン!」
東門の兵器を探すとクレーターが見つかった。爆発した後だった。
「自爆したのか・・・巻き込まれた人は居るのか?」
周りを見渡すが兵士は数人。様子は落ち着いている。
「誰も巻き込まれていないと良いんだが」
「次で最後だ。行こう」
「ワン」
城壁の壊れた部分に兵士が集まっている。
兵器の方も遠巻きに囲まれているが、近くには寄っていない。
自爆される前に処理しよう。
「【シフト】」
沖の小舟と入れ替わる。その後ルーナの耳がピクっとする。
「これで終わったか。ルーナ周りに敵は居るか?」
ルーナは匂いを嗅ぐ仕草をしながら周りを見た。
「ワン」
座って俺を見ている。可愛い。可愛すぎる。写真集を自費出版したい。よし、魔石を売ってこよう。
・・・・・違うそうじゃない。他に敵は居ないようだ。
「一度冒険者ギルドに戻ろう。」
「ワン!」
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更新時間は通常、8時か18時としています。




