―森の聖霊―
「・・・・お前はさっきのアレか?・・・何で・・・生きてる?」
再度混乱しながら精一杯な感じでそう聞いた。
「はい、私はこの森を守る聖霊「サンシーカー」と呼ばれていました」
「名前はサンシーカー?そして過去形・・・」
「はい、先程、私の体は朽ちました」
「森を守る聖霊?今は魂的な存在なん・・ですか?」
「はい、そうです。意識だけの存在です、あまり時間は残されて居ませんが、貴方に迷惑をかけてしまったお詫びと、最後にふたつ、お願いを伝えたくて、残された力で少しの時間留まっています」
「・・・・・・なるほど、わからん。分からない事だらけでどうしようもない。色々聞きたいんだがどれ位時間ある?あと、お願いって何?情報量多すぎて混乱しっぱなしの上にお願いまでされるとか、もう何をどうしたら良いのか分からないんですが?」
「本当に申し訳なく思っています。出来れば全ての問いにお答えしたいのですが、留まれる時間は多くありません。ですが時間の許す限り貴方の問いに答えたいので、ひとまずはコレを貴方にお渡しします」
そう言うとサンシーカーの中から光る物が浮き出て、男の前に来た。
「それは貴方に害を成すものではありませんので手に取って下さい」
「あーもうなんでもいいや」
既に考えるのを止め言われるままにその光に手を触れた。
「ん!!!」
その瞬間、光に包まれ瞬きが終わる頃には白く何もない空間に居た。
目の前にはサンシーカーも居る。
「ここは少しだけ時間の流れが緩やかな場所です。ここでなら少しは多く貴方の問いに答えられるでしょう」
精神と時の部屋みたいな感じだな。勿論行った事は無いけど。
・・・よし、少しだけ落ち着いてきたな。
「あー・・取り合えず聞きたいのは、ここは日本の何処?」
「はい、ここは日本という場所ではありません。そして日本という地名もこの世界にはありません。」
「えーっと、ん-とこれは夢かな?」
もう精一杯である。
「いいえ、残念ながら夢ではありません。そうですね、貴方様を更に混乱させないよう少し時間を置きたいのですが、この場所でもそこまで待つ事が難しい状況ですので、少しだけ貴方の記憶を見させて頂いても宜しいでしょうか?」
「あー日本じゃないって言われて何となく分かって来たけど、しっかり理解したいのでそれで良いです。」
「はい、ありがとうございます。それでは目を閉じて下さい」
サンシーカーの額が俺の額に合わさると、心地よい風が流れた気がした。
「なんか暖かいな・・」
まだ分からない事だらけで頭の中はスッキリしないが、取り合えず気分は落ち着いたな。
額が離れサンシーカーが口を開く。
「音無惣一郎様」
「俺の名前ですね」
「はい、先程申し上げました通り、少しだけ記憶を拝見させて頂きました」
「それでどんな感じですか?」
「はい、まず、ここは貴方の居た地球ではありません。他の惑星という事になります。」
「・・・なるほど、続けて下さい」
「はい、そしてこれは夢ではなく、現実です。貴方は一度死に、ここへ転生しました。理由についてはわかりません。記憶には無かったものですから」
「・・あくまでも俺の記憶とのすり合わせなんですね」
「はい、そうなります」
「わかりました、続けて下さい」
「はい、この惑星の名前はわかりませんが、ここはアストラ大陸と呼ばれていて、今いるこの森はトロンの森、この森がある国名はルブルムナビス王国と言います。」
「アストラ大陸にルブルムナビス王国・・・トロンの森。なるほど、これが今流行りの異世界転生ってやつか」
冗談交じりにそう言った。
「はい、そうなります。地球という星は面白いですね」
本当に異世界転生だったのね。
なぜ俺なのか腑に落ちないが、とりあえず腑に落ちたわ。
「そうですね、まあ寝起きに近い状況でゾンビに追い掛け回されるこの世界もなかなか面白くは有りますが・・」
「はい、申し訳ありません。意識が朦朧としている中で出会ってしまい、あのままでは魔獣となって暴れるのも時間の問題でしたので、何とか私自身を止めて頂きたくて、必死になっていたものですから」
「あー、すいません、嫌味を言い過ぎました」
「いいえ、お気になさらずに。こちらこそ呼びかけに応じて願いを聞き入れて頂き、真にありがとうございました。」
「所で今もこうして頭の中とで会話?しているようなものですが、この世界ではこれが普通とか無いですよね?」
「はい、違います。この世界では私のような聖霊や貴方の世界で言う所の妖精や精霊や龍といった存在でなければ念話は出来ません。一部の魔法を使って同じような事は出来ますが」
「あ!やっぱり魔法あるんですね!?」
「はい、貴方も先程魔法を覚えています」
「・・・えーっと多分あの本の事ですかね?」
「そうです、それとその剣も魔法で作られています」
「・・・この剣は魔法で作られてるのか」
剣の方を見る
「はい、その剣は強い浄化の魔法で作られた属性剣です。見た所、意図的に折られているようですが、性能には変わりありません」
「意図的に?・・・浄化属性か、それで聖霊さんのあの肉体を浄化したんですね。」
「はい、魂も一緒に」
「・・・・・取り合えず自分の現状は理解できました。ありがとうございました。最後にもう一つ聞きたいのですが、まだ時間大丈夫ですか?」
「もう少しですが大丈夫です」
「ありがとうございます、聞きたいのは、私はこれからどうしたら良いですかね?って事です」
「はい・・・そうですね、この世界に転生された理由については分からないのですが、何かの因果がある事は確かでしょう」
「・・・んー因果かぁ・・・まぁそういうことなんだろうなぁ」
「その事も含め、改めて音無惣一郎様にふたつお願いが御座います」
「・・・あー最初に言われていたお願いですね。・・・良いですよ、私で出来る事なら何でもしますよ。もう異世界転生とか乗りかかった船っていうか、自分の意思で下船出来ないだろうし、聖霊様にも結果的には親切にして貰いましたし、この世界で初めて出来た知り合いですからね。」
「ありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しい反面、申し訳なくも思いますが、残された時間も僅かになって来ましたので、端的に申し上げますと、お願いというのは私の代わりに私の子を育てて欲しいという事です」
「・・・・・聖霊様は子供が居たのか・・・・」
「はい、私たちの種族はシーカーウルフと言います。そして我が子の名前はルーナと言います」
あ、ウルフか。やっぱり狼だったんだ。まあ犬にしては口がデカいし、見た目まんま狼だからそうかなと思ってたけど、あの時はここが日本だと思ってたから犬かと思ってたわ。なんにせよベェオハザード的な展開じゃなくて良かったわ。そう思いながら答えた。
「わかりました、ですが結果的に親である聖霊様を葬ってしまったのは私ですから、その子にとって私は仇ですが、その子が良いと言うのであれば、お子様は責任をもって育てます」
「ありがとうございます。その事ならもう大丈夫ですので安心して下さい。そしてもう一つの願いですが、私の聖霊石をトロン村へ運んで頂きたいのです」
「聖霊石?」
「はい、私の体が朽ちた場所に、地球で言う所の水晶に似た石があります。それがこの世界で聖霊石と呼ばれるものです。それをこの近くにあるトロン村へと届けて欲しいのです。」
「・・・なるほど、トロンの森の聖霊様の聖霊石だから、トロン村にご神体として納めて欲しいって所ですかね?」
「はい、概ね合っています」
「そして、トロン村に行けば自ずと進むべき道も開かれるでしょう。」
「さて、名残惜しいですがそろそろ行かねばなりません」
「そうですか、つかの間とは言え、この世界で初めて出来た知り合いと別れなければならないのは寂しいですね・・・」
「はい、ですが音無様とはまたいつか会えるかもしれません」
「そうなんですか?」
「いえ、なんとなくそんな気がするだけです」
優しい声だった。
「なるほど、では次は脅かさないで下さいね」
彼女なりの気を使った冗談だと分かった。
「ふふ、わかりました、それでは音無惣一郎様、後の事を宜しくお願い致します。」
「ええ、安心して下さい、約束は守ります」
気が付くと目の前には景色があった。
そして足元には綺麗な大きいクリスタルと、それに寄り添う小さい狼の子供が居た。
スロースタートですが宜しくお願いします。