―一時帰還・サイレントソウル城②―
「ミハエル様、城主が戻られました」
「おお、戻ったか。待っていたぞ!」
「ただいま、ミハエル。すまないが今回は一時帰還なのでまた留守を頼むことになる」
「そうか! まあ良いぞ! こちらもまだやり残してる事があるので問題ない! 取りあえずラウンジでお茶でも飲みながら話そう。ラルフ、お茶の準備を頼むぞ! はっはっは!」
ミハエルは相変わらずのテンションでハキハキと答える。執務室からラウンジへと移動してそこでゆったり寛ぎながら現状報告をする事とした。
「城内の改装も殆ど終わったぞ! 転移陣とワイバーン達のおかげで職人も資材もすぐに届く! 便利な物だ!」
「それは良かった。このラウンジも伝えたイメージ通りで満足しています。ありがとうございます」
「はっはっは! こういった開放的な空間も良いものだ! 私も勉強になった! 今後の参考にさせて貰う」
「ええ、来客の際には飲み物や軽食等を提供してお待ち頂く場所を作りたかったんですよね。石壁を何枚かぶち抜くので強度的にどうかなと気になりましたが、柱と梁を追加する事で強度的には問題無さそうだったので良かったです」
「バーカウンター等の造作も見事な物に仕上がっていますね。これなら皆さんに満足頂けるかと思いますが、ミハエル的には如何ですか?」
「ああ、私はこういった作りは好みだぞ! ギルドのバーカウンターよりも高級感があるし、これに文句をつける御人がいるのなら追い返してしまえば良い! あっはっはっは!」
「それは良いですね! 追い返しましょう! はっはっは!」
そんなくだらない話を挟みながらミハエルからの現状報告を聞いた。
まずは現在の財政状況だが、思いのほか悪くないとの事だった。というのもワイバーンの輸送部隊が昼夜を問わずに活躍しているおかげで結構稼いでいるらしい。
ワイバーン達は荷物を運んだ後、料金の回収までするというのだから恐れ入った。話が通じる方のワイバーンおそるべし。ちなみに支払いを渋る素振りでも見せようものならその場で軽く暴れるといったパフォーマンスを見せるので回収率は100%らしい。頼もしい限りだ。
空輸にあたってワイバーン達の空輸装備を作るのに、王都から鍛冶師を何人か派遣してもらい、同時にこちらでも鍛冶師見習い等を雇い、城下町にもまた少し活気が戻ったとの事だった。
肝心の鍛冶師だが、ガボットの兄弟子の教え子が二人派遣され、そのままここの街で専属として働く事となったみたいで、本人たちは念願の自分の工房を持てたという事で頑張って働いていると。
「それと、現状クロイツェルと元々のここの領土のみだった空輸の範囲を拡大出来る事になったぞ! 隣の大国はまだだが、試験的にコルグまでの間で取引が出来るようになった! 今は空輸の為の荷下ろし場を整備している所で稼働までは少し先だがな! それに伴って今は空輸業務を商業ギルドに一任している。城下に新しく出来た臨時のギルド長代理としてバルカロの息子が赴任しているぞ! 彼は父親より優秀だと言う話だが、私もそう思う! 販路拡大は彼の功績だ! はっはっは! 恐らくはそのままここの商業ギルド長に任命されるだろう。城主の帰還を通達する様に言ってあるので後ほど鍛冶師と一緒に挨拶に来ると思うぞ!」
「なるほど、範囲拡大ですか。それは色々楽しみですね。ご尽力感謝致します」
ミハエルは彼の功績と言うが、恐らくはミハエルも裏で動いていただろう。
「それと、この城で療養して貰っていたご婦人方だが、今は皆、農場の方で元気に働いて頂いているぞ」
「そうですか。それは良かったです。安心しました」
何とか全員立ち直って自分の人生を歩き出して貰えた様子で、隣で話を聞いていた女性陣も全員安堵の表情を浮かべていた。また一緒に食事を出来る機会を設けたいと提案しておいた。
「その農場の方だがそちらも順調に育ち、成長が速い物は既に収穫も出来ている。今は更に畑を増やして増収を計画している所だ。ワイバーン達が群れで周辺の魔物を狩っているお陰で警護の冒険者達は暇そうにしているから畑仕事を手伝わせている! はっはっは!」
「あー、そうなりますよね。ワイバーンがかなり増えてるみたいなので、繁殖を止めるようにしておきますね」
そう言ってスミレに目配せをすると彼女はコクンと頷いてくれた。
経済活動もそうだけど需要と供給のバランスを取らないといけないし、放置して置いたらこの辺り一帯の生態系も乱れるし、餌代で稼ぎを食いつぶされてしまうのを避けねばならない。多分だが今位の頭数が丁度良いのではないかと思う。とは言っても現状で何頭いるのか把握出来ていないが・・・・・・。
「時にオトナシ殿、以前言っていたロリポリの件はどうなった?」
「あ! 完全に忘れてた! 次戻る時には必ず持って帰ってきます!」
(うーんミスリルに浮かれて完全に忘れていた。ガボットさんに頼んだ試作品の方も聞くのを忘れてたし、イカンイカン)
「はっはっは! ならば仕方ないな! 一応飼育場所等は確保してあるのでそれは次の機会にするとしよう!」
「申し訳ない」
「気にするな! こちらは待つだけで大したことはしていない! はっはっは! しかし旅の途中で色々と新しい物を思いついてその場で提案を書けるのは素晴らしい才能だな! 私も見習わなければ!」
「いやあ、ミハエルの政の才能に比べれば大した事は無いですよ。本当に助かっています」
「はっはっは! これは昔からの習慣みたいなものだ! テーブルマナーと同じだ。造作ないぞ!」
「テーブルマナーか・・・・・・オレは苦手なんだよなアレ」
ダリアがボソッと呟いた。
「はっはっは! ダリア君、確かに堅苦しい作法かもしれないが、慣れてしまえばどうという事は無いぞ! それにマナーと言っても完璧に熟す必要は無い! 武芸の基本動作のように手順だけ覚えれば勝手に反応してくれるようになる! ダガーを研ぐのと似たようなものだ!」
「うーん、そうか。なるほどね」
ミハエルの大声にちょっと驚きながらも、何か通じるものがあったのかダリアは納得した様子を見せる。
「こちらの現状報告はこんなものだ」
「わかりました。それではこちらの報告を致します」
「まずは緑の国の大森林にて敵と遭遇し攻撃を受けました。一人はキュリアンというネクロマンサーで、こちらとは大森林へ入る前と合わせて二度ほど戦闘をしました。そしてもう一人は大森林にてキュリアンと同時に戦闘となりましたがその場には居らず正体や能力は不明です。が、この世界では見ない魔物をけしかけられましたので恐らくは召喚士の類かと思います。ゴーレムと関係あるかもしれません」
「なるほど。敵との戦闘か。見慣れない魔物というのが気になるが後にしよう」
「はい。二つ目は手紙でも書いた通り、トロン村への転移陣の設置が終わりました。城へは村の転移陣から戻りました」
「うむ、了解した。転移陣が増えて来たので、警護と伝令の数を増やすように手配しておいた。現状の対応としてはこれ位だな」
「ありがとうございます。そして最後になりますがサイレントソウルの旗が完成しましたので受け取って来ました。簡単ですがこちらの報告は以上となります」
「そうか、ついにエンブレムが出来上がったのだな! はっはっは! よし、城主殿まずはそれを拝見させてはくれまいか?」
「勿論です。準備をお願いします」
ラルフを通して衛兵達に旗竿を用意させて旗を広げ、鑑賞する。
「これは見事な紋章だ! さっそく掲揚式をせねばなるまいな! 各国へ招待状を送り、大々的にやろうではないか! はっはっ――」
「そんな無駄遣いはダメですよ。ミハエル。アナタは少し目を話すとすぐに調子に乗るんだから」
彼の笑いを遮るように女性が話に割って入って来た。
「レミさん。お久しぶりですね。ギルドからいらしたんですか?」
「お久しぶりです。オトナシ伯爵様。その節は色々とご尽力頂きありがとうございました。ギルドの方は新しい秘書の方に任せ、今はミハエルの補佐に戻っていますよ」
レミは少し前からこの城でミハエルの補佐役に戻っていたらしい。ミハエルはその報告を惣一郎にしていなかったのを察知したレミは軽くミハエルを睨んだ。
「おお! 戻ったかレミ! ご苦労だった! そこへ座って寛いでくれ! お前の好きなクッキーもあるぞ!」
レミの視線から何かを察知したのか彼女を持て成すミハエル。
(なんかわからんがミハエルが慌ててる? 珍しい物を見れたな)
「掲揚式の手配は私が行いますので、この件に関してはミハエルはおとなしくしててくださいね」
「そうか! わかった! 頼んだぞレミ! はっはっは!」
掲揚式についてはレミが仕切ってくれるみたいで一安心だ。
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