―トロン村・帰郷②―
「じゃ~ん!」
「ワォォォン!」
「「「おお!」」」
「良いではないか」
「セレーナ殿、似合っておりますぞ」
「えへへ。みなさんありがとうございます!」
セレーナはお礼を述べ、少し恥ずかしそうに自分の頬に手を当てた。
肝心の防具のデザインだが、みた事があるような衣装だった。
「これは・・・・・・どこかでみたような気が」
「スミレ様にもご協力頂いて、ソウイチロウ様の故郷の方で人気の衣装を真似て作って頂きました!」
「うんうん」
スミレの方を見ると腕を組んで頷いている。
「なあスミレ、これってゲームの衣装だよな?」
「ああ、そうだ。格闘家といえばこのような感じだろう? 確かモンクと言ったか」
セレーナの装備は胸当て、肩当て、手甲、膝当て、脛当て ブーツと言ったパーツに分かれていて、防具の下地となる衣服だが上はアジア系のデザインでチャイナドレス風だがそれよりはアオザイに近い。下はハーフパンツタイプのズボンで裾を絞ってある。ハーフパンツに合わせて前垂れもひざ丈になっていた。
もちろん各部防具と布地部分全てミスリル製となっている。
「今回は色を付ける所までは行かなかったけど、予備の物を作る際にはもう少し可愛く装飾するからね!」
「ポプリ、ありがとう!」
「それとこいつが新しい武器だ。見た目も仕様も以前の物と同じにしてある」
ガボットは彼女が一番こだわっていた仕様を再現したミスリル製ナックルをセレーナに渡した。
「あ! ガボットさんありがとうございます! うんうん! 前のと同じですね!」
ガボットから渡された新武器を装着すると嬉しそうな表情で小走りで開けた場所に行き素振りを始める。
「すべてが軽いです! 何も着てないようでフワフワしていて慣れるのに時間がかかるかも!」
ミスリルの特徴は質量と比例しない軽さと、硬さである。
羽根のように軽いのに鉄や黒鉄以上に硬く、それに加えて魔法との相性が良く魔力を込めた攻撃の威力を高めてくれるというチート素材だ。
硬さだけで言えばアダマンチウムの方が硬い。強度があるので質量を少なく出来る分多少の軽量化は出来るがそれでも重量においてはミスリルには遠く及ばない。
素早さと攻撃力を同時に備える事の出来るミスリルはエルフは勿論、冒険者にとっても憧れの装備であることは言わずもがなである。
「ミスリル布なんて初めて見たぜ。薄いのに硬い・・・・・・どうなってなってんだコレ」
「セレーナちゃん良く似合ってて可愛いですね」
女子ーズはセレーナの周りに集まってワキャワキャしているが、今回の用事はそれだけでは無くメインディッシュは別にあるのでそちらの話を進めるべく、ガボットに問い合わせた。
「ガボットさん、いつも以上に素敵な装備をありがとうございます。それではもう一つの方もご準備お願い致します」
「畏まりました」
ガボットは神妙な面持ちで一言だけ告げ、準備の為に旧工房の方へと入っていくのを見届けてから、二回ほど手を叩いて女子ーズの意識をこちらに呼び戻す。
「はーい、これから本題に入りますよ~。大事な事がありますので皆さん集まって下さいね~」
「「「「「はーい!」」」」」
パーティーメンバーに加えてポプリやキャロルまで加わって姦しい+2と言った所か。スミレは相変わらずのマイペースだが、その表情は柔らかいので何も問題は無い。
全員集まるとタイミングよくガボットが両手に大きな荷物を抱えてやってくる。ガボットの前には村長が居る。
「お待たせ居たしました。こちらがご注文頂きました御品に御座います。ホルン村、トロン村を代表してご挨拶申し上げます」
跪き畏まった雰囲気でそう告げるストラル村長。隣には同じように地面に膝を着いたガボットが両手で品を差し出して受け取られるのを待っている。
「うむ、ご苦労であった」
そう言いながら前に出てガボットから品物を受け取ったのはスミレだった。俺よりもそれらしい振る舞いの出来る女性。素敵だ。
ガボットから受け取ったのは折り畳まれた布だった。
スミレはセレーナ、ダリア、メリッサを呼んで4人で受け取った物を広げる。
「地には付けるなよ」
「「「はい!」」」
全員が真剣な様子で折り畳まれた赤い布地を広げていくと、そこには模様が刺繍されていた。
大きな盾の中で右を向く狼と左を向く龍が描かれている。盾の周囲にはバランスよく蔦のような模様が入っている。
赤い布地に緑の細い蔦。黒い盾の中に白い狼と龍。
「これが俺達の旗だ」
「おお! 素晴らしい!」
立ち会っていた唯一の観客であるキャロルが拍手をしながら称えてくれた。
その拍手を聞いて工房で働いていた村人達も拍手と歓声を上げる。
「これが私達の・・・・・・」
「素晴らしい旗です・・・・・・」
「おお・・・・・・」
賑やか3人娘たちが珍しく言葉を失っていた。
「オホン! 今さらになってしまうんだが、3人には今までのようなパーティーメンバーではなく、正式にサイレントソウル城の一員となって欲しいと考えて居るんだけど、どうかな? もちろんそれぞれ事情があるだろうから返事は今すぐでなくて構わな――」
「「「はい! 喜んで!」」」
「ワォォォォォン!」
惣一郎が言い終わる前に揃って返事を返す3人と少し遅れて1人。
「お、おお。ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ」
「惣一郎、嬉しい時は素直に喜んだらどうだ? 誰も気にはせぬぞ」
「スミレ。お前・・・・・・」
「一本取られましたな、オトナシ様」
ガボットがニヤリとしながら俺にちょっかいをかけてきた。
「ルーナ! セレーナ! メリッサ! ダリア! ありがとう! これからもよろしく!」
「「「こちらこそよろしくお願い致します!!」」」
「ワン!」
こうして正式に城の一員として新たに4人を迎えた。
「それではこちらもお渡しいたします」
ガボットが従業員から再度折り畳まれた布を受け取ると、それを一人一人に手渡した。
「これも新しく作ったうちの家紋入りのお揃いの外套だ」
緑ずきんがバージョンアップして外套になった。緑色が少し深くなり旗印が背中と胸に刺繍され丈が変わった。
「防水防塵加工もバッチリでございます」
「あとで防毒も加えておこう」
ガボットの追加説明にスミレが続く。
「みんなお揃いですね!」
「ワン!」
「ルーナ様の外套も良く出来てるな! ルーナ様カッコいいぜ!」
「ルーナ様、似合っていますよ! 可愛いです!」
「ワォォォン!」
ダリアとメリッサに褒められて嬉しそうなルーナが二人の頬を舐め回すと彼女達は変な奇声を上げて悶えていた。
「どあぁっ!?」
「あふんっ!?」
「ふう、あとはこれを城へ持って帰って掲揚式か。手配をミハエルに頼んでも良いのだろうか」
「お主にはまだ難しいだろう。出来る者に任せたら良い」
スミレは惣一郎の心配を察して彼をフォローする。
「ありがとう。そう言って貰えると気分的に助かるよ。自分の城の掲揚式は何度もする事はないだろうけど、城の主として出来る事は習ってみるよ」
なんでもミハエルに任せてしまっているのも気にはなっているがこの身は一つしかない訳で、それでもやる事が山積みになっていて、あっちもこっちも本当に忙しい。これが充実と言うのであれば日本に居た頃よりも充実しているのは確かだ。
「オトナシ様、例の場所ご用意出来ておりますがこれから往かれますか?」
「はい、案内お願い致します」
「畏まりました。ご案内致します」
丁寧に旗を折り畳み、再度工房に預けてから村長の案内で村の外れに案内される。
村の外れと言ってもこの森全体が村の管理地なので、住居の建っている村の端の森を少し切り崩した場所を新たに整地した所の事である。
「ここに転移陣を作るんですね!」
「ワン!」
メンバーを含め、村長とも話し合ってトロン村にも新たに転移陣を作る事に決めていて、旗と同時期に依頼していた場所の確保と施設の建設が終わったとの報告も受けていたのだった。
「オトナシ様のワイバーン達が石材を運んでくれたおかげで資材の確保も手間がかからず納期を守る事が出来ました。ありがとうございました」
「建材には頑丈な石を使いたかったのですが、流石にここでは木材以外の手配が難しいですからね」
「いやはや、面目ない次第で御座います」
「いえいえ、一度に何度も無理をお願いしているのですから、これ位はこちらで手配させて頂きますよ。アイツ等にもタダメシ食わせる訳にもいかないんで働いて貰わないとですからね」
ワイバーンも住環境が良いのか数が多くなってきて、暇にさせている時間が増えて来た個体を利用して航空輸送部隊を作っていた。今の所は事情を知っているここの村二つとクロイツェル位しか行き来させて居ないが、そのうち王都や他の街々にも手配出来たら収入源として役に立つかもしれないと思っている。
「それにしてもかなり立派な建物が出来上がりましたね」
「はい、息子のフーガが若い頃に王都で建築を学んで居まして、今回は多忙なガボットの代わりとして扱き使って設計させましたが気に入って頂けましたでしょうか?」
「もちろんです。王都にある建物のように立派な仕上げにして頂いて目を見張りましたよ。村人以外に使う訳にはいきませんが、村の名所として見る価値は十分にあると思います」
「ありがとうございます。息子にもその様に伝えさせて頂きます」
肝心のフーガは本当にこき使われたみたいで予定通り完成した安心感からか今は熱を出して寝込んでいるらしく、妻のリチェルもその看病に追われているとの事だったので、安静にしていて欲しいと伝えており、この場には呼んでいない。あとでお見舞いにアイスを持って行こうと思う。
「お父様ったら本当にだらしのない様子で情けないです」
「クゥゥン」
「はは。こんなに立派な建物が出来上がったんだからそう言ってあげるなよセレーナ。いくら勉強したとはいえ、大人ってのは色々考えちゃうから結構重圧があったりするものなんだよ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなんだ。男ってのは特にな」
「わかりました。ソウイチロウ様がそう仰って下さるならお父様は頑張ったんですね」
セレーナが納得してくれたようで何よりだった。実際に村への訪問者は増えている様で、ローランドや周辺の村からも祠へ巡礼に来る旅人も居るし、宣伝のおかげか商人から馬車の懸架装置の受注もそこそこあるらしい。転移陣の準備をしながらその辺りの話も聞いていた。
「よし、あとはスミレに仕上げて貰うだけだな」
「ふむ、任せておけ」
スミレに魔力を注いでもらいトロン村の転移陣を完成させる。
「よし、これで完成だ。使い方は後程お教え致しますので、ひと先ず休憩しましょう」
「はい、それでは屋敷の方へゆきましょう」
一同は村長の屋敷で休憩を取りながら談話し、俺はその間に村長と数名の村役人へ転移陣の使用方法を伝えた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今年も残す所、数日ですね。
年末年始とバタバタしており、今年は恐らく最後の更新となりますが来年も頑張って投稿したいと思います。
いつも読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
誤字報告なども頂ければ幸いです。
来年も頑張りますので宜しくお願いします!
それでは皆様、来年も良いお年をお過ごし下さいませ!