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―トロン村・帰郷―

 セレーナとルーナに起こされて遅い朝食を頂いてからトロン村へと向かった。

 かなり急いだ事もあり、トロン村へは半日もかからずに到着すると守衛と挨拶を交わす。


「オトナシ様!?」

「やあ、お久しぶりです。皆さんお変わりないですか?」


「はい! 異常は御座いません! あ、サンシーカー様の祠に巡礼にエルフの方がいらっしゃいました。出来たばかりなのにもう緑の国にまで知れ渡っているんですね。いやはや、凄い事です。ちなみにその御方は今もまだ滞在中です」


「キャロルさんですね。ローランドの守衛さんやホルン村に寄った際にその旨お聞きしております」


 キャロルはまだ滞在中だった。俺が言うのも何だがこんな田舎の村に数日間滞在できるとは、彼女はこの村に魅力を感じたのだろうか。それともこの世界の旅行者の感覚ならそれ位は普通なのだろうか。取り合えず今回の目的を果たす為、守衛に開けて貰った門をくぐり村の中へと入った。


「ソウイチロウ様!」


「うん、大丈夫だよ」


「ルーナ様! 行きますよ!」

「ワン!」


 中へ入るとセレーナが許可を求めて来たので返事をすると、野生児二人が笑顔で村の中へと走って行った。


「二人は私が案内しますね」

 ダリアとメリッサはトロン村は初めてなので、ガボットの工房へ向かいながら村の中を案内した。


「あ! オトナシ様も来た!」

 村の子供が惣一郎を見つけて声を出す。先程走って行った二人を先に見つけ周りの子達と一緒に家に大人達を呼びに行く途中だったのだろう。


「久しぶりだね。少しの間だけど戻って来たよ。これからガボットさんのお店に行くからまたね」


 行先を告げて子供達と別れた。


「ここがガボットさんのお店か。いつものお礼を言わなきゃな」

「面識無いのに私達の装備のメンテナンスまでして貰ってるからね。ポプリちゃんにも挨拶しないとね!」


 ガボットの店の前でダリアとメリッサが少し緊張している。


「では入りましょう」


 ガチャ。

 ドアを開けて店の主人を訪ねる。


「こんばんはー。ガボットさん居ますかー?」


「ハーイ! いまいきまーす!」


 店の中からポプリだと思われる元気の良い女性の声が聞こえて来た。


「あっ!? お、おおおおオトナひ様! お、おおおおお帰りなさぴ!」


「ただいま。ポプリちゃん」


 驚いて噛みまくってるポプリの表情が驚きから喜びから困惑から様々な表情に切り替わる。


「今、お父さん呼んできます!」


「はい、お願いします」


 言葉を言い切る前にポプリは店の奥へと走って行った。


「あの子がポプリちゃんです」


 先にダリアとメリッサに彼女を紹介しておいた。


「お、おう、元気な子だな」

「うふふ、かなり驚いてましたね」


「オトナシ様! お久しぶりで御座います!」


 ポプリの話題で少し盛り上がっていると、ガボットが家の中を走ってこっちへ向かって来た。


「ガボットさん、お久しぶりです。ご連絡せずにスイマセン」


「いえいえ! とんでもありません。例のモノ出来上がっております。新しい工房の方も出来上がりましたので、奥へいらして下さいませ。ミスリルの装備も途中まで出来上がっていますのでそちらも合わせてご覧下さい」


「はい、ありがとうございます。先に仲間を紹介させて頂いても良いですか?」


「はっ! これは大変失礼致しました! 私、ここの工房の店主をしております。ガボット・バッチオと申します。宜しくお願い致します」


「ガボットさん、こちらがダリアで、こちらがメリッサです」


「ダリアです! いつも装備を直して頂いてありがとうございます!」

「メリッサです! 同じくいつも装備の点検をして頂いてありがとうございます!」


「おお、初めまして! 貴女がダリア様で、貴女がメリッサ様ですね! こちらこそお世話になっております。まさかこんなに多くの神宝を見る事が出来るとは思いもしませんで、皆様には本当に娘共々鍛冶師としてとても貴重な体験をさせて頂きありがとうございます! これからも宜しくお願い致します」


「「こちらこそよろしくお願い致します!」」


「三人共、宜しくお願いしますね。それではガボットさん、新しい工房へご案内お願いします」


 紹介を済ませてからガボットの案内で裏庭の先にある新工房へと向かう。

 新工房は魔工炉を備えた工房で、今の所、その建設費用から運営費用は私が全部出している。とは言え、この間ミスリルの素材が手に入ったばかりなので現在まで魔工炉の稼働率は極めて低い。


 国力の強化に努めたいのでもう少しミスリルやアダマンチウムといった良い材料が欲しいが、こればかりは仕方ない。新しく交易の始まったクロイツェルの鉱物資源に期待するしかない。


 工房の前まで到着するとガボットが工房の紹介を始める。

「こちらがオトナシ様のご協力を頂いて建造された工房になります」


「これが新しい工房ですか。スチームパンク的な装置がカッコいいな」

「すげえな。大きな工房自体を見る事って殆ど無いから気の利いた事言えねえや」

「大きいですね。私も工房は見た事が無いのでスイマセン」

「ほう、中々だ。大きな街の工房にも負けない位の立派なモノだと思うぞ」


 外で感想を言い合っていると後ろからルーナとセレーナがやってきた。


「ワン!」

「皆さんこちらにいらしたんですね!」


「二人共何処から出て来てるんだ?」


「お店の横にあった通路から来ました!」

「ワン!」


「オトナシ様、資材搬入用の通路を正面に新しく作ったんですよ」


「そう言えば店の横に通路らしきモノはあったぞ」


「そうだったのか」


 案内に気を取られて正面を良く見て居なかったが、スミレは気が付いていたらしい。


「セレーナ! おかえりなさい!」


「ポプリ! ただいま!」


 ルーナとセレーナの声を聞きつけたポプリが新工房の中から飛び出して来た。二人はそのまま抱き合いながら再会を喜んでいた。そして工房からもう一人知った顔が現れた。


「これはこれは、オトナシ伯爵様、またお会いできて光栄です。ケットシー様にはもうお会いになりましたか?」


「キャロルさん、工房の方を見学されていたんですね。ケットシー様とはまだですが、ハーシーさんとはお会いしまして、聖霊様からの依頼をこなして来たので、以前頼んだままの用事を済ませに戻って来ました。用事を終えたらすぐに戻ります」


 お互いに握手を交わして挨拶をする。


「なるほどハーシー様がお迎えに」

 ふむふむとキャロルは一人で何かを納得したかのように頷くとここに来た目的と現在の状況を話し始めた。

「実はここへはサンシーカー様の祠へ巡礼に参りました次第なのですが、こちらに珍しい魔工炉があるとお聞きいたしまして、見学させて頂いたのですが丁度この工房にこれまた珍しい素材が届いたとそちらのポプリ様からお聞き致しまして、これも聖霊様のお導きかと私も伯爵様御一行の装備製作のお手伝いを買って出た所で御座います」


「はい、キャロル様にはエルフ流のミスリルの扱い方を教わっておりました」

 セレーナとの再会の挨拶を終えたポプリがキャロルの隣に並んだ。


「ええ、そうなんです。私は鍛冶師なもので金属を叩いて作るのは出来るのですが、ミスリルを織り込む知識は持っていませんで、渡りに船で御座いました。やはり私もキャロル様と同じように聖霊様のお導きかと思い、天を仰ぎましたよ」


 更にガボットが話に加わり何となく状況を認識できた。


「なるほど、これは新しい装備を見るのが楽しみですね」


「セレーナのはもう出来上がってるよ! こっちに来て!」

「うん! ソウイチロウ様! 着替えてきます!」

「ワン!」


「行ってらっしゃい」


 ポプリがセレーナとルーナを連れて新工房の中へと入って行った。俺達はガボットの案内で中の様子や魔工炉を見学させて貰った。魔工炉は通常の炉よりも大きく、聞いていた以上に迫力がある。見学の際も稼動中でこちらから送ったミスリルを精錬している最中だった。だが以前の炉よりは熱気が無いように感じた。


「稼動中だともう少し熱気があるかと思いましたが、そうでも無いんですか?」

 

「はい、仰る通りです。炉から出す際にはかなりの熱が出ますが、ふたを閉じてる間は通常の炉よりも漏れてくる温度は低いです。これも魔工炉の特徴なんでさぁ」


 魔工炉自体が超高温に耐える素材と仕組みを用いている為、遮熱性が恐ろしく高いとの事だった。確かに通常の炉では溶かせない材料ならその温度に耐えられる素材でなければならない訳で、それと合わせて魔法を用いる事で外部への放熱を押さえ内部の融点を上げている。さすがは魔法だ。素晴らしい。


 みんなで炉の説明を聞き、実際に彼が加工する様子も見せて貰った。


「鉄を打ってる所は何度か見た事はあるが、ミスリルを打ってる所なんて初めて見たぜ。なんていうか・・・・・・カッコいいな。ガボットさん、やっぱり鉄とは色々違うのか?」


 ダリアが熱心に質問をするとガボットは嬉しそうに答える。


「ああ、全然違う。珍しい素材だからあまり打つ機会は無かったが、この感触は鉄や黒鉄とは大分変る。鉄よりも力を入れなきゃいけないんだが、鉄より繊細に扱わないと良い物が出来ない。この加減が難しいんだ。職人泣かせの素材だが、だからこそそいつの腕が試される。それがミスリルだ」


「おお! そうなのか! やっぱりガボットさんはすげえな!」


 ダリアがガボットを褒めちぎると、彼は一瞬かなり嬉しそうに表情を緩めたが、周りの目を気にしてすぐに元に戻した。


「ありがとよ! お嬢ちゃん!」


(若い女性に褒められたんだからもっと素直に喜べば良いじゃないですか。誰も気にしませんよ)

(な!からかわないで下せえオトナシ様)


 俺はぶっきらぼうに照れ隠しを言うガボットの横に立ち、小声で彼を揶揄(からか)う。


「皆さん! お待たせしました! 記念すべきバッチオ新工房の新作装備の第一号を来たセレーナの登場でーす!」

「ワォォォォォォォン!」


 オッサン二人がじゃれ合っていると奥からポプリがやってきて、着替えを終えたセレーナの登場を飾る挨拶を元気よく述べた。

※この中の半日は大体6時間程度で考えておりますので、半日と表記があった際にはその位の時間経過でご想像頂ければ幸いです。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


今年も残す所、二週間を切りました。

年末年始とバタバタしており、投稿の頻度は落ちていますが年の瀬も頑張って投稿したいと思います。


いつも読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!


少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。

これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。


誤字報告なども頂ければ幸いです。


今月も頑張ります!

宜しくお願いします!

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