―破壊と混沌の大森林③―
「グァァァァァァァァ!」
ベヒーモスは尻もちをついている惣一郎めがけて突進する。
「やばっ」
ベヒーモスが惣一郎へと迫り、残り十メートルの距離まで接近するとベヒーモスの足元が大きく崩れた。
「ガアァァァッ!?」
ゴシャァァァン!
ガラガラと大きな音を立てて崩れる地面に飲み込まれていくベヒーモス。自身の勢いが仇となり、バランスを崩して穴の中へと落ちていく。
「ワハハハ! バカめ! 引っかかった!」
我ながら敵キャラっぽい笑い方をしてしまったと思ったが、こういう時はしっかり楽しむのがセオリーというものだ。とはいえこのチャンスを逃してはいけない、すぐさま穴の中のマヌケに強力な一撃をお見舞いしてやらなければと、【キューブ】から対物ライフルとイヤーマフを取り出して杖と交換する。
「撃てるだけ撃ち込んでやる!」
ダーン! カシャン! ダーン! カシャン! ダーン! カシャン! ダーン! カシャン! ダーン! ガチャン!
辺り一面に銃声が響き渡る。
俺は発砲と装填を繰り返して弾倉を一つ空にする。
ベヒーモスが深い落とし穴の底から這いあがろうと藻掻いている所を前足に三発、肩付近に二発と銃弾を命中させる度に巨体がのけぞる。銃弾は奴の体を貫きはしないが対物ライフルの威力は奴の硬い皮膚に対しても申し分ない様だ。
弾倉の再装填に入ると、穴の底で青白い光が点滅するのが見えた。
「あ、やべっ」
バチバチバチン! バシャァァァンッ!
「グァァァァァァァァ!」
咆哮と共に穴の中とその上空から前回とは比べ物にならない位に威力を増した太い稲妻が辺り一面に降り注ぐ。
「二人共避けろ!」
咄嗟にルーナとセレーナに警告を出すが、既に二人は遥か向こうへと退避済みだった。
「ソウイチロウ様! 避けて下さい!」
「ワン! ワン!」
降り注ぐ雷を避けるようにその場から退避すると同時に避雷針代わりにアースグレイブをバラ撒き、同時に地面すれすれの高さでなるべく遠くへと丸太を投げる。
【アースグレイブ】×3
ババババババン!
バッシャ――――ン!
射出された槍の何本かが避雷針の役目を果たし、雷に打たれてくれた。
【シフト】
丸太と位置を交換して退避を終わらせると、既に落とし穴から地上へとベヒーモスが這い上がっていた。その目は鋭く赤く光り、身体全体からも赤い湯気のようなものがモヤモヤと霧のように見える。
「怒り常態か」
平常時と怒り時で攻撃形態が変わるのもセオリー通りだが、ベヒーモスの場合、どの状態でも激しい攻撃が来るのは変わりない。既に知っている攻撃はいくつか見たが、怒り状態の攻撃は更に激しさを増すのだろう。まだ出していないと思われる攻撃を予測しながら次の一手を考える。
「音無伯爵!」
「ソウイチロウさん!」
無限とも思える程、次々に這い出てくるアンデッドとモグラ叩きのような戦闘を繰り広げているハーシーとダリアに名前を呼ばれ、彼女達の方へと振り返る。
「どうした!?・・・・・・な、なんだアレ?」
彼女達の見ている方向へと視線を向けると、遠くの空が黒く染まっていた。
「虫が来るにゃ!」
一瞬、ハーシーの言葉の意味が解らなかったが、アンダンテが即座に森の目を発動させてその意味を理解させてくれた。
空を黒く染めていたのは空を飛ぶ大量の虫の魔物だった。
「虫の大群!」
「ゴァァァァァァァァ!」
黒い空に気を取られているとバーサク状態のベヒーモスがこちらへと飛び掛かって来ていた。
「ソウイチロウ様!」
「ワン!」
バゴンッ!
惣一郎へと突進するベヒーモスの横っ面をルーナとセレーナの二人が同時に殴りつけた。
「ガアァァァッ!」
突進の勢いを削がれたベヒーモスの攻撃は俺の横を通り抜けた。
「ありがとう! 助かった! 俺はこのまま虫の大群を排除する! 二人はもう一度デカブツの気を引いていてくれ!」
二人にお礼と指示を告げながら銃を杖へと持ち替える。
「出来るだけ数を減らしつつ、森へのダメージも抑えなきゃ・・・・・・」
既に東京ドーム数個分はある大きな範囲が荒れ地と化している大森林。恐らくベヒーモスの死と同時に発動すると予想している魔法が更に広範囲の森を消し飛ばす事を考えると今さら感はあるが、自分の攻撃の影響で森が消えるのは心が痛む。複雑な気持ちを含んだまま虫の大群へ向かって古代級の魔法を放つ。
「我求めるは汝の力、
我の魔力を贄にして、
等しく全てを凍て尽くせ」
【ブレスオブアイス】
魔法の発動と共に空へと暗雲が広がり、虫達の飛ぶ空の光を遮り始めると突風と共にキラキラと光を反射させながら氷の結晶が黒く染まった魔物の空を白く染め上げていく。
ビュウゥゥゥゥゥ。パキン! パキン!
猛吹雪の風音の中に氷の結晶が勢いよく魔物達に当たる音と、そのまま瞬時に凍りつく音が混じり、小さな破裂音を出している。
「空を飛んでるのは粗方落とせたか」
地上を這う虫達は森の木々に守られて猛吹雪の効果は下がっている。とは言え大森林は部分的にだが凍りつき、その冷気がここまで伝わってくる。
ドドドドドドドドドド!
森を抜けて来た虫達がベヒーモスの作った荒れ地へと地鳴りと共になだれ込んでくる。虫達の侵入のタイミングに合わせ、森の手前の荒れ地へと次々に魔法を放つ。
【ジオグレイブ】
【アサルトブリザード】
【タイダルレイン】
ジオグレイブで敵を囲むように進路を塞ぎ、アサルトブリザードで範囲内の虫を串刺しにして動きを止め、ダイダルレインで切り刻みトドメを刺す。
地鳴りよりも激しい爆音が数分の間、響き渡ると虫の大群はその殆どが動かなくなっていた。
「頼むからこれ以上は来ないでくれよ」
若干フラグを立ててしまったような気がするが後の祭りである。
メキッベキ!メキメキ! ベキンッ!
森の目を使うまでもなく虫の来た方向を見ると森の木々が不自然に波打ち、何かがこちらに近づいてくるのが分かる。
「グァァァァァァァァ!」
森に注意を向けていると後方からベヒーモスの咆哮が聞こえた。
「避けて下さい!」
咆哮と同時にセレーナの叫び声が聞こえた瞬間その場を飛退いた。
ドォォォォォン! バチッバチン!
「くっ!」
「ソウイチロウ様!」
避けるのが少し間に合わず、無差別に反射した稲妻が少しだけ左肩を掠る。
腕の防具が割れてはじけ飛んでいたが、腕は血を流す程度で済んでいた。
「掠っただけでこの威力か」
ベヒーモスを視界に入れつつその場から遠く離れ【キューブ】からポーションを取り出して左腕の出血を洗い流すように振りかける。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
波打つ森側を背にしているが、足裏に地響きが伝わってくる。
「まったく、あっちもこっちも忙しいな」
左腕の傷口はすぐに塞がったが、雷が掠ってしまった際の帯電による体の痺れは残っている。急いでもう一本ポーションを取り出すと一気に飲み干し、ついでにマジックポーションも飲んでおく。
ベヒーモスからは十分に距離を取り、状況を確認する。
「さて、次は何が来る?」
杖と交換で【キューブ】から剣を抜き、足元へ迫りくる地面の中の魔物に集中する。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今年も残す所一ヶ月を切りましたが、12月も頑張って投稿したいと思います。
いつも読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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今月も頑張ります!
宜しくお願いします!




