―破壊と混沌の大森林―
ドン!
目の前の木々を吹き飛ばして現れたソレは巨大なクマのような筋骨隆々の体躯の持ち主で、頭には太く鋭い角が二本、稲妻を迸らせ、どす黒い紫色の肌は不気味な模様が刻まれ、森の巨木より太い4本の脚の先には大地に深く食い込んだ黒く鋭い爪が光る。
「敵にゃ!」
「デカい! デカすぎだろ!」
「こんな魔物見た事も聞いた事もありません!」
「この世界の魔物では無い! 用心しろ!」
スミレの声で止まっていなければ、今頃は吹き飛んだ木々と同じ運命を辿って居ただろう。目の前の巨体のソレは惣一郎の知る龍よりは小さいが、とてもじゃないがまともに戦うには危険過ぎる。全員は素早く武器を構えて戦闘態勢に入る。
「こ、こいつは・・・・・・知っているぞ」
「惣一郎!?」
突然現れた目の前の敵の姿には見覚えがあった。この世には存在しないはずの架空の生き物。それは以前迷宮で見たキマイラとは比べ物にならない程の凶悪性を持ち、破壊と混沌の権化のような力の持ち主。
「ベヒーモスだ」
「惣一郎の世界の魔物か!?」
「いや、俺の世界に魔物は居ません。こいつは架空の生き物。想像上にしか存在していないモンスターです」
そう、現実には居る筈の無い生物だが目の前に存在している。惣一郎はその理由をすぐに理解できた。いや、既に想像は出来ていた。出来ていたが今までは確証が得られなかっただけで、今回の事でその確証が得られたのだった。
「敵のワンダラーの中には俺と同じ世界の人間が居る!」
「「「「!?」」」」
「全員大きく後ろに避けて!」
俺の言葉と同時にベヒーモスは攻撃の予兆を見せた。
驚く皆を攻撃から守るためにいち早くその場からの退避を叫んだ。
全員の退避とすれ違いに上空から複数の稲妻が落ちてくる。
バリン! ババン! バババン!
「体が痺れてる!?」
「ビリビリします!」
攻撃は受けていないが全員の身体に僅かだが電撃が走るのが見える。勿論俺自身にも体に痺れがある。
「コイツは雷を使う魔物か!?」
「雷以外も使います! 気をつけて!」
必死に記憶の中のベヒーモスの情報を思い出す。ゲームの中の敵と本当に対峙するとは夢にも思わなかった。ほんとうに今更だが、これは全て夢では無いのかと疑いたかった。
次々に俺達めがけて落ちてくる雷を避けながら全員に【メタル】をかけ始めると、ハーシーの姿が見えなかった。
「後ろがガラ空きにゃ」
ハーシーはベヒーモスの後方から攻撃を加えるべく素早く移動していた。両手には魔法で作られた半透明の格闘武器が握られていた。彼女の武器は三本の鋭い爪が付いたクロータイプの格闘武器だった。
ハーシーの姿が確認出来た時には既に彼女のクローがベヒーモスの左後ろ太腿を傷つけていた。
ボン!
「にゃ!? 火が!」
ハーシーの攻撃が当たると、彼女は一瞬炎に包まれた。
「炎スパイクか!? あ、まずい!」
後ろからの攻撃にはカウンター攻撃を使う奴も居たはずで、その予備動作と思える行動を見せたベヒーモスを見て瞬時に確信を得た。
攻撃を終えて着地に入るハーシーをベヒーモスが睨んだように見えた瞬間、奴を中心に半径百メートルの森が吹き飛んだ。
ドォォォォォォン!
周囲には土煙と根こそぎ吹き飛ばされた大木とその大量の枝葉が巻き上げられる。
「にゃ?!」
「う、・・・・・・生きてる?」
「皆さん大丈夫ですか!?」
「ワン!」
土煙が消えると全員が元の場所から吹き飛ばされずに居た。
ベヒーモスのカウンターが発動するコンマ数秒前に、アンダンテが思考加速を発動してくれたおかげで全員へのメタル付与とハーシーへの【シフト】を終わらせる事が出来た。
「スミレ様!?」
「フン、ちょっと痒い程度だ。問題無い」
スミレが全員の盾となるべく、範囲防御の術を発動してくれていたお陰で全員が吹き飛ばされずに済んでいた。
「後ろからの攻撃は今のようなカウンターが来ます。ただ、予想してたのとは威力が違いました。悪い方にですけど」
「わかった。すまなかったにゃ」
「いえ、まだ油断は出来ませんが、取り合えずはそれを気を付けてくれれば大丈夫です」
記憶にある全てが当てはまる訳では無いだろうが、特徴的な攻撃に関してはある程度覚えている。そして最悪なのはそのすべてがこの個体に仕込まれていた場合だ。
奴の攻撃により既に周りは木が無くなって更地のようになっている。動き易いのは良いがこのままでは森が無くなってしまう。早めにけりをつけたいが、倒せば倒したで天災が確定している。
「くっ・・・・・・厄介な奴を」
「惣一郎! 迷っている暇はないぞ!」
「スミレ、このまま少し時間を稼いでほしい!」
「わかった、任せておけ」
考えて居る間にもベヒーモスは両前足と先端に鋭い棘のついた長い尻尾を使い、薙ぎ払いのような攻撃を繰り出してくる。
対策を考える間、スミレに時間を稼いでもらう事を頼んだ。
「竜巻です!」
「マジかよ!? なんだあの数!」
攻撃を続けるベヒーモスの周りに黒い竜巻が何本も出現すると、それぞれが個々を狙って追尾してくる。
「ソウイチロウさん! これどーすればいい!?」
ダリアが円を描くように竜巻から逃げつつ距離を取ってから対策を聞いてきた。
「追尾速度は変わらないので追いつかれないようにすればそのうち消えます!」
「了解!」
ダリアは追跡をかわしながらベヒーモスへにツヴァイダガーを投げつけては引き戻し、攻撃繰り返している。
メリッサは竜巻から逃げるのに集中している様子が見れた。
セレーナとルーナは上手く連携しながらベヒーモスの正面から攻撃しつつ、竜巻をベヒーモスに当たるように誘導している。二人は地面ごと削り取るような敵の素早い突進を軽々と躱している。
「あの速い攻撃を躱せるのか。凄いな」
俺は二人の身のこなしに感心しつつも、竜巻を消し去るべく全員の位置とタイミングを見計らい走っている。
「他のメンバーを巻き込まないように逃げなければ」
幸いなことに逃げ続けるのに邪魔な障害物は無い。敵との距離を取りながら竜巻をかわすには十分なスペースもある。スミレもセレーナとルーナと同じようにベヒーモスの正面へと走り、奴の顔や前足を殴りつけている。少し離れて様子を窺っているハーシーも同じ方向に居る事を確認した。
「雷が来ます!」
ベヒーモスの角への帯電が始まっていたのを確認出来た為、その後の攻撃予想が付き、みんなに警告を出せた。
「グァァァァァ!」
ベヒーモスの咆哮と共に再び辺り一面に稲妻が降り注ぐ。
「キャァァァァァ!」
「くぅっ! 痺れる!」
やはり当たらなくても体に雷の痺れがまとわりついて、多少だが動きが阻害されている。
「これ位なら致命的にはならないが、厄介だ」
稲妻が降り止む頃、メリッサがパーティー全体から大分離れたので彼女を追尾する竜巻目掛けて魔法を放った。
【クラスタルストーム】
竜巻と同じ方向へと移動しながら渦を巻く地面が竜巻を飲み込んで相殺する。
「よし、上手く消えた。体制を整えてダリアを補助してくれ!」
「ありがとうございます! 了解しました!」
地形魔法で相殺出来る事を確認し、次の竜巻を消しにかかる。
「ゴァァァァ!」
正面で戦う三人の竜巻がベヒーモスに当たると奴の皮膚を少し削り竜巻が消えた。
(あっちは大丈夫だな)
「ダリア!、こっちに走って来い!」
「わかった!」
ダリアに合図を出して、もう一度クラスタルストームで竜巻を消す。今度は俺を追尾してる竜巻も一緒に魔法に巻き込んで消した。
「よし、ハーシーさんのもベヒーモスにぶつけて消せたようだ」
よそ見をしてる余裕は無かったが、何度かベヒーモスの叫び声のようなものが聞こえていた。
こちらの竜巻が消えた後に見渡すとハーシーを追尾していた竜巻も消えていた。
「あとは倒すだけか」
ダリアとメリッサの二人と共に敵の下へと駆け寄り始めると、周囲の地面からアンデッド達がワラワラと這い出てきた。
「キュリアンか!?」
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます!
修正させて頂きました。
今年も残す所一ヶ月ですが、12月も頑張って投稿したいと思います。
いつも読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
誤字報告なども頂ければ幸いです。
今月も頑張ります!
宜しくお願いします!




